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「よくやったぞ、いい働きだ。先にいくから武器を回収してから来るといい」
「3人ともかっこよかったかもぉ!」
「いやぁー、わたしも負けていられないねぇ」
「お疲れ様です」
いったん側防塔を下りて、投げたナイフを拾っている間にみんながてくてくと通過していく。足元が危なっかしいことになっているから、いまここで走って転んだらかなり命が危うい。
「お、おいていかないでくれよぉ。これ拾うの時間が掛かるんだよぉ〜」
「はいはい。――アトレイシア、あんた先に行ってていいわよ。わたしがこの子についててあげるから」
「ん。はいこれ。リティアのナイフ、拾った」
「あら、気が利くじゃない。お礼は言わないけど感謝はしておくわ」
リティアが何処か機嫌がいいのか、普通に接してくれている気がする。言葉にいつもの嫌味っ気がない。不思議な感覚。お陰でわたしもいい感じ。
「……何よ? あんた見てるとムカついてくるからさっさといきなさい」
「ん」
どうやらもう、そうでもないみたい。いつもの感じ。
このあと、途中躓いて転げ回った子以外は、無事に門を囲むゲートハウスに着いた。転んだ子は死ぬかと思ったと泣きべそかいてたけど、怪我はそんなに酷くない。
「遅かったか。内部の瘴気を戦車に抜いてもらおう。いまの内に怪我の応急処理を済ませろ。――コーニャ、瘴気が抜けるのをこの場で待つ必要はない。何人か連れて向かいを占拠してくれるか?」
「わかりました。――えーっと、サモフィナちゃん、ナイディナちゃん、カピターナちゃんと、リティアちゃんとヤコアちゃんとアクラーナちゃん、頼めるかな?」
スズリカは近くまで前進してきているマツダの九七式の砲撃を待ち、コーニャは選抜した6人を連れて、屋根伝いに向かいの城壁を目指した。扉を開け放っていくらか瘴気を抜きながら、砲撃を待ってゲートハウスの内部を制圧する。
マツダの戦車も随時交戦しながら移動していたから、追い付くまでもうしばらくかかる。それまで、わたしたちはちょっと休憩。武器を回収し終えて急いで駆けてきたところで、向かいの制圧にまで駆り出されたリティアはちょっと気の毒。別の子連れてっても制圧できると思う。
「順調だねー」
「でも、つかれたよぉー。お腹空いたぁー」
「足元から力が抜けていきやがる。もう走ってらんね」
「あー、草の上でごろごろしたい」
「戦車まだかな。どんどん戦って早く終わらせたいな。お腹いっぱい食べて夜まで寝たいな」
残ってるみんな、若干やる気ないけど、それは余裕がある証。みんなまだ元気。
みんな元気なのは、戦いを楽しんでるのもあるけど、もう一つ理由をあげるとすればここに漂っているにおい。血のにおいが風に乗って鼻孔をくすぐる。ニンゲンの血だ。
「あれは王立騎兵……所属は第2軍だな。ベーレーレンの正規軍も、酷くやられてるじゃないか」
「あとで拾って食べようよ、あれ」
「ウマも食べると美味しいよ~、ごちそうの山だよ~」
西側を見下ろすと真新しい死体があちこちに転がっている。北の方にいた騎兵隊の人馬と、その少し奥で累々と横たわっているのはここの領主の配下らしい歩兵の一団だ。頑張ってここまではやってきたらしい。
「こらこら、危ないから不用意に頭を出しては駄目ですよ。下から撃たれます」
「「はーい」」
怪我の手当をしていた族長側近のヴィリアに注意されると、みんな姿勢を低くしてひそひそ話を始めた。
「族長、味方の戦車が来る前に、何人かで門前に陣取ってる大砲を制圧し――」
続いて意見具申を始めたヴィリアはそこで言葉を切って、城壁の東側の縁に飛びついた。みんなも話を早々に切り上げて、耳をそばだて始めたし、流石、キツネ亜人は音に敏感。
「族長、何か来ます」
「ああ。大物が来そうだな」
エンジン音が聞こえる。初めて聞く音だけど、間違いない。戦車か何か、外の世界の機械だ。
「――あっ、あれだ!」
東、やや右手方向から2両の戦車が、木々をなぎ倒しながら姿を現した。タナトスに侵食されて、黒い瘴気をなびかせながら真っ直ぐにこっちへ向かってくる。
いや、片方は南に逸れた。まさか、わたしたちが突入するときに崩れた場所を踏み越えるのかな。
「族長族長、戦車、戦車がきてる! おっきいの!」
「やっぱりか。くそっ、こんなときに厄介な……。――マツリに伝えろ。敵戦車接近!」
「マツリちゃーん! なんだか凄い戦車がきたよーっ!」
叫んだところで、遠く後方に置き去りにされたマチルダⅡの車内までは届かない。ひとりが全速力でダッシュしてたちまち小さくなっていった。
「うわーっ、ニホンの戦車よりおっきいよ!」
「ちょっと小さいのがもう1両。あ、里を出るときにいたやつだ」
続いてもう1両、一回り小さい戦車が、トラックを1台連れて同じくこっちに来ると、数人が戦いそっちのけで見物を始めた。わたしたちにとって好奇心は闘争心より勝る。
「巨体の割に速いぞ。倒せるのかあれは……そうだっ、開閉装置はあるか!? 門を閉めろ! こっちに来るやつだけでいいから足止めするぞ! それとヤンコフスキにも連絡だ! あそこについてきている戦車も後退させろ!」
マツダの戦車が、要精に応じて、門の周りを砲撃するために近付いてきている。あの戦車と鉢合わせたら、ちっぽけでか弱い九七式なんて鎧袖一触で乗員諸共鉄くずにされるに違いない。そうなったら我らがスズリカのおまじないがあてにならないって知れ渡って、キツネ亜人の信用問題に繋がる。良くない。
……ん。キツネ亜人に信用? もとよりあってないようなものかな。
「ぞくちょー! こっち見てるよあれ!」
「じゃあまずそこから離れろ!」
「ひーっ!」
走行中だったからか撃ってくることはなかったけど、好奇心で馬鹿をしている暇はなさそう。早く門を閉めよう。
ゲートハウス内部は、上部区画だけなら瘴気が抜けてきている。突入して間もなく、巻取り式の開閉装置を見付けた。ハンドルを回してロープを巻き取れば門が閉めれると、ケイトと二人でハンドルに飛びついて回そうとしてみたけど、重くてびくともしない。
「んんんんん……」
「……乗ってもダメだ……」
右でケイトが足をぶらぶらさせている。ちっちゃいから全体重をかけたところでたかが知れてる。可愛い。
「わたしも手伝うよ! ――むむむむむ……」
リュイナがきてくれてようやく動き始めた。でもこの門、たぶん外で門自体を押しながらロープを巻き取って閉めるのが正しい。
「もう間に合わないぞ、手を離せ!」
そう言われてパッと手を離すと、壁の向こうからぶつかる音が聞こえて、瞬きしてる間に開閉装置は壁に空いた穴から外に消えていった。
戦車が来る方向に向かって開いていた門に車体がぶつかって、門をまるごと壊したついでに壁を持っていったのか。凄いパワー。
それに、凄い音だった。耳がやられる。綿詰めといて正解だった。
「……やっほー」
「やっほー」
向かいの塔にいた子とお見合いして、挨拶したあと外に出ると、「ああ……どうしたらいいんだ……?」と頭を抱え始めたスズリカが目に映った。
「南にいったのは城壁を越えるかな」
「マツリちゃんがやられちゃうかも。ねぇねぇスズリカ、戻った方がいいかな?」
向こうにはマツリを始め、大事な仲間が残っている。怪我でもされたら困っちゃうし、救援として何人か戻すべきかどうか、スズリカは数秒考え込んだ。
「……いや。向こうは戦車を撃破するための大砲がある。ヘッドが上手くやってくれると信じよう。ホロビもいるしな」
その言葉の直後、南の方で土煙が上がった。予想通り、城壁を踏み越えたらしい。ホロビは心配しなくてもいいだろうけど、本当にマツリは大丈夫なのかな……。
明けましておめでとうございます。2018年ものんびり続きます。




