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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「それでは今度は我々ですな。わたしは英国陸軍歩兵隊指揮官のテレンス・パートリッジ。まだここに着いたばかりで右も左もわからない厄介者ですが、どうぞお見捨てなきよう宜しくお願いします」

 そう名乗った男は、上顎に整った髭をたくわえ、ヤンコフスキほどではないにせよ長身で、紳士然とした身奇麗な男だ。くりっとした目が人のよさそうなイメージを抱かせる。

「お姉さま、大佐の階級章ですよ大佐、連隊長代理とか結構凄い人ですよ」

「そうなんですか? 物知りですね末莉。パートリッジさんおめでとうございます、あなたが最高司令官です。今後、部隊を総括してください。族長の皆さんも異存はないですね?」

「うむ、異論ない」「異議なし」

 指揮官が決まった。まあ、ヘッドよりかはニンゲンたちのリーダーとして良さそう。

「これは驚いた。自己紹介をしただけで大役が貰えるとはね。では、今後の組織は我々が主体となって良いのだね? しかし、我々にはおそらく文化的な確執があるのだが……従ってもらえるのかな?」

「さあ? まあ、そこを上手に折り合いをつけるのがリーダーシップですよ。組織の運営上、面倒なことは全てお願いします。我々はもっと別のことを満喫したいので」

 ウタゲの言葉に、にこやかだったパートリッジの顔が少し引きつった。

「厄介事を押し付けられているだけな気がしてきたよ。本当に従って貰えるのだろうね? 不安だな」

「まあまあ、あなたたちは兵士の数も装備の質も一番優れていますし、兵隊の管理なんて最上位者のあなた以外に頼める人も居ません。お分かりでしょう? では、次の方どうぞ」

 パートリッジは獣人の族長たちに「誰かこいつを止めないのか?」と訴えかけるような視線を振りまいて、反応がないことに困惑しながら着席した。傍目おかしいのはわかる。

 続いてヘッドとヤンコフスキが軽く自己紹介を済ませると、最後にウタゲとマツリがいつも通り威勢よく「「天才美少女双生姉妹、姉の唄華と妹の末莉です!」」とぶれないところを見せつけてくれた。

「あー、君たちが我々の参謀? それでは、次の戦いは作戦勝ちだね」

「へぇ、そいつはどうしてだ?」

「そりゃ子供のイタズラ大作戦には誰だって敵わないからね。どうだね、君だって相手したくはないだろう? どうだね、ヘッド隊長」

「へへっ、言えてるね。何しでかすかわかんねぇから相手したくねぇや」

「これはなかなか面白い人たちですね、お姉さま」

 ウタゲとマツリは、パートリッジとヘッドが自分たちを馬鹿にしたような冗談を言っても平然としている。てっきり騒ぎ出すかと思ったから意外。

「無愛想な方が相手だと話しづらくて敵いませんからね。幸いです。自己紹介も済みましたし、パートリッジさんの言うようにイタズラ大作戦を立案するのもいいですが、その前に情報を共有しあって状況を把握することが必要です。まずは我々の現在の状況、保有する兵力とその装備及びその状態、それを維持するため補給の状況を把握して、今後いかにこの集団と兵站を管理運営していくか方針を確立する必要があります。異論ありますか? パートリッジ司令」

 そう冗談なしに真面目な話をふっかけられて、パートリッジは「こりゃ敵わん」と気構えを正した。なるほど、騒ぐ必要なんてなかったのか。

「異論ありませんな。マツリ参謀長」

「わたしは唄華です。末莉は参謀次長です」

「これは失礼いたしました」

「まずは英国軍の保有する兵力について――」

 ――あ。

「…………」

 ケイトがもう寝そう。

 どうしよう、立って寝れるかな。そよ風に煽られてふらふらしてるけど、倒れないかな。周りの子みたいにせめて座って寝ればいいのに。

 ……よし、後ろから支えよう。目立たないようにこっそりと。

「…………くー」

 あ、もう寝てる。間に合ってよかった。

「アトレイシア、こっちの気が散るから何処かに寝かしておけ」

「ん」

 我らが族長スズリカは「我らは夜行性でな、日中の活動は慣れるまでもう暫く掛かる」と弁明に走るはめになった。隣にいるレンカも眠そうだけど、スズリカは眠たくないのかな。

 ケイトの体、持ち上げてみるとこれが軽い。ケイト、軽い。小さい。可愛い。もふもふ。

「……じゃれついてないで早く連れて行け」

「ん」

「お前さんのお気に入り、随分と眠そうじゃねぇか。こりゃ昨晩はお楽しみだったか?」

 早速会議そっちのけでヘッドがヤンコフスキにちょっかいをかけ始めた。不真面目を絵に描いたような男だ。

「バカ言え、ケイトは仕事をサボるような子じゃない。その口は閉じておけ」

「男を喜ばせるのも女の仕事だぜ? どうだったんだ? 言ってみなよ」

「……あの年頃の子をそういう目で見るなら、あんたは相当な変質者だ」

「君、友好の妨げになるから君も何処かに行ってもらえるかな?」

「そりゃないぜ! ウェットに富んだジョークってもんだよ」

 パートリッジがヤンコフスキの加勢に回ると、形勢不利と見てヘッドは弁解に走った。

「まあまあ待てって、ほんと、冗談だよ。あちらさんだって呆れた顔しちゃいるけど軽蔑はしてねぇって。な?」

「わかったからその下品な口は閉じといてくれ給え。今後に差し支える」

 パートリッジは冷たい。でも、頬がかすかにピクピクしてるのは怒っているのか笑いをこらえているのかどっちだ。

「まあまあ司令官、同胞をそんなに邪険に扱ってはいけないよ。それにいいことを教えてあげよう。ニンゲンと獣人の間でも問題なく子供は授かれるから、何も気にせず、君たちは子作りに励んでくれていい。――ね? 族長さん?」

「いいんじゃないかの? ここ数年おめでたな話を聞けてないからの」

「まあ、つがいになれる男なんて残っていないからな。将来のことを考えたらむしろお願いしたいくらい……わたしがじゃないぞ?」

 ホバーラの執り成しに乗っかったフウカとレンカだったけど、恥じらいを見せたところやっぱりレンカは若そうだ。

「紳士を惑わすのはお控え願いたい。……いや、貴女たちからしたら死活問題なのでしょうが」

「あ、下手に手を出して命が危険にさらされても自己責任でお願いするよ。みんなまだニンゲンのこと怖いだろうから、多少の段階は踏まないと本気で危ない。何を切り落とされるかわからないよ」

「混乱させた挙句逸物を食いちぎられんようにな。特に、酒は程々にするように部下にも伝えておくがいい。痛い思いをしたくはないだろう?」

 おっかない話に、紳士がヘッドに視線を投げかけて「気を付け給えよ?」と釘を差すと、「下の口なら平気さ」と返された。ヘッドは最低だけど、それを面白がってるパートリッジの方も大概だ。

「よし、心得た。――ヤンコフスキ君、役職を代わってみたいと思わないかね?」

「お断りします。司令官殿」

 あの大人たちは会議そっちのけで何を雑談しているんだろう? わたしたちは早くごはんを食べて眠りたいんだけど。

 ……ケイト、何処に寝かしてあげようかな。

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