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「神殿……ですか?」
「ああそうだ。鳥人から聞いた。場所はここから西の平原を西南西に抜けた先の森の中、隣の領地との境くらいだ」
戦闘団の根拠地ラプサンに戻り粗方の報告を終えたわたしたちは、早速メウヤから聞いた神殿の件について相談を始めた。ヘッドは詳しく話を聞いてたらしく、メウヤがいうには、神殿には外の世界から転移した物資が山積みになっているかも知れないらしい。
西の方はわたしたちも何度か探索に出掛けたことのある場所だけど、獰猛なモンスターが多くて、森まで行ったら探索どころじゃなかった。日々食糧不足だから仕留めたモンスターを食料として持って帰るだけでも助けにはなるし、奥まで探索するにはスタミナがもたない。ハブラと武闘家衆が度々討伐にいって数を減らしているらしいけど、実際に数が減っているかは怪しいところ。
「フシリアの神殿というものがどういったものかは知りませんが、どうして物資が? 西の平原は危険地帯です。危険を冒してまで物資を獲得するならまずは街道の安全を確保すべきですし、いま人手を割くのはちょっと……」
「軍需物資から生活必需品までぜーんぶ不足してるからな、確かに臨時収入より補給路の確保の方が、大事かも知れねぇ」
いまのハーベスは他所との物資のやり取りを西の平原に伸びる街道に頼っているから、モンスターの襲撃で補給が途絶えがちで、戦闘団としても困るから護衛を付けて改善しようという話になってる。そっちで人が欲しい現状、不確実な情報をもとに物資漁りに人を出すのはいかがなものかと、マツリが決めかねた表情で額をつんつん小突いた。パートリッジが寝込んだままでマツリがいくらか代役を引き受けているところもあるけど、あまり勝手なことはしづらい。
その傍らで妖獣人タヌキ亜人の族長、フウカはそこそこ乗り気な様子。
「この世界にタナトスを解き放ったとされるフシリアの神殿ということは、そこは外界に通じやすいところということじゃ」
「外界に通じやすい?」
「うむ。フシリアの神殿は常にそういう場所に造られているんじゃよ」
「そっ……それです! それを探していたんですよ。その神殿のこと、詳しく教えてください!
マツリは物憂げな顔から一転、花が咲いたような笑顔を見せてフウカに身体を寄せると、口早に質問を浴びせた。一体どうしたんだろう。
あ、いや、ちょっと考えればわかることだ。外の世界に通じてるならそこから元の世界に帰れるかも知れない。そうすれば自分たちとこの世界のことを伝えて、双子は歴史に名を残す偉人の仲間入りを確定させて、上手くいけば外の世界からの支援を受けれるようになるかも。そうすればペスティスなんて一捻りに叩きのめして、ついでに校正教会をぶっ潰してもらうのも夢じゃない。
「詳しくと言われても困るのぉ、神殿などというものに興味はないし入ったこともないんじゃよ。神殿というのは名ばかりで、人が寄り付かず、外界に通じやすい場所に在るというだけじゃよ。フシリアは鳥人たちの間で信仰されておった宗教みたいなものでの、あやつらはこの世界の転移術研究の最先端じゃったが、まあ変な奴らじゃったな」
「確かにケーニヒからの報告で、この森の中でガソリンのにおいがしたとはあるが……探索するのは骨が折れるぞ。途中で魔獣どもの相手をしていたら。たどり着くのにどれだけ時間が掛かるかわからぬ。長丁場にななると面倒だろう、わたしがひとりで見てこようか?」
慎重なレンカもマツリと同様に難色を示しつつ、自分ひとりで行く分には問題ないからと協力的。
「成功したら少なくともガソリンは手に入るはずだ。ホバーラが作ってくれる量じゃ足りねぇだろ? 領主さまから馬車でも借りてひとっ走りすりゃいいさ。なんならアトレイシアとケイトさえ付けてくれたら、おれが行ってきてもいいぜ」
ヘッドは何処まで考えているか知らないけど、ちょっと大雑把過ぎるんじゃないかな。頼りにしてくれるのは嬉しいけど、安全は保障できない。ガソリンのにおいだって神殿からにおってるとは限らないし手に入る確証はない。
「うぅ~、危険なモンスターとの戦闘は控えたいところですが、転移物資は欲しいです。それに、私的な用事もあるので……」
「困っているようだな」
「はっ、この声は!」
ここは族長たちが使っているテントの中。そこに外から、こういうときに頼れる人の声が響いた。
「わたしがレンカと二人、ひと足先に行って魔獣の相手を引き受けよう」
「スズリカさん! そうです、あなたがいましたね!」
声に落ち着きを保ったまま勢い良く現れた、無尽蔵のスタミナを持つ生粋の戦闘要員、我らがスズリカは今日も自信満々意気溌剌。
「……ところでその返り血は?」
「ああ、数が多かったからな。におうか? 手始めに出会った奴を全部仕留めてきたぞ」
「すでに行ってきた後なんですね」
わたしも人の事は言えないけど、スズリカの服は血を浴びてかなりにおっている。探索に出かけてはモンスターを仕留めて食べるわたしたちの服はみんなこんな感じ。
「たまには運動しないと鈍るからな」
「あなたは少し落ち着いてください」
「うん? わたしは割りと落ち着いている方だと思うが?」
「性格の話じゃないです」
お酒が絡まないか、腕っ節の強さ以外を求められる状況に陥らない限り、スズリカは落ち着きのある性格の人。そんな性格に対して、日頃の行いに落ち着きがあるわけではない。
「これまでは魔獣が多くなり過ぎたらハブラが片付けていたらしいが、あいつはいま留守だからな。暇があるときにでもと頼まれていたんだ。森には見慣れない魔獣まで繁殖していて、あれはあれで、ほとんど魔境だぞ。平原を彷徨ついているのは森から叩き出された雑魚だ」
ハブラは今頃、ウタゲと一緒に王都を目指している道中。領主とダルタンの紹介状を携えて王様に謁見するらしいけど、あの尊大で傲慢なウタゲが王様の機嫌を損ねないか気が気じゃない。救いといえばマツリが行くよりもマシと言ったところ。
「そんなところに行って大丈夫なんですか? 獣人の方に怪我をされるのはきついです」
「あんな奴ら、わたしからしたら大差ない。何人か人を出して調査しよう。どのみちこの辺りの外来物は取り尽くして、何人か遠出させているからな」
「冬に備えて食べ物も蓄えないと……今年は収穫量が落ち込んで町の人達も困っているんです。食べ物を分けてあげられればいいなって……」
「タナトスどもが大人しいいまの内じゃよ」
他の族長たちに続いて、オオカミ亜人の族長であるチャニも『ケーニヒを出すよ』と同意して、獣人の方はこれにて満場一致。こうなればとうとうマツリもその気になった。
「司令にはわたしから伝えておきますね。人選はどうしますか? スズリカさんがモンスターを片付けてくれるなら運搬に集中できそうですし、ヘッドさん言う通り、馬車でも借りて大勢で行ってみてもいいですね」
「あ、フシリアの神殿は関係者が転移術を使うことをいいことに、普通に入ろうとすると罠が待っておるぞ。ニンゲンが大所帯で行くのは危険かも知れんの」
「えっ、面倒ですね」
フシリアの神殿は、神殿なのか冒険者向けのダンジョンなのかわからないところ。異教は邪教という考えで校正教会があちこちの神殿や教会を取り壊したけど、フシリアは神殿と言いつつ明確な祭神がいないらしいし、総本山のである鳥人の国の外では信仰心のない人も転移術の習得のために利用してたから、他のところの神殿と比べれば取り壊されずに残っていることも多いとか。
それにしても、タナトスの発生源が何処かの神殿とは聞いていたけど、フシリアのものとはわたしでも初耳。何処で仕入れたんだろう。
「なに、わたしたちを手玉に取れるような罠ではないさ。――アトレイシア、神殿の中ではお前が先頭で頼むぞ」
「ん」
この場にいたのをいいことにまた直々に指名が入ったけど、族長さまから頼まれたからには断れない。頑張ろ。




