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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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       *        *


「目標9時、装甲車、撃て!」

 真横から突っ込んできた小さな戦車が、目と鼻の先で派手に爆発した。

「砲塔戻せ。装填が済み次第、また警戒を」

 砲弾を装填したら、ペリスコープに張り付いて周囲を索敵する。ちょうどいい敵を発見したらそれを伝えて、次の砲弾を用意する。しばらくこればかり。

 んー、空薬莢はどうしたものか。ずっと銃で撃たれ続けているから怖くて扉が開けられない。砲塔の後ろに付いてる小さな扉から捨てれたらいいのに、ここだとつっかえて捨てれなかった。結局もともと入っていた場所に戻しているけど、結構におうしさっさと捨てたい。

「ケイト、右」

「ん。戦車か、砲弾を頼む」

「久し振りに出て来ましたね。何処ですか?」

 数十分ぶりに敵の戦車を発見した。ケイトはすぐさま装填済みの砲弾を発射して、わたしが次の砲弾の装填するのを待つ。射撃が早いし、しかも基本的に一発で仕留めてくれるから安心。カッコいい。好き。

 まあ、それはさておき、この戦車では徹甲弾とは違う、よくわからない名前の戦車用砲弾を使ってる。数えるほどしかない戦車との遭遇の中で、今のところ出番は数回だけ。在庫は未だに20本ほどといささか持て余し気味。これ使えばいいよね。

「右の前方、横に回ろうとしている」

「あれですか……。あれは、Ⅳ号H型? イヤな位置を取られましたね。砲塔を狙えますか?」

「ん……難しいな……ダメだ、外れた。こちらに向かって来る……」

「ホバーラさん、右に旋回してください」

「右に旋回すると左に傾いてしまうよ?」

 ホバーラはそれでも言われた通り操作して、戦車はがくっと揺れたあと少し左に傾いた。

「うわっ、しまった、狙えません! 平らなところがなければバックしてください! ――わぁっ!」

 今度は砲弾をくらって、車内に騒音が響いた。なんだか大変そう。取り敢えず装填だけしておこう。

「前は無理だ! バックするよ!」

「真横を取られたらこちらが貫通されます! それと、外の人たちは少し離れてくださ――」

「あ、転ぶ」

 砲弾を装填しようと腕を上げたそのとき、ホバーラが思い切りブレーキをかけてくれて身体が前につんのめった。そのまま砲弾を抱えて床を転がり。もう装填どころじゃない。

「ん、アトレイシア」

 ケイトがわたしに向かって手を伸ばした。投げて寄越せということだね。わかった。

 わたしがケイトに向かって砲弾を投げると、ケイトは自分の足ほどもある砲弾を、全身を使って上手に受け止めて、瞬きする間に装填を終えたあと僅かに照準を調整して砲弾を放った。

「よし、止まった。火も出ている。アトレイシア、怪我はないか……?」

「大丈夫。何処も痛くない」

 わたしの返答を聞いて、ケイトはようやくほっとした表情をのぞかせた。わたしの盛大な転けっぷりは気を休めるのに役立ったかな。戦車の中は時折支えがないと立ってられないくらい揺れるから、砲弾を持ってるときは気を付けなきゃ。

「見えてましたよいまの! あなた方が馬鹿みたいに優れた身体能力なのはわかりましたが戦闘中の真っ暗で狭い車内で砲弾を投げて扱わないでください! 信管が作動でもして爆発したら洒落になりません!」

「みんなの方に弾が行っていたんだ。許してくれ」

「まったく、許すも何も素晴らしい活躍です。勲章ものです。もしここが日本なら70年後にはゲームのキャラクターとして出演するのも夢じゃないです。……夜目が効く分、皆さん目立って発見されやすいですね」

 途中から何言ってるかわからないけど、褒めているんだろう。そのあとも感心したように「やはり動体視力が……心拍数もイヌなみにありそうですね」と独り言を続けた。

「ちょっとちょっと君たち、まだ戦闘は終わってないよ。将来のことはこれが終わるまで待ってくれないかな?」

 ホバーラが気の緩みを指摘して注意を促すけど、そう言うホバーラが一番楽しそうだ。原型があったにせよホバーラはこの戦車を修復して完璧に動作させ、その技術を習得している。日頃からニンゲンのモノ作りを超えると息巻く自身がいま、この世界の最先端にいることに興奮しているらしい。調子に乗って何処かの自称天才姉妹みたいに「わたしは天才だ!」とか言っても不思議じゃない。

「そろそろ敵の囲いを突破できます。外の皆さんに先行してもらう頃合いですね」

「そうだね。――いや、まだその気になるには早いみたいだよ。目の前で何かが通せんぼしているからね。大ボス登場ってところかな?」

「やれやれまたですか。しつこいです……が、なっ、なんですかあれは!?」

 暗闇に中でウタゲの顔色が変わった。どうやらまだ油断なんてしていられないらしい。

「どうかしたの?」

「ほとんどシルエットだけですが、明らかにわたしが見たこともない巨大戦車です。しかもダグインして待ち構えているなんて、対処に困りますね。末莉がいてくれれば……」

 なんでも知ってそうなこの自称天才にも、見てわからないものがあるんだ。当然といえば当然だけど、少し驚いた。

 ……いや、そういえば昼間、「わたしたちも知らない謎の戦車」などと言って、大きな戦車に何か名前を付けていたような……思い出せない。

「どうするウタゲ君? これの足では回避もままならないよ。砲弾の特性と重装甲を活かしてみるかい?」

「な、なんだか嫌な感じがするよ……!?」

 リュイナの言う通り、確かに何処かで感じたことのある感覚がわたしにも伝わっていた。これは……そうだ。

「ん。あれ、ヘッドたちが持ってた小さな戦車と同じ感じがする。たぶん一緒」

「ここに来てまたわけのわからないものが出てくるなんて非道いです。またこの戦車の優れた防御力に頼むしかないですね」

 戦車に出くわすことは少なかったけど、ここまで来る間にも何十発と砲弾は浴びてきてる。あちこちに砲が設置されていて、前から横からひたすら撃ちまくってくるのはすこぶるうるさくて迷惑だった。

 それでも、戦車の中にまで砲弾が飛び込んでくることはなかったから、この戦車の防御能力は確かなものだ。その点はもとから優れていた特徴だったものらしいけど、壊れていたこの戦車を修理する際にウタゲが装甲の強化案をホバーラに伝えて、全体的に更にパワーアップさせたらしい。

 特に夜間は砲塔によく当たるとのことで、砲塔の装甲は最低でも2重に強化されている。もとよりいざとなったら夜のうちにこれを使って脱出するつもりだったらしい。

「……このせいけいなんとか、効いていないな。撃ち返してくる……」

「車体を傾けて停車を! おそらく車体を照準しています!」

 一瞬の間を置いて、敵の戦車の砲弾がこちらに当たった。これまででも一二を争う強い衝撃が車内に走ったが、期待通り、今回も車体に砲弾が飛び込んでくることはなかった。

 しかし、このままこんなことを続けていても切りがない。ウタゲには何か策はあるんだろうか、もたつくわけにはいかない。

「あの戦車の手前に榴弾を撃ってください。射撃後、車体角度そのままで全速前進、アトレイシアさんはわたしの指示を聞いてから砲弾を装填するように。――外の皆さんはわたしたちがあれを倒すまでその場に隠れていてください」

「了解」「わかった」

 ウタゲの指示通りに一発射撃してから戦車が進み始める。

「もう一発榴弾を、同じく手前に」

「そうか、目くらましだな?」

 ケイトがウタゲの意図を察した。わたしたちの戦車は絶え間なく攻撃を受け、大きな図体は閃光を浴びて夜闇に浮かび上がってるはず。そうなると、敵戦車の攻撃を凌ぐには手前の地面を爆発させて視界を削ぐくらいしか手がない。

「ホバーラさん、進路を敵戦車に向けてください」

「よしきた。これは人生最高のスリルだね!」

 そしてその内に進路を変えれば、暗闇の中で相手はわたしたちの戦車の進路を見失うというわけだ。

「白線が目立ちます。砲塔はまっすぐ向けて、初弾は榴弾、次弾も榴弾、その次から成形炸薬弾です」

 少し迷ったようだったけど、装填の指示が出た。

「ケイトさん。最後にもう一度、手前に落としてください。その内にギリギリまで近付きますから次弾で前転輪を撃って足を止めます。仕留めるのはその後です。もうこちらの動きに気付いてもいい頃ですから、砲塔がこちらを向いたら教えてください」

「ん。了解した」

「ホバーラさんは発砲後、今度はあの戦車の左側面に張り付くように進路変更を。あ、砲身が当たらないよう留意してください」

「了解したよ」

「ウタゲ、敵の砲がこちらを向く」

 ウタゲの読み通り、先に向こうがこちらに気付いた。この戦いはもう、彼女の手の内だ。

「ふふっ、いまです! 榴弾発射!」

 発砲の直後、体が左に引っ張られる中、次の砲弾を大砲に押し込んでいると、左の方から砲弾が弾かれる音が聞こえた。向こうの撃った砲弾が車体の側面に浅く当たり、軌道が逸れて弾いたんだろう。

「おや、惜しいことしてくれます。ですが、重戦車とはいえ未だに棒立ちとは、高が知れますね。やっちゃってください」

「この距離なら、確実に当てる」

 ケイトが2発目を撃った。「確実に当てる」と言ったから当たっただろう。あとはこっちの砲弾の攻撃力が向こうの防御力を上回れるかの勝負だ。

「ケイト、その戦車は魔法で動いてる、魔力の源を攻撃すればたぶん、簡単に倒せる」

「車体の後部から魔力が感じられる。撃ってみる」

「その前に一度砲塔基部を狙ってください」

「ん? そうか。了解した」

 言われて直ぐにケイトは砲弾を放った。いまはちょうど、相手の戦車の真横くらいだろう。

「砲塔の動きが止まりました。上出来で――」

「……ん? まだ撃つ?」

 そこまでの弱点を撃つまでもなかったらしい。砲塔が止まったならもう撃たなくてもいいかも知れないし、それならいま手に持っている砲弾は取り替えるべきだ。

 確認を取ろうとしても返事がなかったから、ウタゲの方へと視線を向けると、ウタゲは何かに驚愕したように身を凍り付かせていた。どうしたんだろう。

「これは……ケイトさん、見えますか?」

「ああ。あそこに一発撃つぞ」

「……許可します。装填を」

 わけがわからなかったけど、生きてる分には殺してやらなきゃ。わたしが手に持った砲弾を押し込むと、ケイトは即座に撃った。

「ギャアァアァァアァアアッ!」

「きゃ!」「ひぃ!」「うわぉ」

 突然、天を衝くような凄まじい音量で響いた悲鳴に、リュイナとウタゲとホバーラもそれぞれに短く悲鳴を上げた。

 ……うるさい。

「…………」

 わたしは何も言わず次の砲弾を装填して、

「…………」

 ケイトは何も言わずにそれを撃った。

 そして、悲鳴は止まった。

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