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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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       *        *


「それで、ニンゲンをこの里に入れたいと……」

「……だめ?」

 双子とヤンコフスキ一行をおいてリュイナと二人、2年と半年ぶりに里に戻ったわたしは、真っ先に族長たちのもとに行って事の顛末を話した。

 わたしはこの里に住んでいる人との仲はそこまで良好ではないけど、親が親なだけあってか族長たちとはいくらか親交がある。キツネ亜人の族長、スズリカは直ぐに他の族長を招集して、それぞれの種族長もそれに応えてくれた。

「そう言われてもな、皆がそれを良しとするとでも思っているのか?」

「わたしがみんなを説得する」

「……本当にアトレイシアか?」

「……どういう意味?」

「わたしたちの知っているお前はもっと冷めていたのに、久し振りに会ってみれば妙に熱意にあふれた感じがする、少し変わったな」

「……リュイナには、「変」って言われた」

「ああ、それは的確な例えだな。だが具のないシチューにニンジンが紛れ込んだ程度の違いだ、あまり気にしないでいいと思うぞ。――さて、どう思う? 実のところわたしとしては賛同してやりたいが、それにはこの場の皆の協力が必要だ」

 スズリカが居並ぶ族長の方へと目を向けながらそう発した。この人は話してくれそう。

「亜人ならまだしもニンゲン……子供たちの多くは奴らに肉親を殺され、ニンゲンたちを恐れている者も多い。奴らが歩き回るようになれば精神的に負担をかけることになるだろうな」

 苦言をていしたのは同じキツネ亜人族でも妖術の扱いに長けた妖獣人種の長、レンカだ。

 レンカはスズリカの親友で、この里で一二を争う力を持った妖獣人でもある。彼女が首を縦に振れば里のキツネ亜人は従わざるをえない。だからこそ彼女はとても慎重な性格をしている。

「そんなこと、わたしに任せてもらえれば直ぐに片付くよ。外の世界のニンゲンなんて、興味をそそられるしね。外の世界の技術を入手できればわたしは凄く助かる」

「お前はそうだろうな。ニンゲンかぶれのお前にとっては素晴らしい申し出だろう」

「この世界のニンゲンはまだまだだからね、わたしなら直ぐに追いつけるよ。ただ、手っ取り早く追い越す助けがあれば、それは万々歳さ」

 この「ニンゲンかぶれ」と言われようが平然として乗り気を示しているのはタヌキ亜人のホバーラ。わたしの年上の友人で、わたしに変化の術を教えてくれた先生。族長ではないけど里の知恵袋として重役扱いされている。

 幻術の類を教えてくれはしたけれど本当に得意なのは錬金術などで、更には黒魔術や占術などにも精通し、ついでにからくり技師など技術作業もこなす多芸多才な珍しいタイプの獣人だ。変人なところも同じだし、ウタゲとマツリの主張している天才というものに近い存在だとわたしは思う。

「それで、どう片付けるつもりだ?」

「こんなこともあろうかと、持っているだけで周りから獣人として見られる、わたしたちには大して益のない呪符を用意してある。これでニンゲンたちにみんなを化かしてもらうのさ。安心し給え、ただの獣人では見抜けないよ」

 凄いけど獣人しかいないここでは意味を成さない発明品だ。なんで作ろうと思ったんだろう。

「……「こんなこともあろうかと」?」

「いや、本当は持っているだけでニンゲンに見えるようにしたかった」

「失敗作ではないか。それに獣人しかいないこの里にいて、どうして獣人に見えるようになるとわかる? 持っても持たなくてもみんな獣人だぞ?」

 獣人しかいない空間で獣人ではないものが獣人に見える。確かに辻褄つじつまが合わない。

「そこは気にしてはいけないよ」

「…………」

「な、なんだい?」

 ホバーラは冷や汗を浮かべながらぎくしゃくと微笑むと、レンカが微笑み返して、スズリカがぽきぽきと指を鳴らす音が響いた。

「ホバーラ、貴様いつだったか知り合いに預かってくれとか言われて連れてきた娘がいたな?」

「ああ、あの子がどうしたかな? こう見えて交友関係は広いんだ、外での暮らしは危険も多いし、何か事情があってのことなんだろうね」

「そうか、あとでここに連れてこい」

「もうこの里にはいないよ。極めて多忙なわたしのところでは面倒を見てあげられなくてね。イヤー、ザンネンダナー」

「そうか。よし、だったらお前があとでお仕置き部屋に来い」

「そんな! それはないよ、5日前に出てきたばかりじゃないか!」

「あの時はあの時で、貴重な鉄器を勝手に分解したからだろうがッ!」

「これこれ、族長を集めておいて二人で盛り上がるんじゃないわい」

 呆れて仲裁に入ったのは妖獣人種タヌキ亜人族長のフウカ。見た目はわたしより数歳年上くらいだけど、すでに寿命を開放して妖怪になり、数百年経つらしい。レンカも頭が上がらない大長老だけど、この人もまた奔放で、気ままでじれったい人だからか、発言力はあまりない。

 フウカが止めに入らなかったら、とうとうレンカはホバーラに文字通り噛み付いていたかも知れない。それでも腹の虫が収まらないのか、あとで憶えていろと、牙をむき出しにして唸っている。

 勝手にニンゲンを連れ込んできている不届き者がいるなんて想定していない。ホバーラ、相変わらず問題児だね。ちょっと安心した。

「……ゴホン。つまり、ニンゲンをこの里に入れる手立てはあるということだよ。よかったね、アトレイシア」

「う、うん……でも、大人の男の人ばかりだけど大丈夫?」

 素直に喜んでしまっていいのか複雑な気持ちになった。この友人、この里に住む人にとっては相当な危険分子じゃないだろうか。

「む、それは厳しいな。老けたニンゲンは外見の年齢も誤魔化さないと。それに男たちの生き残りが一度にたくさん現れても現実味がない」

「え……えっと、それでも、少しの間だけなら様子を見てくれるはずだから、直ぐに出ていってくれるなら大丈夫かも……」

 自信なさげにどうにも頼りなく、ようやく口を開いたのは普通のタヌキ亜人族長のマルティナ。基本的に他の族長のいいなりで、威厳の欠片もない人。わたしが視線を向けると申し訳なさそうに視線を逸らすくらい弱気。

「教えても大丈夫そうな子らにはニンゲンだと教えてやった方が良いぞ。ニンゲンにも敵と味方がいるとわかっている子は手出しせん。じゃからスズリカ、リティアに気を付けるんじゃぞ。あやつは勘が鋭い上にニンゲンが絡むと歯止めがかからんからの。あやつが騒ぐと話がややこしくなる」

「そっちこそタヌキ亜人の口をちゃんと閉じておいてもらえるんだろうな? キツネは耳がいいから、ひそひそ話もご法度だぞ。――そうだレンカ、ホロビにも一枚噛ませよう。あいつなら頼りになる。わたしも側近たちに伝えておこう」

「いっそ側近格と妖獣人なら全員教えちゃってもいいんじゃないかな?」

 入れても良さそうな体で話が進んでいるし、案外すんなりいきそう。他人事のようだけど、あの大男のヤンコフスキをどう誤魔化すか、生粋の妖獣人の実力が試されるのは見ものだ。

「面白くなってきたのぉ。皆を化かすのは気が引けるところじゃが、まあ化かされる方が悪いの」

「よし、どうやら各々異存はないな? 良いぞアトレイシア、そのニンゲンたちを里に入れてやれ」

 レンカは長々ねちねちと文句を垂らしていたけど、話はちゃんと聞いていたらしい。

「本当に……いいの?」

 正直、「何を考えているんだ!」ともっと長々と説教をくらう覚悟で来たのに拍子抜けするほどあっさりとお許しが出てしまった。

 わたしと一緒に来て後ろに座っているリュイナに関しては最初に「リュイナも元気にしていたか? それはよかった」と言われて以来完全に空気のような扱いだ。なんとも呆気ない。

「二人とも、わたしの工房に来るといいよ。――あ、でも、予備はほとんどないから何枚か新しく作る必要がありそうだ。直ぐに戻ってたくさん作っておくから、君は一度休んで、夕方にでも取りに来てくれるかな。それまでケイトのところにでも行ってあげたらどうだい? 仲が良かっただろう? あの子は君がいなくなってから、やさぐれてしまってどうにも困ったものだしね」

「うん。ありがとう、ホバーラ」

 ……礼を言いはしたけど、呪符を作るとか言ってお仕置き部屋送りを回避したいに違いない。

 すでにホバーラは上機嫌な顔で意識を何処かに飛ばしていて返事がない。戦車なんて見たらきっと大喜びするだろう。ここまで来る道すがら戦車のことに関してウタゲとマツリからいろいろと教わったけど、ホバーラなら絶対に気に入るはずだ。

 それにしても、あの真面目で落ち着きのあるケイトがやさぐれたなんて眉唾ものだけど、本当なんだろうか。原因が自分だけに申し訳なさが膨らむんだけど。

「本日最大の案件も片が付いたな。それではこれで解散とする。みんな戻っていいぞ」

 レンカのその一言でこの場はお開きになった。

「ホバーラ、お仕置き部屋は明日からだ」

「チャラにならないかい?」

「その時は命と引換えだ」

「ケチだね君も」

無恥ムチだなお前は」

 こんなことを数年も言い合い続けているんだから、この二人仲がいいと思う。

 少なくとも隊長のヤンコフスキは一度ここに呼ばれるだろう。そうなるとここができてから初めて男性がこの場に入ることになるはずだ。ここでいま族長たちと肩を並べることのできたはずの男たちは、先にこの世から去っていたのだから。

 わたしはリュイナと入り口に並んで、足を揃えてお辞儀をしてからその場を後にした。レンカはこういう形式張った礼儀作法にうるさいから忘れるとムッとされる。それこそお説教もの。

「アトレイシアちゃんは、ケイトちゃんのところにいくの?」

「うん。リュイナも、少し寄っていく?」

 半年ぶりの安息の地に、リュイナはによによと気を緩ませている。稀有なことに母親も妹たちも戦争を生き残って、何人かはこの里に住んでるから、早く帰ってお土産話に花を咲かせたいことだろう。

「わたしはもう家に帰るとするよ。アトレイシアちゃん、ケイトちゃんね、アトレイシアちゃんが出ていってから本当にやさぐれちゃって、ずっと退屈そうにしてるから、たくさんお話してあげてね」

「ん」

 言われるまでもない。

 久し振りにケイトに会える。声が聞けると思うと、心が弾む。まだ夜は長いから、たくさん話せるはずだし、ケイトなら、わかってくれるはず。

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