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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「……このままでは、いけません」

 あのいつでも鬱陶しいくらい自信満々のマツリが深刻そうな顔でそんなことを言う時点で凄くわかりやすく危機的状況だ。

「レンカさん、族長の皆さん、申し訳ありません。里に残ってくれた方たちには、直ぐにでもこの里を放棄して逃げてもらうべきです」

「……そのようですね」

「あやつらがこうも上手に戦うとは、期待が外れたのぉ。ま、あまり気になされるなよ」

「……確かに、予想外でした。ある程度誘い込むつもりが、失敗ですね……」

 夜になると、会議場には沈鬱な空気が漂っていた。

 原因はもちろん里に接近していたタナトスにある。当初タナトスたちはウタゲとマツリの予想通り一丸となって姿を表し、真っ直ぐこの里に向かって前進してきた。でも、バカ正直に突っ込んできてくれたのは魔物の類たちばかりで、彼らに紛れ込んでいたはずの戦車たちは姿を見せなかった。それどころか、いつの間にか離脱して、山地を回り込んで側面に出ていた。

 双子は即座にタナトスたちの目論見に勘付いて、ヤンコフスキたちと一緒に戦車に乗り込み敵の戦車を迎撃しようとしたけど、上手くいかなかった。通路を外れて山の中を駆け回っていては今のタナトスの速力に対抗できないから、進路を塞ぐ形で通路を封鎖し待ち伏せることにしたけど、封じ込めるには遠く至らない。向こうは木々の少ない比較的平坦な進路が取れて、足の早い車両もいればそれに詰め込む兵士もたくさんいた。

 こうして、わたしを含め一部の住民は安全に脱出する時期を逃した。戦える子たちは意地を張って、ヤンコフスキたちが離脱するまでは脱出しないと決めていたし、30人ちょっとが残ったままだ。戦力になる獣人の大半が取り残されてる。

「ヤンコフスキさんたちが戦車と一緒に後方に突破してくれたのは唯一の救いです。住民の皆さんの避難は?」

「負傷者は全員避難しました。残っている子は……まだ、ここを離れる気がないようです。どうにも、一戦して闘志に火がついたようで……」

 獣人の隠れ里はタナトスたちに包囲されている。里の周囲に術をかけ直して時間を稼いではいるけど、間断なく飛んでくる砲弾の前に消えるのも時間の問題だ。直接的に里を守っている術は、あくまでも生き物を惑わし、飛んでくる矢を吹き飛ばせる程度の風を起こすもので、大きな砲弾には効果が薄い。

 大群となったタナトスが、数を頼りにした真っ向勝負以外で戦った話なんて聞いたことがない。もとがどうであれそこまで知能の感じられる生物ではないし。あったら困る。

 でも、今回は味方が攻撃を仕掛けてわたしたちの戦力を惹きつけているうちに、足の速い車両を展開して包囲する明らかな意図があった。

 完全に一本取られたことを、ウタゲは自分のミスとして受け止めているけど、彼女たちは頭がいいだけでプロの戦術家じゃないんだから気にし過ぎだろう。それに、結果的には彼女たちの機転のおかげで虎の子の戦車を失うことなく脱出されることができたし、攻撃に参加した獣人たちも早い段階で引き上げさせてくれたから大きな損害はなかった。

 ただ、キツネ亜人の受けたショックは大きい。最初は暗闇からの不意打ちで上手く戦ったけど押し切れず、返って自慢の夜目と聴覚を眩い閃光と炸裂音に潰されて、うろたえているところに銃弾を浴びせられ、結局、数人の犠牲を出しつつ追い返されてしまった。

 他に怪我をしたと言えばウタゲくらいで、途中負傷しながらも乗っていた戦車を降りてわたしたちと一緒に戻ってきてくれた。わたしからすればその心意気一つで十分だし、族長たちも同じ気持ち。

「やはり儂らから行かねば、残っている子はついてきてはくれんのぉ。不本意じゃが、儂もそろそろこの里を去るとしようかの」

「わたしたちはただ、静かに暮らしたいだけなのに、どうしてこんなことになるんだろう?」

「…………」

「なに、きっと新しい住み家も見付かるよ。みんなを集めておくれ」

 タヌキ亜人族のマルティナ、妖獣人種タヌキ亜人族のフウカ、オオカミ亜人族のチャニ、それぞれの族長が腰を上げた。彼女たちも里を離れるのは嫌だろうけど、もう渋ってもいられない。里に残っている子たちは族長が残っている限り自分たちも去る気がない。

 話に参加していないようで参加しているオオカミ亜人族の族長は声が出ないから筆記でやり取りしている。聞いた話では彼女は視力と嗅覚もかなり弱いらしく、里を離れたら何日持つかわからない。

「外に出ればヤンコフスキ殿が護衛に加わってくれる。彼らが時間を稼いでくれている間に、あなた方にも少しでも遠くに逃げていただきたい」

「本当にお主らが最後でいいのか? さっきは散々だったじゃろう?」

 レンカが最後に残るというから、フウカはいささか心配気だ。

「なに、これは前々から決めていたことです。この里を去るときのための、わたしの使命ですから、どうか気になさらず」

 里にはいざという時のために火の術が用意してある。もはやこれまでとなったら、敵を山ごと道連れにできるように。今回はどうするか知らないけど、ひとまず取り決めに従ってレンカが最後らしい。

「ところでアトレイシア、お前はなんでここにいるんだ?」

「ごはん、できた」

「……最後の晩餐にならないことを願おう」

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