ゲートと、歓迎
『魔法都市はよく狙われる』。
まあそりゃそうだ、日本のたかーい魔法技術がここに集まってるんだから。
故に、守りは固く……特にこのゲート前は。
『ゲート』。
それはこの魔法都市の最初の観光場所と言っても良い。
入り口、されど入り口。
例えば玄関は家の顔と呼ばれるように大事なモノである。
まあだからって――ここまでするかとは思うけどな。
……俺の目の前には、古代ギリシャを象ったような、馬鹿でかい門が存在しているのだ。
しかし、それだけでは何もないただの古代遺産さながらである。
なんと門は十の入り口に別れており、入る場所によって出る場所が違うのだ。魔法技術恐ろしい。
十の色彩に別れ、透き通った鏡のような光景はとても綺麗で、見惚れてしまう。
うん、写真とっとこ。
さて……俺が妹と待ち合わせしてる場所は、あの水色のゲートに行けばいいんだっけか。
良い写真も撮れたところで、水色のゲートに向かう。
「身分証明出来るものは?」
入る前には、当然門番から質問を受ける。
本当に別の国かって感じだ。
「……柄井、優生か。入って良いぞ」
取り合えず持ってきた身分証明書を全部出すとオーケーを貰えた。
がさがさと書類をかき集め、バッグに入れ……
いよいよ、俺はゲートに足を踏み入れた。
―――――――――
感覚としては一瞬。だが、長い距離を移動したのは分かる。
……本当に不思議だよ、魔法ってのは。
さて、久々に見る魔法都市の光景を楽しみたいところだけども。
――誰かに、見られている。
ゲートをくぐったと同時に、その視線は感じていた。
方向は分かる、だが……その方向にあるのは、明らかに何十キロも離れている、建物の頂上。
……まさか。
拭いきれないその感覚を確かめるよう、胸ポケットから眼鏡を取り出し、掛ける。
それは、俺以外の奴が掛けるとするならタダの伊達メガネだろう。
視線の方向へと目をやり、カメラのズーム倍率を上げるようにイメージしていく。
5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、500倍。
マサイ族涙目の俺の視力は、遥か遠くに人影のようなモノを見つける事に成功。
「……はは」
見えてきたその人物の顔に、思わず笑いが溢れる。
俺の視線の先には――母さんがこっちを見て、にこやかに手を振っているように見えたのだ。
「ほんと訳わかんねえな、母さんは」
呟くと同時に、ピロリ、と携帯が鳴る。
この着信音はメールだろう。
携帯に目を落とすと、ただ一文、母から送られてきた。
【魔法都市へようこそ!】
はは、母さんらしい歓迎をありがとう。
さっきの方向に目をやれば、もう母さんはいなかった。