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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「大丈夫なんですか? アトレイシアさん、体調が優れないようですが……」

「アトレイシアはこういうことに慣れがある。今日明日で行くわけじゃないんだ、体調も戻る」

「人の家に忍び込むのは得意」

 戦争のときの名残で、獣人に暗殺されるのを怖がって屋敷に罠を仕掛けてる貴族がたまにいるから、何度かそういうとこに入ってたら慣れた。

「アトレイシアさん……ほんとにそういう商売で食べてたんですね。泥棒は良くないですよ、泥棒は。お金より大事なものってあるんですよ」

「お金を盗ったことはないよ? あ、でも、この前服は盗んだ。ハーベスのところから」

 あのときの服は、結局タヌキ亜人の三つ子ちゃんにあげた。ごはん作るときに着ているのを見かける。

「え、じゃあ、普段何目的で侵入してたんですか……?」

「……たべもの?」

「どうして疑問形なんですか!? ――いや、いいです。聞きたくないです!」

 どっちなの。

 まあ、屋敷に忍び込んで家主を襲ってたなんて言ったらますます反応に困るだろうから別にいいけど。

 ウタゲもそうだったけど、なんでわたしのそういうとこをやたらと気にするんだろう。事前に相手を決めておくかどうかの違いで、普段から気に入らなければ誰とも知らない人を食べ物にしてるのに。

「よし、神殿内部にも何が潜んでいるかわかったものじゃないからな、ケイトとコーニャ、それともうひとり……イオリカに任せよう。それと、ナイディナ、サモフィナ、カピターナの3人に入り口を任せる。――チャニ、ケーニヒにはコーニャたちと一緒に内部の探索をしてもらっていいか?」

 チャニは頷いて、ケーニヒがわたしたちに同伴することが確定させた。

「せっかくだ、領主様の寄越したダンベルって奴も連れてってやろうぜ。こいつらの仕事ぶりを見るのにいい機会だしよ」

「ビビらせてやろうということだな? ぜひやろう」

 わたしたちにくっついて戦闘団に合流したイヴァルは、ここではひとこと挨拶をしたきりでパートリッジのところへ向かった。

 スズリカはイヴァルを新しいおもちゃ程度に思っているらしい。確かに立ってるだけで圧迫感を与えてくる、イヴァルの持つ厳つい雰囲気が、臆病風に吹かれて霧散してくれようならそれは面白そう。

「いや、それはちょっと……もし本当に外の世界から転移してきた物資があるなら、重大な機密として扱いたいところです」

「我々で独占したいと?」

「はい。当面の内は我々の貴重なアドバンテージである先進性を守ることは極めて重要です。物資は可能な限り、全力を持って占有します」

「この世界のニンゲンたちが外界の武器の扱いを覚えれば、タナトスは勿論儂らとも対等になってしまうからの。先んじて儂らの存在を誇示して、第一人者であると認識してもらわんといかん。それまではお預けじゃ」

 マツリとフウカがセコいこと言ってるけど、そんなことが上手くいくのかな。わたしたちの手の届く範囲の外で絶対に接触するし、異世界からきた人たちに使い方を教わることくらいいくらでも有り得そうだけど。

 ヘッドもわたしと同じ考えらしく、腑に落ちない様子で口を開いた。

「気持ちはわかるけどよぉ、無理があるぜ。おれたちがもしももっと別の場所に落っことされてたとしたら、そこででもどうせ先生になってやるさ」

「回収と妨害には限界があります。それは間違いないですが、知識に関しては、遅れは取りません。ヘッドさんたちのように運用に関する知識とノウハウは残っていたとしても、拾い物の装備に頼っていては直ぐに破綻しますからね。いいですか? ここが重要です。充足率と稼働率を満たすにはまた別の知識、頭脳が必要というわけです。つまりこれです」

 マツリは自分の頭を指差した。

 その場凌ぎで戦うには限界があるから、自分たちのような知識を備えた人が必要になる。それを有するこの稲荷坂戦闘団が特別重要な存在だと知らしめれば、この世界はわたしたちに頼ることになるだろう……ということらしい。

「外の世界からの補充を受けられる場所を知らえてはわたしたちの存在価値が薄れてしまいます。フシリアの神殿がそのような場所であるなら何としても手中に収めて、この世界の住人が外界から得られる物資を枯渇させる。これはわたしたちの生存戦略上非常に重要です。そのためダンベルさんのような部外者には秘密にしておくことが望まれます」

 わたしたちの講義をするときのように同じ場所をぐるぐると行ったり来たりしながら話すマツリの声に耳を傾けながら、族長たちとヘッドは納得したように頷いた。

 んー、ただでさえ人の寄り付かない辺鄙なところで、外の世界から来たモンスターが蔓延ってるとなれば、物資が集まっているなんて気付けないだろうし、知ったところで簡単には手出しできないから、独占できなくもないか。

 それに、この先しばらくの間やっていけるだけの力にもなるかも知れない。……本当に物資があってくれればだけど。

「なるほどな」

「一理ある。そうすべきだ。今日も言うことを聞くとしよう」

 ヘッドもスズリカもそれでいいみたいだし、しがない下っ端獣人のわたしは黙っていよう。今回の話はイヴァルやこの世界のニンゲンには秘密。わたしたちも喋らないようにしないと怒られる。ちゃんと憶えておかなきゃ。

「ご理解いただき何よりです。それと、行くとなったらわたしも行きたいです。ついて行っていいですか? 先程も言いましたが、私的な用事を済ませられそうですから」

 マツリは探索を渋った割に、どうにも神殿にご執心らしく、ついて来たいらしい。

 マツリがついてくるというのは正直凄く心配。怪我とかされたら困るし、神殿の中が何処まで危険かわからない以上、わたしとしてはマツリというリスクを背負い込んで先導役に就くのは遠慮したい。

「一緒に神殿に入るのか?」

「ええ。そのつもりですが……いや、安全が確保されるまで、入り口で待っていましょうか?」

「いや、いいぞ。アトレイシアから離れなければ問題ないからな。さしものマツリも、異界の神殿ともあれば学ぶものもあるだろう。ぜひ来るといい」

 スズリカはわたしに対する謎の信頼を発揮してくれた。

 いや、えぇ……スズリカ、わたしのこと買い被り過ぎ。大丈夫かな……。

「わたしの方で用意をしておこう。アトレイシアとケイトはもう休むといい」

「ん」「了解した」

 んー、マツリのことは、まあいいか。休んでいいなら遠慮なくそうさせてもらおう。

 並んで礼をして、ケイトに続いてテントを出ると、早速ケイトが顎に手を当てて何か考え込んだ。

「どうかした?」

「イオリカが来るらしいが……わたしは、イオリカのことは昔から記憶していて、話をしたこともある気がするが、全ておぼろげだ……何故だ?」

「イオリカが来たのはほんのちょっと前だよ。会ったのは初めてじゃないかな?」

「そうか? そんなはずは……」

「この前、術でみんなの記憶をいじってるからそう感じるだけだよ。ずっと里の外にいたはずだから」

 ケイトはわたしの言った言葉に驚いて、顎に手を当てたままこっちを向いて目をぱちぱちと瞬かせた。

 カトリナの勘ぐった通り、イオリカは特務班のひとり。コーニャが言っていた通り最近になって戦闘団に合流して、ニンゲンたちの動向を監視し始めてる。通常なら探索なんか任される人じゃないけど、今回選ばれたということは、つまりはそれだけフシリアの神殿が重要視されているということ。わたしも気を引き締めてかからないといけない。

 その辺の知識に疎いケイトは、単純にイオリカを頼れそうな人と受け取った様子。頼りにはなるけど、下手をすると明日が危うくなる怖い人でもあるのは、言っておいた方がいいのかな。

「そうなのか。凄いな、大勢の記憶を書き換えてしまうなんて。イオリカが自分でやったのか?」

「うん。イオリカは強い力を持った妖獣人だから、それくらいできるよ。それに、お母さんが違うけどイオリカはスズリカの妹で、戦いでも強い」

 ただ、相手をゆっくりと時間を掛けて殺すのが大好きで、最後は首の骨を折って仕留めたがるわかりやすい短所がある。でもこだわるだけあって動作は洗練されていて、無駄のない身のこなしは見ていて綺麗。わたしもあまり話をしたことがないけど、彼女の戦いが見えるかも知れないと考えると、今回の人選は嬉しい。

「わたしたちより少し上くらいに見えるのに、凄いな。心強い」

「うん」

 いろいろと世話になっているし、いいとこ見せれるように頑張ろう。前とは打って変わってやりがいのある刺激的な仕事、ちょっと楽しみになってきた。

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