水が飲みたい
私はふと、水が飲みたくなった。
お茶や珈琲じゃない、水だ。
気温はそうだな、20℃くらいか。風は無いが蒸し暑くもなんともない。
普段から水を飲んでいるわけではない。あるだろう?突然、無性に何かが食べたくなるような。そう、チキンラーメンとか。そういうあれだ。
ああ、家にいたなら蛇口をひねるだけなのに、どうして外なんかにいるのだ。
しかし、これから予定がある。家に帰るわけにはいかない。
とりあえずあたりを見回してみる。200mほど先に赤く細長い直方体が見える。
自動販売機だ。
私は早足で200mほど歩く。
左上の端2つ。天然水500ml入り120円。下には赤い小さな丸が2つ。
なんてこった。売り切れだ。
よりにもよってなんで水だけ売り切れているんだ。いつもはお前ら最後まで残っているだろうに。
もう一度あたりを見回してみる。300mくらい先に公園が見える。
私はまた早足で300mほど歩く。
ほら見ろ、思った通り水飲み場がある。
私は急いでかけよる。
あれ、なんかおかしい。あの歪な形の上に藁でカバーがあるではないか。
冬囲いの残りだ。
なんてこった。もう7月だぞ、後で管理会社にクレーム入れてやる。
もう一度あたりを見回す。
公園を抜けたところにコンビニが見えるではないか。
(゜∀゜)キタコレ!!
おっと失礼。走って公園を抜ける。
右見て
左見て
もう一度右見て
コンビニの入り口が開く。
ちょっと効きすぎた冷房。
右に曲がった突き当たり。
飲み物コーナー。
500mlコーナー。
……水がない。売り切れているようだ。
いや、まて。諦めるのはまだ早い。
我らがメシア2Lコーナー。
この際多少大きくてもかまわない。
ない。
こんな馬鹿な話があっていいものか。
店員に聞く。茶髪の20代前半やや太った男性。
なに、無いのか。そんな馬鹿な。
絶望の淵にある私の目に、ふと飛び込んだもの。
トイレだ。
私は閃いた。
手洗い場の水なら飲めるのではないか。
私はドアを開けた。
白い洗面台の上にもっと白い長方形、黒い線。
調整中。
なんてこった。手詰まり、お手上げ、バイバイキン☆
私はドアを開ける。
目に映ったのは、白い壁の中に囚われた水。
満足気な顔で歩く私。
時計のついた柱の前で立ち止まる。
5時前を指している。
遅い。何やってたの?
彼女の手には500mlペットボトルに飲みかけの水。
私は待ち合わせに遅刻した。