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「――だいたい片付いたな」
「うん」
気付けば周囲にいたタナトスたちのほとんどが動かなくなって、さらさらと風に乗って消えようとしていた。逃げ出したのは深追いせずに、いったんは見逃すらしい。
「こんなところだな。これで大人しくせざるを得ないだろう。――ヘッド、北の方にまだいるかも知れないが、どうする? もうひとっ走りいってこようか?」
スズリカは装甲車に乗ってついてきているヘッドに、振り向いて問いかけると、暴れ足りないといいたげに不敵に笑った。そうそう、そういうことやってればカッコいいんだよスズリカ。
「そんなことよりけが人はいねぇだろうな?」
「細かい切り傷や打撲はあるだろうが、直ぐに治るから問題ない」
「そりゃ結構。でも、偵察に出すのは無傷のやつだけ。他はさっきの道に出て、おれたちと待機。いいな?」
「なんだ、過保護な親父殿だな。……まあいい、承知した。外傷のないものはわたしに続け」
スズリカが歩み出すと、リュイナやリティア、無傷の子たちがわいわいとおしゃべりしながら続いた。一部の戦い方が危なかっしい面子以外、ほとんど全員。今回の相手はやっぱり弱かった。
「……ケイト、いこ」
「いや、アトレイシア、怪我をしているんじゃないか? 少し見せてくれ」
「ん? ……あ、確かに、ちょっと痛い」
「血が出ている。弾がかすったみたいだな……」
気付かぬうちに腰に擦過傷ができていた。気が付いてみるとヒリヒリと傷んで結構気になる。
「おいおい、アトレイシア、若いくせに鈍すぎやしねぇか? おれでも弾がかすりゃ気付くぜ」
「……集中してたから」
「戦場ってとこじゃな、一つのことに集中し過ぎる奴は長くねぇんだ。気を付けなよ。お前が死んじまったらおじさん悲しいぜ」
「……うん」
このとき、わたしの怪我の心配をしている内に、ケイトは無傷だったけど置いていかれてしまった。もしかしたらスズリカがわざとそうしたのかも知れない。
その後、スズリカたちは北で別のペスティスの一団を見付けて、そのまま襲いかかって追い払い、スズリカは「偵察って言わなかったか?」というヘッドの詰問に「タナトスたちが停止していたため至近に接近するまで気付かず、遭遇戦になった」と返し、キツネ亜人は戦いで強いけど指揮官は欠陥品と知らしめた。
ひと通りの戦闘を終えてヤンコフスキの待つ本隊と合流すると、こっちもこっちでペスティスの一団が現れて戦闘があったらしく、一緒にいたオオカミ亜人たちが喝采を浴びていた。意外なことに、ポーランド兵曰く「チャニはひとりで巨人を仕留めた」とのことなので、あれでチャニもちゃんと、腕っ節で武闘派揃いのオオカミ亜人族の長をしているらしい。彼女たちは何処までも肉弾戦闘一辺倒というわけだ。
ただ、いまではたった5人しかいない彼女たちはいまひとつニンゲンたちと打ち解けてなくて、チャニ以外「仕方ないから協力はするけど、ニンゲン相手に仲良くする気はちょっと……」と、いつぞやのわたしみたいなスタンス。当然、兵士たちに「凄かった」「ありがとう」と言われても応対は素っ気ない。
「へっ、クールだなあいつら。アトレイシアが5人に増えたようなもんだ」
「あの子たちとは、割りと仲良し。気が合う」
ケイトを例外とすれば、わたしはキツネ亜人よりオオカミ亜人の子たちとの仲の方が良好なくらいだ。わたしのことについてとやかくいうことはなかったけど、おなじ種族の同胞を何故追い出そうとするのかとキツネ亜人に対して懐疑的になり、わたしのことを心配してくれた。
わたしがいた当時はチャニが出てくることはなかったけど、わたしはいなくなってからはケイトの心配もしてくれている。ひとりぼっちは見過ごせない優しい人たちだ。
「おう、ノッポ、こりゃこっちも大変だったみてぇだな」
「なに、大したことはないさ。そっちも片付いたか?」
「ああ。スズリカのやつが楽しそうだったぜ」
「それは何よりだ。こう言ってはなんだが、彼女ばかりは戦いがよく似合う」
馬にまたがったままサーベルの点検をしていたヤンコフスキは、何事もなかったかのように悠々としている。この優しいニンゲンはわたしたちが戦うことには複雑な心境を残しているけど、自分が刃を振るうとなれば勇猛果敢で迷いがない。腕はニンゲンとしてはそこそこといった程度でも、戦う姿勢は尊敬できる。
ヤンコフスキは点検を終えたサーベルを鞘に戻しながら誰かさんみたいに不敵に笑うと、カッコよく馬を降りて見物客に近付いていった。
「どうです、パートリッジ司令。この子たちの能力は?」
「凄まじい。実を言うとあの馬鹿でかい巨人が出た時は、わたしはもう少しで腰が抜けるところだったよ。数が不足している状況でこれだけの質の高い部隊、これは手放せない。確かに貴重な戦力、わたしたち戦闘団の至宝だ」
一度わたしたちの戦いぶりを見たいと、観戦に来ていたパートリッジからも称賛の言葉いただいた。落ち着きある紳士だけど、今夜ばかりはかなり興奮した様子だ。
「こりゃ大絶賛だね。そこまで言ってくれるなら補給の融通は利かせてくれるんだろうな?」
「もちろんだ。最精鋭の部隊として、可能な限り補給は優先しよう。マツリ君にもそれで話を通すよ」
「やったな」
「ああ。今後もよろしく頼む」
ヘッドとヤンコフスキが仲良く手を打ち合って。それからガッチリと握手を交わした。「お前と握手ってのは見下されてる気がして気に入らねぇや」と減らず口を忘れない。
「よし、もう文句のつけようもなくなったことだ、試験運用は合格。君たちはいまから正式に稲荷坂戦闘団第1軍団、第101特別混成戦闘隊『リベレイトナイト』を名乗ってもらうことになる。今後の活躍に、大いに期待させてもらうよ」
「はっ。ありがとうございます」
なんだか突然大仰な名前を付けられた。堅苦しくて嫌だな。
「その名前アンタが決めたのかよ? 案外ノリノリだったんじゃねぇか」
「戦闘団のネーミング案を却下された腹いせにいいかと思ってね。もっと動物っぽさを出した方が良かったかな。でも「だでなんとか隊」とか「たおたお隊」よりよっぽどマシだと思わないかね?」
「エルンヴィア語がクソなのはよくわかってるけどよ、たおたおは可愛いだろ。バカにするな」
ヘッドはこっちの隊だと階級上最高位で、当分は隊長って扱いだ。でも、エルンヴィア語でのヘッドは「だ」っぽい音で始まるって以外なに言ってるのかわからない単語で同郷の人しか発音できないし、獣人語では「タオタオ」と、どうにもカッコ悪い。その名で呼ぶには前者も後者もどうにも微妙というか、前者に至っては論外だ。パートリッジがちゃんとした名前を考えたのも頷ける。
英語の「ヘッド」なら個人的にはまあまあと言えなくもないけど、イギリス人いないのに英語……いや、「リベレイトナイト」も英語か。じゃあもうどうでもいいや。考えるのおしまい。たぶん誰も使わないでしょ。
「バカにはしていないよ。いや……君、それでいいのかね?」
「母国の言葉は誇るものだってのか?」
「君を指す言葉にキュートさは要らないだろうという話だよ。勿体無い」
「いい歳こいて嫉妬すんなよ」
ヘッドは人の言うことにいちいちいちゃもんを付けるけど、わたしたちに「タオタオ」「たおたおー」と呼ばれるのはまんざらでもなく気に入っているらしい。獣人との関係もすでにそれなりに良好なのはやっぱり才能なのか、舐められてるだけなのか。
まあニンゲン一人ひとりのことは基本的に舐めてるし、いっそこういう愛されわがままボディはお得かも。
「ヘッド君、ヤンコフスキ君、今後はわたしたち人間とこの子たちの更なる親交が必要非可決だ。帰ったらゆっくり休んで、次の夜には親睦会を執り行い給え。君たち二人ばかりではなく、この部隊の全員が友好関係を築き、連帯し、結束させるんだ。わかったね?」
「はっ」「任せなよ」
「よろしく頼む。では、またお先に失礼するよ。――出してくれ」
パートリッジは帰っていった。もう日も変わって数時間、それでも朝が来たらまた働き出すのかな。無理をしないといいけど。
「そんじゃぁ、おれたちも戻るとするか」
「うん」




