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「よし、整列だ。2列横隊で並べ!」
号令を受けてバタバタと整列し始める。
……あれ、全員で22人のはずだけど少ない気がする。
「おい、3人足りないぞ。コーニャ、サモフィナとナイディナとカピターナは何処だ? まさかやられたか?」
3人と一緒にいるはずの人が説明を求めて睨まれて、「はいッ」と気を付けをしてあわあわと口を動かし始めた。昼間ヘビを枕に寝ていた針使いのコーニャだ。
「え、えぇっと、後ろについてきていたはずなんですけど、気付いたときには――あ、来ましたよ!」
「待って待って! ここにいるよ!」「うぅ~、遅れてごめんなさい~ぃ」「二人が寄り道するから……」
遅れてきた3人は、何処をほっつき歩いていたのか知らないけど、仲良く並んで列に滑り込みゼイゼイ息を切らしながら、「許してください」とスズリカを拝み倒しにかかった。
「……その手に持っているのはなんだ?」
「あ、これ? あっちに落ちてたんだ~。外の世界の食べのもだよぉ、きっと~」
サモフィナが『ハバネロ』と読めない字の書かれた、膨らんだ口のない袋みたいなものを抱えている。あれに気を取られているうちにコーニャとはぐれたらしい。
「そうか、預かっていてもらえ」
スズリカがヘッドを指差すと、3人は揃って不満気な顔をしたけど、スズリカに睨まれたら言い返しちゃいけない。
「えー。……まあいいや。おじさんたち、盗んで食べたらダメだからね、わたしのだからね!?」
「ガキの食いもん横取りするほど大人気なくねぇよ。ほれ、敵さんが待ってるからさっさと行きなよ」
「はいはーい」
サモフィナは心配そうに振り返りながらてこてこと駆け戻ってきて、また一団の列に加わった。
3人の武器は鎌、ハンマー、そして素手。キツネ亜人である必要性を感じさせない個性的な面々だ。もっと自分たちの特色を活かせなかったのかな。
「では、敵に切り込む前に、せっかく全員いることだし改めて訓示をだな――」
「スズリカさま、うしろうしろ!」「もう敵がわらわらきてますよ!」
もたついているうちに追い付いたペスティスたちの黒い影がスズリカの真後ろで揺らめくのを見て、今更始まろうとしている訓示をみんなでやめさせようと騒ぐと、スズリカは口を開いたまま一瞬の間動きを止めて突っ立った。
「……いまこそ我らキツネ亜人族の――」
無視された。
「迎撃げいげき!」「ひっこめー!」「あっちいけー」
わたしたちもスズリカのことを無視して手元の投げ物を投げ始めた。列を崩さなかったのはせめてもの優しさだ。まとまりがあるのかないのかわからないけど。
「見ろよあれ、もはや抗議集会だぜ」「ストライキかな?」
「待遇の改善を要求するたくましい少女たちの姿ってな、見てて可愛いもんだな」
「いや、あれは滑稽だろ」
ニンゲンたちから笑い声が上がって、スズリカは顔を赤くして地団駄を踏んだ。
「違うんだ! わたしはいつも通りの出来心で見栄を張りたかったんだ。まったく、ちょっとはわたしにもカッコつけさせろ! もういいから前進だ! 蹂躙してやるのだ!」
「うわ、やけ起こしたよこの人」
「お師匠さま、お師匠さまはそうやって無理してカッコつけなくてもかっこいいです」
スズリカを(一方的に)師匠と慕っていると噂のカピターナの、どうにもひとこと多いフォローでますます顔が渋くなった。いいから受け入れて。
「……もういいから、いけ」
スズリカは深々とため息をついてがっくし。わたしの隣でケイトが憐れむような目で見てる。
「……スズリカ族長、わたしはあなたのそういうところ……好きだぞ」
「すまない。わたしも、お前のそういうところが好きだぞ。だから今度愚痴を聞いてほしい」
「嫌だな……」
素直なケイトは露骨に嫌そうな顔をした。
「後生だ頼む。お茶菓子とアトレイシアをつけるから」
「わたしたちはいつも一緒だぞ……?」
スズリカ、カピターナの言う通り外見はカッコいいんだけど……カッコいいとこ見せようと必死になるところがカッコ悪い。謙虚になってね族長。
「ケイト、もういいよ。聞いてあげよう。わたしも一緒に聞くから、早くスズリカは指揮執って。みんなばらばらになっちゃうよ」
「うむ、そうだな。では二人はあの辺りでひと暴れして、側面の安全を確保しつつ前進だ」
「ん」「了解」
それにしても、視界に入るペスティスたちは銃のひとつも持たない、わたしたちからしたら旧態依然した個体ばかりで張り合いがなさそう。もともと数の多さと我慢強さばかりが売りで、もとから戦車乗り回していたらとっくに世界は真っ黒だろうけど、ちょっと物足りない。
指輪をはめるのも億劫だし、ヘッドからもらったナイフでちゃっちゃと片付けちゃおう。
「……つまらなさそうだな」
「弱いやつと戦っても、何も得られないから」
足の速いやつらは直前の戦闘で、みんながほとんど片付けちゃったみたいで、のろのろと動くゾンビみたいなのばかり。面と向かって適当に腕を振り回してるだけでも倒せる雑魚中の雑魚。
これじゃただの作業だ。戦うのは強い相手がいい。強すぎるのは勘弁だけど。
「こういうときは、いろいろなことに挑戦するいい機会だ」
「例えば?」
「念動力で武器を扱ってみるとか、やってみようと思う。……こういう感じ……いや、違うな」
ケイトの体の周りで鎖がふらふらと漂っている。と、思ったら、ナイフを付けた先端を残して地面に落ちた。
「こうか。全体を浮遊させて操る必要はないな。それで、あとはこれをこうする」
まるで鎌首をもたげたヘビが獲物に跳びかかるように、ナイフは弧を描いて飛んで人型のペスティスの胸に刺さった。ただ、そのペスティスは革製の鎧で体を防護していて、ナイフの刺さりは見るからにあまい。
「……難しい。あの距離でも普通に投げた方が速いな。皮の鎧相手にあそこまで効果が落ちるとなると、真っ向勝負では使いにくい……。それに、ナイフに返しがあるから、引き抜くなら鎖は手元に残さないとな……」
普段なら鎖の届く範囲で投げて、刺さった時点で手元に残っている鎖を掴んで引き戻すのだけど、今回は手を使わないということでそれより遠くまで飛ばしていた。
飛ばして当てたのはいいけど大して効果はないし、使った武器はその場で回収できない。こうしてケイトの新技披露第一回は参考程度の中途半端な結果に終わった。
「でも、使い道は十分にありそう。刺したあと、鎖で首を絞めたり、相手の動きを封じたり」
「ん。そうだな……それがいいだろう」
「でもそれ……本当は浮遊魔法で動かしてる?」
「……ああ。やはり、あまりよくないな」
「おーい、そっちにたくさんいったけど大丈夫?」
魔力に反応してペスティスが群がってきた。
妖術で物を浮かせる場合は自然の力を操って、ただの風で浮力をつけるからペスティスが探知して寄ってくることはない。でも、魔力で浮力を生み出す浮遊魔法ではペスティスを惹き付けてしまう。
魔力を感知して吸収する。これはニンゲンたちがあちこちでペスティスに負けている理由のひとつで、ペスティスに対抗できる妖術師よりも、不利益ばかりの魔術師が圧倒的に多いことがニンゲンたち全体に悪く働いている。これがレンカを始め妖獣人たち、そしてウタゲたちの見解だ。魔術なんてもう流行らない。
「アトレイシアが出ていってからの2年間、魔術の勉強をしていたんだが……タナトスに探知されるのはいただけないな……」
わたしが出ていってやさぐれた挙句、魔術に魅せられていたなんて……。
……いや、ケイトは母親が魔女に弟子入りしていたと、いつだったか聞いた覚えがある。ケイトは何処か両親の背中を追っているフシがあるし、不思議なことじゃない。
ただ、その先に何を見ているのかは……。
「アトレイシア、後ろだ」
「ん」
……やめよう。多分、訊いても教えてくれない気がするし、大体の察しはつく。
「アトレイシア、銃を持っているタナトスがいる」
「ん。仕留める」
ケイトはわたしのいない2年間の内に多くの技術を習得して、明らかにわたしよりも強くなっている。負けず嫌いで努力家だったけど、争い自体は好きではないし、里の中は外界よりも遥かに危険が少なく争いなんてまずなかったはずで、必要以上の力を得る必要はなかったはずなのに。
理由を訊いても教えてくれないけど、その原因はわたしだ。わたしにはシェリナという本名以外にも、更にごく一部にしか教えていない隠し事がある。ケイトにも伝えていないけど、誰かがケイト本人に詰め寄られて吐いたんだろう。
わたしたちは互いに互いのことを思っているせいで、互いに目を背けている。……これでいいのかな。




