表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
104/341

21

       *       *


 雨の日を一日じっくり休み、雨上がりの日は雑用を混じえつつのんびりと過ごし、神殿探索の日が来た。

 日が変わったばかりの真夜中の出発だ。4頭立ての幌馬車を2両用意して、片方にはニホン軍の兵士4人と食料を積み込んで、騎手を槍騎兵のひとり、ルットが務める。これを「2号車」と呼んだ。イヴァルの代わりに、「極秘任務」と格好をつけた荷物運びのために元気で信用ある兵士を選りすぐってもらった。

 もう一方、1号車の荷台にマツリと、オオズミというニホンの将校、スミダいう傍周りの兵士が乗り込み、彼らを「非常食」と言ってサモフィナがカピターナから笑いを取っている。

 馬車馬に鞭を振るうのはボロフスキ。どの世界の馬だろうと、それが馬なら扱いは容易いものだと豪語して流石「馬車の専門家」と騎士としては微妙な諢名で呼ばれているけど、里を出るときに怪我をしたわたしたちをタチャンカに乗せて救い出してくれた恩人だし、わたしたちは言わないでおいてあげよう。

「何か美味しいものとかあるかな~?」

「骨のある敵でも飛んできていると嬉しいです!」

「せっ、せっかく平和そうなお仕事なのに、それはいやです……」

 サモフィナ、カピターナ、ナイディナの仲良し3人組が今日も和気あいあいとゆるい空気を醸し出しながら、準備が終わるのを待たずに歩き始めた。

 この3人、目的地の場所がわかってないまま足を動かして、そのままはぐれてなかなか帰ってこないなんてことはしょっちゅうだけど、大丈夫かな。リード役のコーニャは何処にいるんだろう。

 それと、イオリカ何処かな。話がしたい。ケイトが眠っている間に内緒で話をしに行ったことがあるけど、調べごとを済ませただけだったから、あまり話はできてない。

 遠巻きに馬車を見つめているイオリカの姿を見付けて近付くと、声をかける前にこっちに気付いたイオリカは姿勢を正してお辞儀をした。

「シェリナ様、おはようございます」

「ん。イオリカ、今日はよろしく。……みんなのいるところでは、その呼び方は控えてほしい」

「心配には及びません。声がとどかぬよう術を張っています。気兼ねなくシェリナ様とお話させて戴きたいので」

 いつの間に。抜かりない人。

 イオリカはスズリカの妹だけど、外見は南方出身の母親の影響が強く、あまり似ていないどころか全体から見ても特異的で凄く目立つ。

 まず、髪の色は薄い灰色一色、前髪は眉毛の上で、他は肩の上で何処も綺麗に切り揃えている。この辺の手入れが大雑把な人が多い中ではこれだけでよく目立つ。

 更に肌の色も褐色で、キツネ亜人の肌色としては、この辺りではまず見かけることのできない色。ヘッドからしたら「きつね色してないのに?」の典型だ。

 それと、しばらく姿を見ていないけどカカリカという双子の姉がいて、彼女も同じ特徴を持っている。ウタゲとマツリ同様二人の姿は瓜二つで、二人一緒にいるところを見たことがないから実は双子じゃなくてひとりしかいないか、もしくはもっといるんじゃないかとわたしは疑ってる。

 みんなに対しては幻術を使って、この姿で見えないようにしていると思うから、この点には口に出して触れないようにしないといけない。ケイトには、どういう風に見えてるのかな。きっと、もっと地味で印象に残らない、一昔前なら何処にでもいそうなキツネ亜人だろうけど、わたしは見たことがない。

「シェリナ様とご一緒できて光栄です。こうしてお話できるのもしばらくぶりですね」

「ん。イオリカ、いつも色んな所で動き回ってるからね」

「それはシェリナ様も同じですよ」

 イオリカは先代族長の血を引くせいか、わたしをうやうやしく扱ってくれる。だからと言って甘やかすような真似はしないけど、厳しいところも優しさ。別に族長は世襲じゃないし、子どもだからって特別扱いする必要ないと思うけど、その辺よくわからない。

 挨拶を済ませて、イオリカはここでケイトに視線を移した。

「お前がシェリナ様のお気に入りか」

「ケイトだ。よろしく頼む」

 ケイトが喋り終えない内から、イオリカはケイトの顔を鷲掴みにして顔を覗き込んだ。ケイトはすでに抗いようがないと見て無抵抗だ。

「知っている。身長1ゼール39ユール、体重38・6パイン、出身はキルトリア・イーラ教王国の首都ティペルの貧民街、ブレンとケイトの娘だが、父親との血の繋がりはない。両親を亡くしたあとは母ケイトの使えていた魔女、グレンダのもとに匿われていたな」

「……何故知っているんだ?」

 ケイトのお母さんってケイトって名前なんだ。訊けば教えてくれたことだろうけど、わたしでも聞いたことがない話。

 身長と体重はいつの間に調べたんだろう。そんなことできる術でもあるのかな。

「わたしには同胞たちを守る使命がある。里に近付く輩の素性を調べておくのも仕事のうちだ。……まあ、留守の内に里は失ったがな。――弱いな。だが、面白い目をしている。シェリナ様もお目が高い」

「ありがとう。放してあげて」

「承知しました」

 イオリカが言われた通り手を離して、人差し指でケイトの眉間を軽く一突きすると、ケイトは直立不動のまま、きょとんとした顔で後ろに倒れた。

「……なんだ?」

「あ、イオリカは毒を使うから、触られるとしびれるよ」

 ケイトはしばらく手足の先をぎくしゃくと動かして、どうやっても起き上がれないことを悟った。

「起こしてくれ……置いてきぼりにされる……」

 困った顔のケイト可愛い。抵抗できないケイトに思いっきりじゃれつきたい。

「可愛いやつだな。食べてしまいほどだ。その毒は強烈に効くが効果は長くないから大人しくしていろ」

 イオリカは舌舐めずりして捕食者の顔になったけど、「くっくっ」と笑いながら背を向けて、移動を始めたみんなのあとに続いた。

 ケイトの可愛さがわかるなんてやっぱり気の合う人だ。ますます尊敬する。ケイトはわたしがおんぶして運ぼう。

「すまない……」

「任せて」

 むしろ万々歳。イオリカを追いかけよう。

「……わたしにまだ何か?」

 後ろにつくと、イオリカは振り向きもせず、興味なさげにそう訊ねてきた。

「ううん。なんとなく、一緒にいたいだけ」

「光栄です」

 この人たちも無口であまり人と話さないタイプの人だけど、性格はわたしやケイト、里に住んでいた他のキツネ亜人とはまた違う。

 力が全てで弱いものに思いやりを持たない。でも、話してみればいい人。素っ気ないやり取りでも思いは通じるところがある。

 髪の毛さらさら、しっぽもさらさら、南の暑いところで生きる身体だからか、服のすそから覗く肌は冬が近付いても手足の先まですべすべの生肌。

「ねえ、イオリカ、わたしの背の高さと重さも知ってるの?」

「貴女は1ゼールと44ユール、50パインです」

 えっと、38.6と50だから11.4パイン(約10キロ)もケイトより重たいんだ。

 いや、ケイトが軽いのかな。あんまりごはん食べないし、里にいる間運動不足で筋肉が衰えたとも言ってたから軽いのも仕方ない。

 そういえば、いつだったかウタゲに身体の痛みを筋肉痛と診断されて、初めて筋肉痛というものを知ってからは時たま愛用している斧を素振りしてた。筋肉は脂肪よりも重たいらしいから、衰えれば体重にも響くはず。

 斧は手で握るところにすべり止めとして巻いている布以外は丸ごと金属だから結構重い。ニンゲンからしたらそんなものを片手で振り回しておいて力がない子供だとは思わないだろうけど、獣人基準じゃそうじゃない。もっと食べて運動しないと。

「ここに来る前は何をしていたの?」

「普段と変わらず、西で日の出を眺めて過ごしていました」

「この前酷く負けたから、いい成果が出たんじゃない?」

 ケイトはわたしの返しの流れがよくわからずに首を傾げた。「日の出を眺める」が扇動工作を指す言葉とは知らないから無理もない。

「はい。じきにこの国も教会から離反することになるでしょう。しかし、西方諸国は教会の支配が強く、また、自惚れです。まだ期待できるほどの効果はありません」

「一度痛い目に遭わせたい」

 西は古くからニンゲンたちが治めていた地域で、発達の度合いは段違い。亜人から奪い取ったばかりで未発達な土地ばかりの東方を失ったところで、豊かで兵士として使えるニンゲンもたくさんいる西の国は余裕面、ということらしい。

 一度ペスティスに顔を殴ってもらった方がいい。慌てふためいて分裂してくれたら総締めとしてふんぞり返っている校生教会も困るはず。

「すでにカカリカが取り掛かっています。成功すれば教会の信用は奈落行き、今日はフシリアに礼を言ういい機会ですね」

 イオリカはそうわたしに耳打ちすると微笑を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ