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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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 ――胸騒ぎがする。両耳が何か異音を伝えて、意識が覚醒する。

 背中がじっとりする。またあの夢だ。眠る度、代わりばんこに現れてはわたしのことを責め立てて呪いの言葉を発する、今はいない友だちたち。わたしの幸せな眠りを妨げるのは本気でやめてほしい。わたしだってみんなとお別れなんてしたくなかったし、みんなのことを殺したニンゲンのことは全員憶えてる。いまではそいつらも全員わたしが殺してあげたのに、どうしていまでも夢に出て来るの……?

 目を開くと、ケイトの双眸が心配気にわたしを覗いていた。

「また、嫌な夢を見たのか?」

「うん。……ごめんね」

 無意識にケイトの腕を握り締めていることに気付いて手を放した。痛かったかな。

「シェリナ」

 離れようとするわたしの手を、今度はケイトの手が掴んだ。片手で手を掴んで、もう一方の手を頭の後ろに滑り込ませて持ち上げると、互いの額をくっつけて短くささやく。

「わたしがいる」

「うん」

「みんなも、わかってくれるさ」

「うん」

 最後に、額に軽くキスをしてくれた。これでもう大丈夫。いまのところは。

 むしろこんなこと初めてだから、嬉しさと恥ずかしさでそれどころじゃない。キスって、キスって……ケイトってこういうことまでできるようになったの? ケイトってやっぱり凄い。

「嫌な感じがする。スズリカのところにいこう。シェリナは……ん。これを着てくれ」

 ケイトも何か感じ取っているらしく、手早く服を着替え始めた。外は昼頃だと思うけど、空が曇っているのか周囲は暗い。

「ん。……これ、わたしに?」

 渡された服は何故かサイズがわたしにぴったりだ。ケイトが着るには大きいし、かと言ってこの家にケイト以外の人が服を置いているとは思えない。

「今日という日のために色々なサイズを用意しておいた。あんなボロボロの服で、この家から出られると思っていたのか……?」

 お手製らしい服をひらひらさせて自慢気にそう言われた。前より裁縫が上手になっている。

「……ありがと」

 二人で服を着替え、ヤンコフスキから借りている上着を羽織り、手早く荷物をまとめて外に飛び出すと、分厚い雲が広がる空からヒュルヒュルと音が聞こえた。

「あれはなんだ……?」

 空から何かが降ってきているのが見えた。わたしたちは動体視力の良い獣人だから見えたけど、ニンゲンではまともに視認できないであろう速度で飛翔している。

 そして地面に突き刺さったそれが直後に爆炎と爆音を響かせて、脇にあった誰かの家を吹き飛ばしたとき、わたしとケイトは理解した。

「これは……誰かからの攻撃だな」

「まだ来る。逃げよう」

 これは砲弾による攻撃だ。何処からかわからないけど、この世界のニンゲンではこんなことはできない。タナトスが攻撃してきているんだろう。

 でも、どうしてここが? どんな生き物だってここに近付くだけで方向を失い、この里を見付けることなんてできない。タナトスがここの場所をつきとめて攻撃するなんて不可能のはずじゃないのか。

 ……いや、いまは考えるより、行動しないと。

 幸いみんな予兆を感じ取って行動に移っているらしく、里は爆発音以外落ち着きを保っている。半分は人でも動物の勘は健在だ。

「ケイト、山の中に入ろう。たぶん、タナトスが来てる」

「そうだな……いや、スズリカのところにいくべきだ。走ろう」

「……ん」

 ケイトはすでに戦う気だ。

 わたしはまず自分たちの身の安全を確保しようとして、ケイトは危険を顧みず戦うことを優先した。わたしとしては再開したばかりでケイトに何かあったら嫌だから早く避難してほしいけど、ケイトは他の獣人の例に漏れず、争いごとで逃げを打つのを嫌がる。言い合ってはいられないからケイトに従うことにしよう。

 各種族をまとめる族長は、族長が使用するために作った屋敷をそれぞれ住居にしている。外出していないかぎりスズリカもいるはずだと屋敷に向かってみると、やはり屋敷の前で周囲に指示を出すスズリカの姿があった。

「スズリカ様、ウドの洞がいっぱいになりました」

「ああもう、どういうことだこれは!? どうやってこのようなことを……。兎にも角にも皆の避難を急がないとな。時期を見て里の外周沿いに、ロタ山に移動させよう」

「スズリカ族長、大丈夫か?」

「うん? ケイトにアトレイシアか、何をやっているんだ? お前たちも早く山に隠れろ」

「相手はタナトスとかいう侵略者だ。反撃はしないのか?」

 ケイトは反撃がしたいのだと、聞くと同時に理解したスズリカは嬉しそうな顔をしたあと、ぶんぶんと首を横に振ってからケイトを見つめた。

「気持ちはわかるぞ。しかし、まさかわたしがこのまま山の向こうまで打って出るような、そんな無謀な輩とでも思っているのか? それにこの程度攻撃なら山の中にいれば十分に防げる。――コーニャ、敵の位置は特定できたか?」

「こちらではまだですが、オオカミ亜人の方で族長に報告があったようです」

「流石だな。幼いチャニを族長としてよく支えているものだ。――ヘルマーナ、皆の避難の進捗は?」

「全生存者の所在を確認しました。仰せの通り、時期を見てロタ山に移ってもらいます」

 みんな山間の小さな盆地を中心にのあちこちに散らばって、まともな家も持っていないのが大半だから、見回るのは大変。それをこの短時間で全て把握するところにはここの獣人の組織力が垣間見える。

 言い終わり次第別の人にあれこれ指示を出して、スズリカはてんてこ舞いになっているけど、ケイトはそんなこと気にしない。

「この程度で済まなかったら、これ以上が来たら里に掛けられた術が解ける。それから先は防ぎようがない、攻撃すべきだ」

 つまり反撃がしたいのだ。コソコソせずにやられたらやり返すがケイトの……いや獣人の流儀であり美点でもある。キツネ亜人は頭脳派でそうでもないのも多いけど、血の気は多い。

 振り向けばケイトと同様の意見を伝えに来た子たちが集まっていた。スズリカは嬉し半分呆れ半分、でも血の気の多さはこの人も負けてない。いま直ぐ戦いたいとうずうずしてる。

「残念だが、わたしの独断では決めようのない話だ。これから族長会議が行われるから少し待て」

「……了解」

「不服そうな顔をするな。戦力が整うまでに話をつけるさ。お前たちもロタ山に避難していろ」

 そう言い残してスズリカは駆けていった。

「この非常事態にまず会議なんて、里の全体を管理する役が必要だとあれだけ言ったのに」

 ケイトは呆れた顔でスズリカの背中を見送った。昔から身内に頼りにされてはいたけど、里の体制について族長に口出しするほどになっていたことには驚いた。真後ろに落ちた弾の破片が頬をかすったことをどうでもいいことのようにスルーできるほど驚いた。

「いこう、ケイト。ここも危ない」

「ん。そうだな、仕方がない。――みんなも、ロタ山にいこう。ついてきてくれ」

「うん。わかった!」

 里がめちゃくちゃになっていってるけど、ここにいる子はみんな余裕があって元気いっぱいだ。

 まあ、貴重な家財なんて持ってないし、家が吹き飛んだところで大して失うものないしね。

「――って、隣りにいるの、もしかしてアトレイシア!? 帰ってきてたの!?」

「帰ってきた途端にこれって、本当に疫病神だなぁ。……あ、ケイト、いや、冗談だよ。ごめんねアトレイシア」

 ケイトもわたしも、なんのリアクションもしていないのに、何故だか気まずそうに謝られた。

 なんだろう、ケイトの存在が大きくなってる? そういえばリティアが死にかけたって言ってたけど、本当みたい。

「ん。大丈夫、気にしない」

「二人が揃えば百人力だよ~。ちょうどよかった。里の危機を感じ取って戻ってきた? これも運命ってやつだねー」

 ……物は言いようだ。

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