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もふもふ毛玉、鋼鉄の巨人と出会うの巻

遠い昔。

こことは違う太陽系。

大きな若い太陽の周りを、小さな、小さな、蒼い星が回っておりました。

たくさんの水をなみなみと湛え、青々とした自然に包まれた美しい星には、可愛らしい住人が住んでいました。

彼らは自分たちの事を呼ぶ名前を持っていましたが、私たちには発音できませんので、仮に"もふもふ族"と名付けましょう。

これは、小さな小さな星に住むもふもふ族と、宇宙からやってきた鋼鉄の巨人たちのお話です。




とことこ。とことこ。

大きな毛玉。小さな毛玉。

二人のもふもふが歩いてきました。

大きな毛玉は白くて、長い耳を持っています。シロミミと呼びましょう。

小さな毛玉は茶色で、まだ子供です。コモフと呼びましょう。

シロミミとコモフが歩いているのは、左右に、しなるような枝の樹が並び、背の高い作物が植わった畑の広がる田舎道です。

道と畑を分ける石壁は古く、ところどころ崩れています。


ふと、コモフが空を見上げました。

「あっ流れ星」

シロミミもつられて空を見上げます。

と、シロミミの顔が険しくなりました。

「伏せろ!」

シロミミは、コモフを庇うと石壁のそばに倒れ込みました。

轟音とともに、光の玉が落ちて来ます。

光の玉は2人の頭上を通り過ぎ、そのずいぶんと先の地面にぶつかりました。

一拍おいて。

凄まじい揺れが起きました。空を飛べる生き物たちが一斉に逃げ出し、その直後に巻き起こった暴風に薙ぎ払われて行きます。

閃光と爆発が収まった頃、シロミミはようやく顔を上げました。

あたりは酷い有様でした。

石壁に守られたシロミミとコモフは無事でしたが、木々は倒れ、土砂が飛び、畑の作物は傾いています。

「……どうなってるの……」

コモフの言葉に、シロミミは呆然自失から立ち直りました。

「村…帰らなきゃ……」

立ち上がると、まるで何かに取りつかれたかのようにコモフはふらふら歩き出します。

そのときです。


SHAGYAAAAAAAAAAAA!!


魂消るような咆哮が響き渡りました。

「何……あれ……」

何かが立ち上がりました。

最初、コモフはそれが見間違いか何かかと思いました。

だって、そいつの大きさは小山程もあるのです。

それは、生き物でした。

途方もなく巨大な、全身をぬらぬらと湿らせた、くすんだ灰色の肌を持つ怪獣です。

丸みを帯びたその体は、鈍重そうでしたが、平たく長い顔、が開き、大きく胸が膨らんだ、かと思うと。


BEEEEEEEEEEEEEEE!


口から、業火が噴き出しました。

「いや…いや……」

コモフはうわ言のように呟きながら駆けだしました。

あの炎に包まれたあたりには、彼女の村があったのです。

「待て、お嬢ちゃん!」

シロミミはコモフを制止しようと走りだしました。

その時です。

怪獣が、跳ねました。

「え―――?」

消えた、と思う間もなく、落ちてきます。二人の前に。

轟音。衝撃。暴風。それらが、容赦なく二人のもふもふに襲い掛かりました。

ころころともふもふたちは転がって行きます。真ん丸なので転がりやすいのです。

ゆさゆさ。

体を揺すられるのを感じて、コモフは目を開けます。

揺すっていたのはシロミミでした。

あたりは土煙が立ち込めています。

ありがとう、と言おうとしたコモフの口を、シロミミの手がふさぎます。

そのまま、シロミミはコモフの手を引いてゆっくり歩き出そうとしました。

土煙に紛れて逃げようとしたのです。

ところが大変。

目が合いました。

何とかって?

怪獣とです。

コモフが見上げた先には、ちょうど怪獣の目がありました。

つぶらで、意外とちっちゃいです。可愛いですね。

でも、怪獣はとても大きいのです。しかも火を吐きます。


GOAAAAAAAAAAAAA!


怪獣が吠えました。

シロミミがコモフを抱いて庇います。

もうだめだ!!

コモフは本心からそう思いました。

怪獣の、大きく開いた口が二人に迫ります。

その時です。

二人の視界の真横から、巨大で細長い何かが、怪獣の顔にぶつかりました。

あまりにも巨大で、何がなにやら分かりません。

直線を複雑に幾つも組み合わせたそれは、怪獣の顔を大きく歪めながら吹き飛ばしました。

「……あれは……」

それは、白銀の巨人でした。

腕があります。

脚があります。

頭もあります。

ここまで、もふもふ族と同じです。

違うのはまず大きさ。

そして、そのシャープな形でした。

もふもふ族は、まるっこくて手足が短く、太い尻尾と相まってころころとしたユーモラスな姿をしています。

ですが、巨人は胴体が細く短く、一方で手足は鋭く細長い、まるで戦士が持っている槍を何百倍にも凶悪に洗練させたかのような、どこか美しさすら感じる形です。

背中には大きな翼。何枚ものそれが、誇らしげに広がっています。

そして、何よりも違うのは、巨人が金属でできている事でした。

言うなれば鉄の巨人。鉄巨人です。

…さっきの怪獣より強そう。

それが、コモフが鉄巨人に抱いた第一印象です。

鉄巨人は、たったいま怪獣の顔面を蹴り飛ばした脚を降ろしました。

そのまま、左腕と左半身を前に出します。

それが、構えた、というのはコモフにもなんとなくわかりました。

と、鉄巨人の顔が、もふもふたちに向けられました。

背筋が凍るような思いをした二人ですが、首が、"行け!"と促すように動くと、怪獣にまた向けられたのを見て、考えを改めました。

一歩。二歩。と、二人が後ずさり、後ろを向くと一目散に駆け出します。

それを視界の隅で認めた鉄巨人は、その巨大な腕―――対甲格闘用アームを怪獣へ向けて突き出しました。

超振動カッターになっている指が、怪獣の皮膚へと突き刺さります。

大気圏突入にも耐える分厚い皮膚を、分子間結合をズタズタにしつつ突破した指は、そのまま太陽表面に匹敵する高熱を放射。

体液を飛び散らせる暇も与えず、周辺組織を焼結させます。


SHAGYAAAAAAAAAAA!?


苦痛のあまり怪獣はもがきますが、鉄巨人はビクともしません。

逃れられないと悟った怪獣は、強力な攻撃手段―――口から炎を吐きました。

電離し、プラズマ化した火炎はしかし、鉄巨人に触れる事すらなく真上にねじ曲がり、拡散していきます。

強電磁場によって防がれたと理解するほどの知能は怪獣にはありませんでした。

その開いた口に、近すぎて炎を捻じ曲げられないのも構わず、鉄巨人のもう一本の腕が差し込まれます。

今度は、高熱ではありませんでした。

手が刺さった部分が、金属に変わりました。

それはどんどん広がり、口の中のみならず内臓、骨、そして皮膚まで、怪獣の全てが変わっていきます。

たちまちのうちに、怪獣は全身から結晶を突き出した金属のオブジェと化してしましました。

元素転換―――もふもふたちには理解できない恐ろしい力が、怪獣を屠ったのです。


はっ、はっ、はっ、はっ……

二人のもふもふは、死にもの狂いで道を走りました。

「きゃっ」

ごろごろ。

転んだコモフが転がっていきます。

シロミミが追い付いた時には、コモフは苦痛に顔をゆがめていました。

「大丈夫かい?」

「痛いよう……歌うたいさぁん…」

「見せて」

コモフの怪我の様子を見たシロミミは難しい顔になりました。

脚が折れています。

これでは逃げられません。

と、その時。

二人の真後ろから、強い風が起きました。

恐る恐る二人が振り返ると……

鉄巨人が立っていました。

その顔は二人に向けられ、じっと見つめられているのが分かります。

目らしいものは三つ。

眼帯のような形の右目。綺麗な宝石のような左目。

その間にちょこん、とある丸いのもたぶん目でしょう。

不思議な事に、口や鼻はありません。

頭の上には不思議な帽子のようなものを被っています。

と、鉄巨人が帽子に手をやりました。

外して、お辞儀をします。

緊張していたもふもふたちは、腰から力が抜けました。

少なくとも、巨人に知性らしきものがある事は間違いありません。

それに、今の動きはどう見ても、『お前を喰ってやるぞ!!』というメッセージには見えませんでした。

「助けて…くれたの?」

コモフの問いかけに、鉄巨人は小首を傾げます。

そのジェスチャーの意味は、コモフには分かりませんでした。

でも、こちらの問いかけに何らかの答えを返してくれたのは分かります。

と、鉄巨人が跪きました。

シロミミはぎょっとしましたが、コモフは恐れませんでした。

ゆっくり、恐る恐る、鉄巨人は手を差し出します。

まるで傷つけるのを恐れるかのように。いいえ、実際そうなのでしょう。

そうして差し出された手。その指の一本でも、コモフより大きいのでした。

今まで見たことのある、どんな包丁よりも鋭利なその指先を、コモフがそっと両手で包みました。

こうして、もふもふと鉄巨人がであったのです。

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