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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「わたしたちの元いた世界では多民族国家はあれど多種族国家はありませんでした。そういうの新鮮で面白いですね。……しかし、そうなんだろうと勘付いてはいましたが、アトレイシアさんの案内はあてになりそうにないですね。キツネは結構記憶力がいいはずですが」

「お姉さま、そもそも磁気を感知して方角がわかるはずなのに方向音痴ですよこのひと」

「記憶力なんて、個人差の問題」

「それを言いますか……」

 それと「じき」ってなに? なんで残念なものを見る目をしてるの。

「そこそこ興味深いですが、話が逸れています。戻しましょう。方角はあっちでしたね」

「それならば追従しているタナトスの一団は途中で東に逸れるでしょう。しかし、道中負傷者の問題が残ります。念の為にいくらか持ってきていた医療品は使い切ってしまいました。何処かで医療品を手に入れないと危険ですね」

「明日には熱を出すかも知れません。これ以上衰弱すれば、命に関わります」

 傷がどれほどのものかは知らないけど、怪我をしたらしい二人の中にはそれほど重篤な人もいるのか。……なんでだろう、わたしはこのニンゲンたちの助けになりたいという気持ちを持ちながら、けが人に対して抱く感情は冷めている。けが人に関しては仕方がないものだと関心を捨てている自分がいて、少し戸惑う。

「それなら薬作ってあげる。薬学なら得意だよ」

「本当ですか? それならお願いします」

「……え、リュイナが?」

 自分の内心に気を取られて、リュイナが放った言葉を飲み込むのに時間が掛かっちゃった。どういう風の吹き回し。

「どうしました? アトレイシアさん」

「もう、アトレイシアちゃん、わたしがニンゲンなんて助けるわけないとか思ってた? 気にしないでいいよ。貸した恩が返ってくるか知りたいだけで善意とかないから」

「そうだよね。驚いた」

「普通この場でそれ言っちゃいますか?」

 あのリュイナそんなに簡単に改心するはずがないと、嬉しくはないけどなんだか安心した。悪意たっぷりに食べ物にこっそり相手の嫌いなものを入れて楽しんだ直後に善意が出るほどブレの酷い子じゃないよね。

「リュイナさんって、絶対人間のこと大っ嫌いですよね?」

「わたしもアトレイシアちゃんもみんなニンゲンのことなんて大っ嫌いだよ? 滅びるならとっとと滅びればいいのに」

「うわぁ、この場でそれ言っちゃいますか。ふふ、しかしそれでも、わたしたちに美味しいシチューを作ってくれるあなたはきっと優しい人です。わたしにはわかりますよ、天才の頭脳を持ってして導き出されたあなたの優しさ、間違いないことは確定的に明らか! わたしたちのように過去なんて捨てて、いまからでも仲良くしましょう!」

 ウタゲが自分の胸に飛び込んできてもいいとでもいうのか、両手を広げてリュイナに差し出すと、リュイナは可愛らしくにっこりと笑った。

「え? アトレイシアちゃんが特別優しいから付き合ってあげてるだけだからね? それともう食べ終わったから言うけど、シチューの中にすり潰したイモムシとミミズ何匹か入れておいたんだけど、天才さんだったらそれくらいわかったよね? 喜んでくれるなんて嬉しいなあ、イモムシ美味しかった? 今度はもっと食感とかも楽しめるようにするから食べてね?」

「……こ、こいつなんて悪魔ですか……!」

 わたしも含めた全員の顔が青ざめた辺り、虫を食べる食文化はないんだろう。

「食べてくれるよね? あんなに美味しいって言ってくれたんだもん、わたしの優しさを踏みにじるようなことしないよね? それでわたしたち仲良しになるんだよね?」

「前言撤回です! わたしあなたなんて嫌いです! アトレイシアさん、あなたの知り合いめちゃくちゃ性格悪いですよ!? 性格悪い通り越して精神やばいですよ!? わたしにはわかります!」

「知ってる」

「オーマイガッ! あなたまともなんですからちゃんと手綱握っててください!」

 「まとも」……! ヘッドたちからは散々に言われたのに、リュイナが隣にいるだけで普通の人に見られているのだろうか、わたしは。

「お、お姉さま、落ち着いてください。イモムシも貴重なタンパク源ですし、割と高級食材です。長野とかで」

「蜂の子とその辺のイモムシを一緒にしてはいけません!」

 ハチの子供、確かに美味しい。でも、刺されると痛いから、なかなかわたしひとりじゃ相手にできない。最後に食べたのは里にいた頃のことだから、もう3年も前のことだ。久しぶりに食べたいな。

「ああ、イモムシちゃん美味しいのに、やっぱりニンゲンって直ぐに手のひら返してわたしたちのこと異常な目で見るんだね。やっぱり薬の調合間違えちゃおうかな」

「は!? この女狐、内に悪意を持って接しておきながらなんと白々しい! わたしは食文化の違いで人を差別するような愚者ではありませんよ、あなたたちではなくあなたのことを異常視しているのです! これじゃ興奮して夜も眠れません!」

「え?」

 流れるように発した最後の一言は興奮して言葉を間違えただけなのかな。

「ああ、こんな異常な精神している人そうそうお目にかかれません。しかも今後行動をともにし間近で生態観察できるなんて……知的好奇心を抑えられませんね」

「確かに想像するとよだれが出てきますね! 下手なことすると自分が人体実験の被験体にされる気がしますが、この際それも良しとしましょう!」

 間違いじゃないらしい。

 突然二人の興奮の方向性がとち狂った挙動を見せるから、リュイナも目を白黒させてわたしの方を振り返った。

「え? え? アトレイシアちゃん、この子たち何言って……?」

「どっちもどっち」

「ええー?」

 この双子、リュイナともなんとかやっていけるような気がしてきた。

「おかしいな、まともなのは君だけみたいだぞ」

 一連の会話を聞いていたヤンコフスキたちは苦笑いを浮かべてる。大人としてこの先ちゃんと手綱握れますか騎兵隊長さん。

「……ヤンコフスキ、なんとなく言ってもよさそうだから言うけど……わたし、この前ニンゲン3人殺してひとり食べた」

「……そうか。いや、君の実歴は彼女たちの今後に比べたら生易しい」

 えぇ……。

 彼とリュイナくらいにしか聞こえないようにして、思い切って言ってみたけど、複雑そうな顔をしただけでサラリと流された。わたしの過去のことなんてどうでもいいくらいに目の前の3人は言い様なく狂人揃いらしい。

 あれこれ気に病んでいた今日一日のわたしが少し馬鹿らしく思えるくらいこの場は「まとも」じゃない人ばかり、その中でヤンコフスキが片手を額に当て、もう一方の手で胃の辺りを押さえているのがやたら痛々しく目に映る。

 この人も、きっとこの先苦労するだろうな。頑張ってね。

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