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もふもふ毛玉、街に行くの巻

朝日が、丸まったコモフの顔に差しかかりました。

小鳥の声もしてきます。

「むにゅ~」

なんだかじめじめするな、とまで考えたところで、コモフは目がぱっちり開きました。

そうです。昨日は疲れて眠ってしまったのです。

もふもふ族は、寝穴という、小さな横穴を家の中にしつらえます。

その中で、家族全員がくっついて、尻尾にくるまり丸まって眠るのです。

でも、村のおうちは全部燃えてしまいました。

昨晩寝穴に選んだのは、村はずれのなだらかな斜面に空いた横穴でした。

中に腐った木を横たえ、きのこを育てていた穴です。

寝ぼけ眼をこすりながら穴の外に出ます。

「おはよう」

鍋をかき混ぜながら、シロミミはコモフに挨拶しました。鍋に浮かんでいるのは、穴の腐り木に生えていたきのこです。

おいしそうな匂いが漂います。

近くには亀さん―――おねーちゃんが1匹と、小さい方のおばちゃんがいました。

大きい方は近くに跪いています。

「おはよう…」

どすん、とコモフは腰を落ち着けると、シロミミから差し出されたお椀を手に取ります。

もふもふ族は、食べる前には何も言いません。

無言のまま、お匙でスープをすくいます。

貴重な塩や、味の強い木の実をたくさん使ったのでしょう。

五臓六腑に染み渡る暖かい味です。

「オイシイ?」

身を乗り出したおばちゃんが聞いてきます。

「うん」

コモフが正直に答えると、おばちゃんは鍋の中身をじっと見ています。

「ずっとこうなんだ」

シロミミが面白そうに言いました。

おばちゃん、料理に興味津々のようです。

「さて。これからどうしようか」

コモフは、シロミミの言葉にはっとしました。

「私は旅の続きに戻ろうと思う。ついてくるかい?」

そうでした。

シロミミは、旅の歌うたいなのでした。

昨日は村の外で薬草を摘んでいたコモフと出会い、案内されて来たのです。

元々村とはかかわりのないもふもふでした。

「行く」

コモフに選択の余地はありませんでした。

「じゃあ、食べたらすぐに出かけよう。

 おばちゃんたちも、それでいい?」

「ウン」

決まりです。


 ◇


となりの街までは、街道を歩いて1日といったところです。

子供のコモフの足でも、十分にたどりつくことができます。

色々と詰め込んだずだ袋を背負い、コモフとシロミミがのんびりと進んでいました。

その後ろをもそもそ歩いているのがおねーちゃん。背中にはおばちゃんが乗っています。「隣の街に行ったことはあるかい?」

「ないの」

雑談を続けながらもふもふと亀さんたちと鉄巨人は歩きます

「しかしでっかいな。こんな大きいのが街にやってきたら、みんなびっくりするよ」

ついてくる巨人を見上げながらシロミミは苦笑します。

「ビックリ?」

「するねえ」

「カクレル」

ずぶり。

鉄巨人の足先が地面にめり込みました。

「え?」

もふもふたちの見ている前で、燐光を発しながら、どんどんと鉄巨人は地面へ沈んでいきます。

あっという間に頭の先まで見えなくなりました。

地面には跡も残っていません。

続いて、おねーちゃんたちもずぶずぶと沈んでいきます。

こちらも1匹を残して全部いなくなってしまいました。

「……凄いね」

「ウン」

残ったおばちゃんとおねーちゃんだけなら、不思議には思われるかもしれませんが、びっくりはされないでしょう。

安心です。

そうこうしているうちに、昼になり、夕方になる前に街へ着きました。

おうちが百戸以上もあり、木の柵で回りを囲まれた大きな街です。

「ついたー!」

「ツイター!」

コモフの叫びをおばちゃんが真似します。

だいぶ言葉も上達してきました。

シロミミが、街の入り口近くで働いているおっちゃんに歩み寄って何事か話します。

しばらく話して、やがて結論が出たのでしょう。

こちらにおいで、とシロミミがコモフたちを手招きします。

「はぁ~。変わってるのを連れてるなぁ」

おっちゃんは物珍しいそうに、おばちゃんとおねーちゃんを見ています。

おばちゃんは、よっ!と手を上げて挨拶。

「じゃあ行きなよ」

「ありがとうございます」

この辺は流石に、旅慣れている歌うたいの貫録でした。

一行はそのまま街に入ります。

出会う人々の視線を浴びながら、よにんは進みました。

「これからどうするの?」

「今日は、どこかの家に泊めてもらう。それで、歌を披露するかな」

旅人の珍しいもふもふたちの間では、めったに聞くことができないよその話は貴重な娯楽です。

歌うたいは、そういったことを歌にして聞かせることで、日々の糧を得るのです。

もうすぐ日没。

歌うたいが活躍する時間です。


 ◇


街はお祭り騒ぎでした。

長の家の前では大きなたき火が焚かれ、シロミミのリズミカルな歌声にたくさんの人がうっとりとしています。

おばちゃんとおねーちゃんもちゃんと働いてました。

重そうな鉄の体の外見に反して、空中3回転したりバク転をしたりと身軽さをアピールするおばちゃん。

後ろ脚だけで頼りなさげに歩き、皆を笑わせるおねーちゃん。

村のもふもふたちは、おばちゃんとおねーちゃんを異国の変わった生き物だ、くらいに思っているようです。

コモフも、あんな出会い方をしなければそういうふうに思っていたことでしょう。旅人が変わったいきものを連れ歩いている事は珍しくないからです。

と、物思いにふけっていると、突如おねーちゃんがやってきます。

かと思うと、えい!とばかりにコモフを肩車してしまいました。

「えっ、わっ?」

意外とバランス感覚がいいのか、外見に反して乗り心地は抜群です。

コモフも腹を据えて両腕を広げます。

湧く観客たち。

コモフは凄く恥ずかしくなりました。

でも、とても楽しいです。

やがて、シロミミの歌が、何千年も昔の、勇壮な神話を主題としたものに変わります。

コモフも何度か聞いたことがある、勇者と巨龍の戦いです。


 ◇


――ある日、天から傷ついた龍が降ってきました。

立派な角を持ち、両手から火や雷を放つ、小山のように巨大な龍でした。

龍は酷くおびえていて、近づくものすべてを喰ってしまいます。

でも、近づかないわけにはいきませんでした。

水源に、龍は居座ってしまったからです。

なので幾人ものもふもふたちが立ち向かいましたが、誰一人としてかえって来ませんでした。

このままでは作物が取れず、みな飢え死にするしかありません。

たまりかねた一人の若者が、弓を取りました。

彼は、恋仲の娘がいました。村のため、娘のために、若者は龍へ戦いを挑んだのです。

旅だった若者を迎えた龍は、確かに恐ろしい姿をしていました。

ですが、その体はひどく傷ついていたのです。

胴体が半ばまで割かれ、首にはとても巨大な槍が刺さっていました。

哀れむ心を鬼にして、若者は矢を放ちます。

矢は、傷口に正確に突き刺さったように見えました。

でも、矢は龍の体を突き抜けてしまったのです。刺さった痕はどこにもありません。

どんな武器も通り抜けて傷つける事ができない。

それが、今まで幾人もの勇者が龍を倒す事ができなかった理由でした。

若者は考えました。

龍は傷ついています。

ということは、誰かにやられたのです。龍を傷つける方法はあるはずなのです。

若者は、龍に刺さった槍に目を付けました。

小さい武器は通り抜けても、とても大きい武器なら?

駄目で元々です。

若者は、逃げ出しました。

龍はのろのろと追いかけてきます。

もし龍が健康な体だったら、若者は一瞬で食い殺されていたでしょう。

必死に逃げ回り、時折投げつけられる火や雷をかわしながら、若者は近くの岩山までやってきました。

そして、頃合いを見計らって、若者は矢を放ったのです。

龍にではありません。山の上の方にです。

それは、1個の小石にぶつかりました。

ころころ転がって、別の小石にぶつかります。

3個、4個と転がる石が増えました。

やがてたくさんの石が転がり、岩棚の上にある大きな岩にぶつかって動かします。

その真下には、ちょうど龍がいました。

龍は、岩の下敷きになりました。

やった!

そう思った時です。

岩が、内側から粉々に砕け散りました。

龍が砕いたのです。

深く突き刺さっていた槍は、大きく龍の首を切り裂いて抜け落ちていました。

咆哮が響き渡ります。

若者は死を覚悟しました。

その時です。

やめて、と叫ぶ声が聞こえました。

村で帰りを待っているはずの娘が、そこにいたのです。

若者が心配で、追いかけてきたのでした。

龍は、不思議そうな目で若者をかばう娘を見下ろします。

そのまま、何もしてきません。

やがて、龍はどこかへ去って行きました。ふたりは助かったのです。

再び水源が使えるようになり、村の危機は去りました。

なぜ、龍が立ちさったのかは分かりません。

若者の知恵と勇気に感服したのだとも、娘の若者を庇う愛に恐れをなしたのだとも言われています。


 ◇


長い、長い歌が終わりました。

もふもふたちの拍手が響き渡ります。

コモフも、しっかりと聞き入っていました。

と、街に入ってから今まで黙っていたおばちゃんが呟きます。

「ミツケタ」

と。

何を見つけたというのでしょうか?

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