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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「もういいよ! ケイトちゃん代わって!」

 リュイナはついに匙を投げて、ケイトを抱き上げると自分のいた場所に鎮座させた。

 困った。ちゃんと徹甲弾っぽいもの装填したはず……というか砲弾が一種類しかない。この戦車硬すぎる。

 ……でも、まだやれることはある。次の弾を装填しよう。

「足を止める」

「ケイトちゃん、お願い!」

 敵戦車は後進しながら、車体ごとこっちに向こうとしてる。でも、わたしたちの方が早い。周囲の雑魚に邪魔されないように、みんなが片付けてくれた。

 再度、こっちの大砲が火を吹く。砲身が後座し終わって複座を始めても、空薬莢は出てこない、面倒な大砲。また準備栓を押して閉鎖機を開放して、薬莢を排出して次の砲弾を突っ込む。

「もう一発」

「できた」

 言い終わると同時にケイトが3発目を放ち、さらに続けて4発目。ここでようやく、連続して砲弾を受けて壊れた左の前転輪から履帯が外れて、ひとまず車体の方は動きを止めた。あとは砲塔がこっちを向く前に逃げるだけ。

「今度こそやった! 流石ケイトちゃんとアトレイシアちゃん、カッコいい!」

「しめたっ、いまこそ戦車を仕留める絶好の機会だぞ」

 向かいにいた、血気盛んなマツダと部下たちが手に砲弾を持って戦車に近付こうと飛び出したのが見えた。彼らの口は攻撃精神にあふれていたけど、口だけではないらしい。

 まあ、見てるこっちは撃たれやしないかとひやひやものだけど。狙わえてる狙われてる。

「まってまって! もういっこ来るよ!」

「ええい、くそっ、小癪なヤツ。君たち、早く城壁に戻れ。ここは開けすぎだ」

 マツダたちはそう言いながらも構わず戦車の下に潜り込むと、エンジンの下に砲弾を積み上げ手榴弾を添えて走り去り、ひとりはその間に車体へよじ登って、シュトリーナが爆破した穴に手榴弾を投げ込んだ。瘴気にあたって少しふらついてるけど、なんとか逃げ切れそう。

「完璧だ」

「こいつでお陀仏してくれよ」

 砲弾が爆発すると、戦車は大きく揺れたあと、砲身を垂らして完全に動かなくなった。度胸のある人たちだ。スズリカのおまじないも効いたのか、大物食いができたことに「万歳」の声がこだました。

「おおーっ、ニンゲンが仕留めた!」

「ここまでやったんだ、雑魚にやられちゃかなわん。あとはなんとかしてくれ」

「言われるまでもありません。あとは適当なところで伏せていてください」

 あとから門を越えてきた戦車がマツダたちに向かって発砲したかと思えば、速力を上げて彼らに向かって突き進んでいき、続いて現れたトラックからは銃を持った兵士たちがバタバタと降車してわたしたちを狙う。トラックにくっついてるのも合わせて、機関銃が4つ。これがあとちょっと早く来ていたら危なかった。何せ隠れるとこなんてほとんどないし。

「逃げろ逃げろ!」「早く中に入って!」

「おいキツネども、こっちだ!」

「わたしたちが火線を惹き付けるから、全員戻れ」

 逃げを打って戻りたくても、ゲートハウスは門が壊れている以外はほとんど無傷で、怪我人を運び込むには素直に門脇の出入り口の扉を叩くしかない。そうはさせじと近付く先から機関銃が火を吹くものだから困っていると、中にいたオオカミ亜人たちがところどころで壁を蹴り崩して、逃げ込みやすくしてくれた。

 スズリカとヘルマーナも囮になってくれて、なんとか城壁の中に逃げ込んだときには腕から脚から背中から、もう何処を怪我したのかわからないくらいあちこち痛くて、なんだかいらいらしてきた。夜戦ならここまで命懸けで駆け回らなくてもいいのに、真っ昼間に戦うからいけないんだ。

 みんなもいろいろと言いたいことあるだろうけど、しゃべる余裕もなく床に突っ伏して呻くばかり。そこにニホンの歩兵隊長、オオズミが駆け寄ってきた。

「どうなっているのだ。戦車がやられているのが見えたぞ」

「あー、オオズミか。マツダがな、でっかい戦車仕留めたんだ。でももう1両いるしさ、ごっついトラックが機関銃撃ってくるからさ、やってられねーよ。あいつら北の方からわらわら湧いて出てくるし、どうにかできねーかな?」

「そうか、戦車を仕留めたのか。それで中尉殿と乗員はどうなっておられる」

「全員無事。まだ外だけど、ヴィリアたちが護ってるから大丈夫だろ」

「君たちの損害はどうか」

「アクラーナがやられたけど、他はみんな生きてるな」

「ゲートハウスは落としたましたが、敵に囲まれています。増援をいただかないと維持できませんね……」

 みんな、派手に撃ちまくられてた割にはしぶとく生き残ってる。オオズミはそこまで聞いて、ほっとした様子で頷いた。しかしながら、カトリナから話を聞く時点では悪くないって顔だったオオズミも、ヘルマーナから厳しい現状を伝えられると眉間にしわを寄せて難しい顔に早変わり。

「死んでいないにしても、かなりやられていますね。援軍が欲しいなら安心してください、我々がいます。あとは任せて休んでいていいですよ。――行きましょう、族長」

 オオカミ亜人のケーニヒが落ち着き払った様子でヘルマーナの肩に手を置き、族長に進言すると、チャニはこくりと頷いて二人で外に飛び出していった。この二人ならそうそう怪我はしない。もう外に残ってるの族長と側近ばっかだし、銃撃ちまくられたって勝てるんじゃないかな。

「……オオカミ亜人って機銃弾でも耐えられるんですか?」

「いいからおれたちに任しとけって。お前ら、揃いも揃って血まみれじゃんか。銃の弾って刺さったままだと身体に悪いぜ。――ベルケ、北の通路、上は任せた。それとコーニャもとっとと指示出せ! お前も族長側近だろ!」

「は、はいっ!」

 隅っこで気落ちした様子を見せていたコーニャが、アールグニーに雷を落とされて、震えた声で上に移動するようみんなに指示を出した。どうにも様子がおかしい。

「コーニャ、元気出してよ。コーニャは悪くないからさ」

「そう思えたら、ラクなんですけどね……」

 しかも結構重症っぽい。

「みんな、こっちこっち。ヤンコフスキたち来たよ」

 上にあがる途中、門の開閉装置が空けた穴から外の様子を見ていたサモフィナが、撃破されたペスティス戦車の向こうに見慣れた騎兵が姿を現したのを教えてくれた。後ろからわたしも顔を覗かせてみると、例のぱんつぁーふぁうすととか言う棒を小脇に挟んでいるのが見える。

「――って、3人しかいないじゃん! どうしちゃったのヤンコフスキたち!?」

「えーっと、ボロフスキと……パトラフスキと……ヘルツフェルトだけ? やられちゃったのかな?」

 訂正するとひとりはパトラフスキじゃなくてパデレフスキ。ポーランドの人たちは「~スキ」が多くてごっちゃになって困る。ついでにパトラフスキはエルンヴィアの人で、これまたややこしい。なんでもといた世界も使ってる言葉も違うのにネーミングがかぶるんだ。

「反転してきたタナトスに足止めをくらっているんでしょうね。――あ、いや、また騎兵が来ましたよ。……あれは?」

 3人に遅れてやってきた騎兵はポーランド槍騎兵じゃない。ハードレザーを身に着けた騎兵なんて久しぶりに見た。

「この領地の騎兵だね。弱そう」

 心許ないけど、助っ人に来てくれたなら嬉しい――とか思ってたら、ヘルツフェルトが槍をボロフスキに預けてピストルを抜き、後続の騎兵たちに発砲した。どうやら助っ人じゃないみたい。

「おっ、追いかけられてるみたいですよ……?」

「おーい! こっちは戦車がいるよーっ、あぶなーい! あぶなーいっ!」

「はぁ……再確認できたわ。ニンゲンって自分たちで言うほど賢くないのね。状況も理解できていないのかしら?」

 戦車は突然現れたニンゲンたちに気を取られたのか、足を止めてる。ヘルツフェルトたち3人は注意を引かないよう撃破された戦車の後ろに入ってやり過ごし、追いかけていたこの領地の兵士たちはその場で止まって引き返そうとした。

 完全に姿を晒した状態で停止した絶好の獲物に、機関銃が火を吹いたのは当然のこと。おまけに一発砲弾も追加されると、彼らはもう死に物狂いで逃げ出した。

「おぉ〜、決まった」

「何しに来たのアレ」

 わかりません。ニンゲンとわかり合うって大変。

「ほら、道草食べてないで、キツネ亜人は上だよ。風通しが悪いところにいるのは危険だから、負傷者も動けるうちに場所を移すべきだね。医者の言うこと聞いてくれるかな?」

 盛り上がりの方向が逸れて面白くなってきたところで、医者と言っても歯医者のベルケがわたしたちに移動を促した。確かに、城壁の中は瘴気が大分薄れてはいるけど、危険なことに変わりないかも。ケイトが脇腹と背中を怪我してるし、わたしもまたあちこち怪我しちゃったから、素直に従うとしよう。断ろうにも、怪我人はみんな集まってきたエルンヴィアとニホンの兵士たちに担がれて移動させられてるし。

「はははっ! 仲間割れしてるよあれ! ――いてっ」

 面白がってその場に居座って観戦を始めたサモフィナは、「早くいけ」とベルケからチョップをくらって、怪我人を運んでいたパーキーについでに掴まれて離れていった。

「いやー……仲間割れとは違うんじゃないかな?」

「むしろ仲間割れしてるのはわたしたちとあのニンゲンだからねぇ。ボロなんとかスキたちは何やってくれてるんだか」

 そう言っているうちに、そのボロなんとかスキたちが戦車を仕留めた。まず、領地の騎兵に気を取られてる隙に背面に回り込んで一発。エンジンが止まって砲塔だけ動いていたけど、余所を向いたところで車体の正面に回ってもう一発。鮮やかな手並み。

 そしてここでベルケが、いつまでも離れないわたしたちに「にこっ」としてきたから、わたしもここまで。ほんとは手間で族長たちが大暴れしてるのとかももっと見てたい。

「やっぱりこの世界のニンゲン頭おかしいんだよ。同じニンゲンでもわかり合えないんだよ」

「それを言ったら、わたしたちも同じキツネ亜人のこと悪く言ってたりしたけどね……」

「あ、それに関しては言い訳できない。正直そんなのばっかだし。でも、だったらあのニンゲンとも、もしかしたら関係改善いけるかも! 何人か死んでるけど! あははっ!」

「おびき寄せてタナトスに撃ってもらったようにも見えなくない状況ができあがってたけど、ますます誤解深まってない? 濡れ衣着せられて一方的に恨まれるよきっと」

「うん。ニンゲン面倒くさいね」

「ホントだよ」

「おいおい」

 この場にいるニンゲンのことははばからずサラリと悪口が混じる。

「まあ、その点もわたしたちだって、いまもそういうやついるしさ、どっちもどっちだよ」

 城壁の上に出たところで、カトリナが冗談まじりにそう吹っ掛けると、自然と周囲の視線がリティアに集まった。

 あ、わたしとリティアのこと言ってるんだ。わたしが里にタナトスを連れてきたんだってリティアが言ってたし、その辺のこと濡れ衣着せてるって思われてるのかな。

 言った本人はそこまで悪意があって言った風ではなかったけど、うつむいていたリティアは鬱陶しそうに目を細めて小さく舌打ちした。

「あ? 何よカトリナ。いまがどうであれ過去は変わりやしないのよ? 事実に誤解も濡れ衣もないわ。ふざけたこと言ってる余裕があるなら下行ったら?」

「あ、わりぃわりぃ。冗談だよ」

 リティアは腹を立てて周囲の子を睨みつけると、最後はわたしと目が合って、また舌打ちしてそっぽを向いた。

「アトレイシアちゃん、たまには言い返したら?」

「……いい。許してくれなくたって。それでもわたしは、一緒に戦うから」

「ふん、仲良くするふりしてればニンゲン様にもよくしてもらえるからって、必死なものね。それになによ、あんたたちもニンゲンにおぶってもらって、触ったらじんましん出るじゃなかったの? 口先ばっかじゃない」

「ちょっと、リティアちゃん!」

「お前さぁ、わたしの言ったことが気に入らなかったなら悪かったよ。だからってみんなのこととやかく言うなよな」

 怒ったリティアを睨み返せるこの子、カトリナといえば、妖獣人キツネ亜人のカクリナ、オオカミ亜人のアールグニーと並んで喧嘩っ早いとかなんとか。ただこれまで、リティアとわたしの関係については踏み込んで来なかったから印象は薄め。

「日頃人のこととやかく言ってる奴にだけは言われたくないわ。アンタ、いつもそうやってその場の都合次第ね。そんなんだからあてにされないのよ」

「んだとテメェ! オメーがアトレイシアのこと悪く言って、みんなにそう思わせてただけだろうがよ! わたしたちのこと騙しといてよく言えたもんだな!?」

「はぁ!? 騙してなんかないわよ、人聞き悪いわね!」

「おいおい、喧嘩はやめてく――」

「あんたたちは黙ってなさいよ! わたしたちのことなんて何も知らないくせに!」

 仲裁に入ろうとした兵士は怒鳴りつけられて口をつぐんだ。もとよりリティアはニンゲンのことをはばかって遠慮するようなことはない。

 なんだかこっちもこっちで仲間割れが始まった。どうしよう、リティアはわたしが口出すと絶対もっと怒るし、コーニャは頼りにならないし、スズリカかヘルマーナ、ヴィリアでもいい、早く来てくれないかな……。

手直ししようと思って読み返してみればアールグニーとカトリナの一人称逆になってるし、ヘルマーナとアクラーナ入れ替わってるしで、先が思いやられますよ。愉快だね。

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