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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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 視線を移すと、タナトスの兵器群の残骸が累々と横たわっている。

「……リュイナ」

「なに? アトレイシアちゃん……」

 吐くもの吐いて多少回復したリュイナは、何処からか捕まえてきたウサギを撫で回しながら気を落ち着かせてる。

「タナトスが進化してる。あれじゃ敵いっこない」

「うん、あんなの初めて見たよ。あんなのにうろつき回られたら迂闊に出歩けないね」

「規模も大きくなってきてる。いつかニンゲンだけじゃなくて、わたしたちの暮らしまで脅かすかも」

 可能性があるという風な言い回しをしたけど、いや、確実にそうなる。ウタゲたちと出会ってからというものずっと人気のない場所を進んでいたのに、これだけの敵に襲われたんだから、この先もあいつらは場所を問わず現れて襲って来るに違いない。

「えー? 大丈夫だよ。タナトスって近場にあるニンゲンたちの町や村を襲うばかりで人気のない森や山奥には近付かないし、姿さえ見せなければ何もしてこないから、いままでみたいに隠れて暮らせばいいんだよ」

 リュイナはいくらかスッキリした顔で楽観的に後ろ向きなことを言った。

 それじゃあいつまでも、わたしたちは日陰者じゃないか。

「でも、最近は違うんでしょ? リュイナ言ってたよね、最近はあっちの山の辺りにもタナトスが来るって。あの辺りなんてニンゲンどころか亜人もほとんど住んでないよ?」

 わたしは今朝リュイナたちと出会った山の方を指差しながらそう言った。理由がわからない以上、単純に彼らの活動範囲が広がったと見るべきだとわたしは思う。

「でも、魔術とか使えないから術を破ったりもしないし、妖獣人の人たちの術があれば安全だよ。わたしたちだって覚えようとすれば少しは覚えれるんだし、なんとかなるんじゃないかな?」

「そうかも知れないけど……」

「だから早く里にいこう? 身を守るすべはあそこにあるんだよ? 数が多くて野蛮なだけのニンゲンなんてもうおしまい。あんなのの相手するくらいなら自分を守れる力を手に入れる方が先だよ。……あそこのニンゲンたちにはわたしから、最寄りのお仲間の町でも教えるから、ね? アトレイシアちゃんの望み通りでしょ?」

「そう……だけど……」

「……なに? まだあいつらと仲良くしたいの?」

 リュイナの口調がキツくなってきてる。どうしても納得できないらしい。

「リュイナ、もうわかっているでしょ? あの人たちは違う、わたしたちのこと見ても嫌な顔ひとつしない、一緒に生きていける人たちだって」

「それで? みんなが自分と同じ価値観を共有できると思ってるの? できるわけないよ。みんな自分たちにとってニンゲンは敵だって思ってる。アトレイシアちゃんがどう思って、なんと言おうが変わらない、いつか誰かがあいつらのこと殺そうとするよ。そしたらアトレイシアちゃんが一番苦しい思いをするんだよ。自分だってわかってるでしょ?」

「それは……」

 リュイナの言う通りだ。認めたくはないけど、それがいまのこの世界の現実かも知れない。

 それでも、わたしはここで諦めたくない。

「なら、里のみんなに、あの人たちのことを知ってもらう。一緒に生きていけるんだって、わたしが伝える」

 獣人や、ニンゲンたちに故郷を滅ぼされた異種族全ての理解は得られなくても、ごく一部のコロニーの中でならわかり合うことは可能のはず、里のみんなだけなら受け入れてくれるかも知れない。

 わたしの言葉に、リュイナは怒りを通り越して驚きが突き抜けたらしい。目をパチクリとさせて、一呼吸おいてから、ようやく慌て始めた。

「まさか、ニンゲンを里に入れる気? そんなことしたらまたみんなから――」

「わたしのことはどうだっていい。それが正しいことだって、信じたいから」

 本当は、わたしがいまでも変わらずニンゲンを嫌っていることはわかっているし、わたしが、みんながニンゲンを拒むとわかっているとも思っているから、そこまで言うはずがないと高を括っていたんだろう、リュイナの困惑の度合いはみるみると深まって、それでも理解に及ばず、悲痛な表情も色濃くなっていった。

「どうだっていいなんて、そんなことないよ! シェ、シェリナちゃんのばか!」

 涙目で馬鹿と言われた。その名前はやめて。

「いまはきっと、里が一番安全。みんなが受け入れてくれれば、あの人たちはわたしたちの仲間になってくれる。死なせたくない」

「そうじゃないよ。そんなことしたらケイトちゃんだって嫌がるよ? みんながアトレイシアちゃんの悪口言ってたとき、ケイトちゃんひとりでかばってくれてたでしょ? ニンゲンと仲良くしてたら、また迷惑かけちゃうよ?」

「う……」

 その名前を出されると辛い。いつも迷惑をかけた挙句、半ばはそれが嫌で里を飛び出した身としては、確かに厄介事を持って帰ると言うのは過去の自分に後ろ髪を引かれる。

 でも、ケイトならきっと大丈夫。贖罪だってしてみせる。

「ケイトはわかってくれる。みんなにも、わかってもらう。わたし、本気だから」

「……わがままだよ。アトレイシアちゃんって。まだ、お嬢様気分なの?」

「……わたしはお嬢様らしさなんて持った憶えはないし、その気になったこともない」

 石鹸の香りで獣臭さをごまかされはしたけど、わたしはいつだってわたしだ。たとえお屋敷に住もうがお嬢様ではなかった。

「……うん。そうだね。もっと前から、ずっと意地っ張り。ケイトちゃんと似た者同士。昔からそう。だけど……」

リュイナにしては歯切れが悪い。流石に不安なんだろう。いまのリュイナは、本当に、怒りを忘れるほどに困惑している。

「大丈夫、許可が出なければ彼らを里に入れたりはしない。麓で待っていてもらう」

「……いまのアトレイシアちゃん、変だよ。わたしの知ってるアトレイシアちゃんはもっと冷たくて、悲しくて、ひとりぼっちだったよ」

「そうかも知れない。けど、変わりたいって思ったの。ヘッドがその気にさせてくれた、この気持ちを、わたしは大切にしたい」

「ヘッド?」

「この前出会った、外の世界から来たニンゲン。わたしはその人の前でこの世界のニンゲンを殺して食べた。でも、あの人は、それでもわたしを受け入れようとしてくれた……あの人の優しさに、わたしは応えたい」

 これだけ言うとヘッドが普通にいい人のように感じる。いや、悪いニンゲンではないんだけど……うん、良くもないかな。

「そう。……いいよ、やりたいようにやってみなよ。止めないから」

「いいの?」

「何かあってもわたしはひとりで生きていけるし、わたしが止めたってアトレイシアちゃん止まってくれないし、ね?」

「ん……」

 ほんとは不安で、何処までもニンゲンを敵視しているリュイナからしたらニンゲンを里に入れるなんて嫌で仕方ないはずなのに、「いいよ」と言ってくれたのが素直に嬉しい。

「ありがとう。じゃあ、このこと、まずはここのみんなに話してみる」

「うん。――あれ?」

 リュイナが突然わたしの背後に目を向けて首を傾げた。見つめる視線の位置が低い。背後から人や馬ではない足音がすることに悪寒を感じ、振り返るとそこには――、

「ギャン!」

「何なのこの子……」

 タローに押し倒された。

「わっ、タローくん大胆」

「どいてよ」

 なんて言っても、どいてはくれない。顔を舐めないで。

 いや、もういい、お腹を蹴って追い払おう。

「タローくん、アトレイシアちゃんに一目惚れしちゃったんだって。もう秋だしそろそろ時期だけど、タローくんいる?」

「こんな破廉恥な人お断り。――フーッ! コッコッコッ!」

「うん、若気の至りだね~。アトレイシアちゃん、ニンゲンたちが笑いながら見てるよ。亜人なんだからそういうのやめよ?」

「え……あっ、そうだね」

 このとき四つ足になって犬歯むき出しにして威嚇していた姿は後々質問攻めの的になった。

「もう、どうしたのタローくん? え? タナトスが? うんうん。――アトレイシアちゃん、タローくんね、南東の方にタナトスの大群が見えたんだって。こっち来てるかはわからないけど、急いだ方がいいみたいだよ」

「ん」

 なんでそんな大事なことも言わずに真っ先にわたしに飛びついてきたの? わたしとはまともに話す気も言うこと聞く気もないんだねこの子。

 ……とにかく、タナトスが来たならなおさらだ。ウタゲとヤンコフスキに話してみよう。

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