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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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       *       *


「どうどう? これはいい感じじゃない? さあヤンコフスキさんコメントどうぞ!」

「……何故わたしが?」

 昼食を済ませたわたしたちを待っていたのはお着替えお披露目会だった。

 町まで買い出しにいっていた子たちが昼前に戻ってきて、かき集めた衣服を配ってくれたけど、わたしとケイトの分はニンゲンの女の子がパーティーで着るような服を渡された。要するにドレスだ。どうしてこんなものを……。

 それと、何があったか知らないけどニンゲンの女の人連れてきてごはん時にこっそりばらしてたけど、買い出しにいかせる人選間違ってたんじゃないかな。おこぼれもらえて美味しかったから、わたしも誰も口に出して言いはしないけど、絶対良くないと思う。

 いま、ここにいるヤンコフスキがわたしたちの昼のおかずを知ったらどんな顔するかな。もし仲間になってくれてるニンゲンに知られたら大問題だ。ちゃんと口元に付いた血を拭けてるか心配になってきた。

「どう? ヤンコフスキ」

「よく似合っているよ。でもやっぱり仏頂面が惜しいな。はにかみながらスカートの裾を摘んで持ち上げて、脚をこう、はにかみながら……」

 あ、大丈夫そう。

 でも、はにかむのがそんなに大事? ヤンコフスキめ、おしゃれしててもいつも通りで悪いか。大きなお世話だ。

 ああ、屋敷にいた頃を思い出してむずむずする。派手な衣装は嫌だから、早く脱いじゃおう。

「ケイトの分もあるんだよな?」

「そりゃあもちろん! ――ケイトちゃんカモン!」

 アルアリスに呼ばれて渋々出てきたケイトは、不満気な顔で彼女と向き合った。

「……おかしくないか?」

「全然! 可愛いと思うよ?」

「そうじゃない。これじゃあ目立ちすぎる……」

 ドレスだし。いまどきこんなの着て歩いてたら、頭の中お花畑の変な人と思われる。

「大丈夫だいじょーぶ、これはおしゃれしてほしくておまけで買ってきただけだから!」

「……服の代金はわたしたち全員の財産だ。勝手が過ぎるんじゃないのか?」

 ケイトの不満はもっともだ。ここの資金は獣人たちのへそくりを巻き上げてまで掻き集められたもので、ご多分に漏れずケイトも魔術の勉強のために服職人をして貯めたお金を根こそぎ戦闘団に納めることになったから、無駄遣いされたら怒りたくもなるだろう。ケイトはニンゲン食べるの嫌がっておこぼれも受け取ってないし、出資者なのに大して得してない。まあ、おしゃれさんだしドレスあっても嬉しくないっていうのは違うと思うけど。

「みんなのやる気のためだよ。必要経費だってウタゲちゃんたちの許可ももらってるし、お値段は在庫処分価格から値切りに値切ってなんとワンコイン特価! 気にしないでみんなに見てもらいなよ。ほら、ヤンコフスキさんにも」

 ウタゲが許可してしまったのか。いや、流石に必要というほどのものじゃないだろうと、ケイトはいろいろ言いたいことを飲み込んでひとつため息をついた。

 お金はもっとちゃんとした人たちが協議の上で管理すべきだから、今度要望を出しておこう。ウタゲは不信任でクビ。ヘルマーナとかヴィリア、あとはパートリッジの部下とかに専門家がいればがその人がいい。

「……仕方がないか。――どうだろう? ヤンコフスキ、変じゃない……か? いや、変だろう? サイズが合ってないんだからな……」

「いや、可愛いよ。それに何処からどう見ても人間だ」

「そうだろう? わたしの術もカンペキだ! その術は豚の血を浴びたって解けやしないよ」

 ホロビの指示に従って、久しぶりに姿を見せたホバーラが自慢気に宣言した。砲弾制作にも進展があって、ついでに報告に来ただけに機嫌がいい。ただ、目の下のくまが酷い。

 家畜の血を浴びても変化が解けないなんて、それは凄い。散歩のおまけに喧嘩売られなくなる画期的発明。

 というわけで、ニンゲンには完璧に化けれてるわけだけど、服装は小柄なケイトとドレスのサイズが合ってないのが……もう変とかそういう次元の問題じゃない。この際ヤンコフスキが言う通り可愛いからいいのか。

「……ホバーラ」

「なんだい?」

「せっかくだからもう少しニンゲンらしいおしゃれをしたいと思う。耳にピアスを付け足してほしい……」

 もっと有意義なお金の使い方をしてほしかったけど、おしゃれをするのは好きだからと、諦めを付けたケイトは途端に開き直りを見せた。ケイトの頑固さは着飾って折れる。なるほど。

「……案外ノリノリなんだね」

「わたしだって、女の子だ」

「きゃー! ケイトちゃんのいつものささやか女の子アピールだよリュイナちゃん! これが女子力女子力!」

「小さくって可愛いなぁ……」

 黄色い歓声が上がる上がる。最近マツリから教わった「女子力」という謎の言葉はこの場で使うのが正しいのか、どうなのか知らないけどとにかくみんな盛り上がってる。

 耳に小さなピアスが付け足されると、ケイトの大人っぽさがぐいっと上がった。落ち着いた雰囲気も増したようで、物静かな頼れるお姉さんっぽい。首から上だけだけど。

「……どうだ?」

「大人っぽくて、上品だと思う」

 素直に評価すると、ケイトは満足そうに頷いて、今度は自分の指の爪がニンゲンの薄くて平べったい爪になっているのを、物珍しそうにしげしげと見つめた。ウタゲ、マツリと同じすらりとした華奢な指に、透明感と光沢のある柔らかい爪、ニンゲンの指先は綺麗だ。

 ヤンコフスキはすっかりニンゲンの少女になったケイトを見て「……いいな」と小さく口にすると、わたしの視線に気付いて「違和感がないよ」と付け足した。ニンゲンの女の人がヤンコフスキのこういう一面見たらどう思うんだろう。モテなさそう。

 ……ウタゲにマツリとか、アルアリスもいるし、今度訊いてみようかな。

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