銀氷の双牙
「どこだ?ここ」
俺が起きたのはいつもの殺風景な自室ではなく生活感のある部屋だった
「ああ、そうか、春華の部屋に泊まったんだ」
俺のとなりには春華がまだ寝息を立てている
ベッドから降りるため布団をどかすと
「なっ」
春華は下着しかつけていない。それも上はつけてないし…っ
俺はあわてて布団を春華に被せる
「あれ?龍牙起きたんだ」
春華も起きたのか上半身だけ起こす
「お前なんか着ろよ!」
「え?…」
春華は自分の格好に気づいたのか布団を引き寄せて体を隠す
「見た?」
「見てない」
「本当に?」
「ごめんなさい。少し見えちゃいました」
俺が頭を下げる
「いいよ。龍牙は変態だもんね」
「変態はひどいな」
俺が苦笑いしながら返したとき携帯が震える
「…わかった。すぐ行く」
「誰からの電話?」
「ちょっとな。俺が帰ってくるまでに着替えておけよ」
「うん、わかった」
制服に着替え、俺は一旦家に帰ることとなった
─◇─
「この程度か」
目の前の神を一方的に斬り殺し切り捨てた少女の銀髪は返り血を浴びたような真紅のメッシュ、その顔には表情が無い
銀髪の少女がその場をあとにするとまた一人の少女が姿を現す
「ついに見つけたわよ《銀氷の双牙》。絶対に正体を暴いて見せるわ」
青髪の少女はその場から走り去る
─◇─
俺は仕事を終え、春華の部屋へと向かおうとしたが全身に血を浴びたことを思い出し自室でシャワーを浴びている
「相変わらずひどい臭いだな」
髪にまでこびりついた血を落とすのは一苦労だな
「本当にめんどくさい、だから女は嫌なんだ」
髪の汚れを洗い落とし、元の姿に戻る。
風呂から上がり、着替えた後、必要なものだけまとめて部屋に別れを告げる
そして春華の部屋を目指して歩みを進めた
─◇─
「ただいま」
「遅いよ!…ってその荷物どうしたの?」
春華はもうすでに制服に着替えており。学校へいく準備が整っているようだ
「俺の家の荷物、生活必需品だ。ペア組んだんだから俺もここに住む。嫌か?」
「嫌じゃないよ、バッチこいだよ!」
俺は話しをしながら段ボールとアタッシュケースを部屋の端に起き時間を確認する
「やべっ、もう時間無いから走るぞ!」
「うん、教室まで競争だよ!」
そう、現在時刻は八時二五分。あと五分しかないのだ
─◇─
「遅いぞ、貴様ら。さっさと座れ」
「すいません」
俺と春華が教室に入ると禍月が出席をとっている最中だった
自分の席に座り外を見る
「朝っぱらから人使いが荒いんだよ。あのクソ親父が」
─◇─
私が席についたとき周りの生徒の話し声が聞こえる
「聞いた?今朝level5の神の死体が見つかったそうよ」
「聞いた聞いた!絶対に銀氷の双牙の仕業だよね~」
銀氷の双牙?なんだろう
「ねえ、その銀氷の双牙ってなに?」
「あれ、成田さんしらないの?」
「ロングの銀髪に赤のメッシュ。神飼くんを女の子にしたような姿で仮面をつけた綺麗な神狼みたいだよ」
「最近、この町で神を殺しまわってるんだって。聞いた話だとlevelは8らしいよ」
「そうなんだ」
「案外、神飼くん関係の人かもね。お姉さんとか」
「龍牙の…お姉さん?」
私が龍牙の方を見ると龍牙も気づいたのか微笑みを浮かべ、こちらに手を振った途端にそっぽを向いてしまう
「そー言えば、成田さんは神飼くんと仲良さげだよね」
「初日から飛ばしてたもんねー」
「そんなこと無いよ、龍牙はただの友達だもん」
「ただの友達が名前を呼び捨てねぇ」
「神飼君はlevelさえ高ければ申し分ないんだけどね」
「あー、それは同意見だよ」
そっか、みんなは知らないんだよね。龍牙がlevel8の神狼だって
私と龍牙だけの秘密…
─◇─
春華のやつなんの話しをしてんだ?
その時携帯が震え着信を伝える
「ん?電話か」
──親父か
「なんだよ。今は学校にいるんだが」
『そんなことはどうでもいい。仕事だ』
「ったく…場所はどこだ」
『貴様の学校の校庭で休息をとっている。速やかに排除し、報告しろ』
チッ。何でよりにもよってこの学校なんだよ…っ!
「春華、俺は早退すると伝えてくれ」
「え?わかったけど…どうしたの?」
春華の言葉を今は無視し、教室を飛び出す、向かうのは──寮の春華の部屋だ。
─◇─
龍牙が出ていってすぐに緊急警戒警報が発令され生徒はすぐさま地下シェルターに移された
流石に龍牙も気付いてシェルターに避難してるよね
橘先生が生徒の点呼確認をしながら聞いてくる
「おい成田、神飼を知らないか?」
「来てないんですか?」
「ああ、早退したとかでどこにいるか確認できていないんだよ」
「私探してきます!」
私がシェルターの出口に向かって走ろうとしたとき、襟を引っ張られ引き戻される
「まて、外にいる神はlevel6と推定されているんだ。お前がが出ていったところで殺されるだけだ」
「でも!」
「私もいく。いざと言うときはお前だけでも逃がしてやる」
橘先生は扇子を戦闘形態に変化させ肩に担ぐ
「私と成田は神飼を探してくる。お前らは何があっても外に出るなよ。いくぞ成田」
「はい、先生!」
私たちは走り出す。
少し走ったところで先生が走る方向を変える
「成田、校庭へ向かうぞ」
「校庭、ですか?」
橘先生は走りながら端末を操作し学校敷地内の映像が出る
「校庭に反応が2つ、ひとつは神だ。もうひとつが──」
「龍牙ですか?」
橘先生は首を横に振る
「わからん。神ではないようだが…神飼かどうかもわからん。そろそろ校庭だ、気配を消せ」
「はい!」
建物の影に隠れ校庭の様子をうかがう
そこにいたのは白と銀、2つの異形の存在
一方は全身が白で埋め尽くされ、天使のような姿をしている
「神の名前はメタトロンと名付けられたらしい。攻撃方法は翼の近接と胸の辺りの目玉模様からの強ホーミングレーザーが観測されている」
「もう一人は…」
流れるような銀髪に赤のメッシュ、漆黒のロングコートに奇妙な仮面をつけている
「銀氷の双牙──」
「お前たちはそう呼んでいるのか。奴のコードネームは『フェンリル』だ。詳細は不明」
「フェンリル?」
「ああ、あいつの姿が過去に確認された接触禁忌種である《フェンリル》の最後の姿に酷似していることから、そう名付けられているらしい」
「フェンリルって人間の姿をしていたんですか?」
「そうだlevel8の神は人の姿になることもできる」
「そうなんですか…」
彼女の両手には見たこともないような剣が握られている。私は剣には詳しいつもりだったけど知らない剣があるなんて思わなかった
「始まるぞ」
橘先生がそう呟いたとき少女の姿が霞み───
メタトロンが声にならない絶叫を上げる。
翼が切り落とされたメタトロンが少女に蹴り落とされ、墜落し、クレーターを発生させる
メタトロンの腹部に少女の双剣が突き刺さり、地を揺らす
その余波はかなり離れているこちらにも届くほどのものだった
メタトロンへのダメージは深刻なようでその場から退避することはできていない
少女がメタトロンの頭をつかみ首を斬り落とそうとしたとき
「ギャァァアアアァァァ」
メタトロンの目玉模様が大きく開きレーザーが少女の頭部に直撃する
「あっ───」
思わず飛び出しそうになったとき橘先生に腕を掴まれる
「まだだ、よく見ろ」
次の瞬間、何事もなかったかのように少女はメタトロンの首を切り飛ばす
戦闘を終えた少女に変化しているところがあると言えば…
「仮面が…無くなってる」
「流石に仮面はさっきのレーザーに耐えられずに蒸発したようだな。あいつの素顔を見てみたいもんだが」
橘先生が記録用の術式を起動したとき
少女がこちらを向く
「気付かれた!?」
「くそ、ここまでか…」
「どういう意味ですか!?」
「あいつは自分のことを見た奴も殺し証拠を残さないようにしているらしい」
橘先生のその言葉を聞き頭のなかが絶望に染まったとき目の前に少女が現れ───
ズシュッ
ぴちゃ、ぴちゃ
「───え?」
顔にかかった液体は血だった。私でも、橘先生の血でもない
「ゴホッ」
私に覆い被さるようにしている少女の腹部を血に濡れた白い羽が貫いている
「大、丈夫…か?」
少女の言葉に私がうなずくと少女はその端正な顔に微笑みを浮かべる
「…ッ!てめぇは…くたばってろっ!」
苦悶の表情を浮かべる少女が剣を横薙ぎに振るうとメタトロンの姿が消滅する
「はあっ、はあっ…ッ!」
少女は膝立ちになり傷口を押さえる。傷は深く今も血が滴り落ちている
「大丈夫ですか?」
私の言葉に少女は答えず一瞥しただけで姿を消してしまう
「はあ、今は放っておいてやるか。帰るぞ、成田」
「でも龍牙をまだ見つけてません」
「そのうち出てくるさ、寮にでも戻ってるんじゃないか?」
「…そう、ですよね」
それに龍牙なら心配ないよね。level8なんだもん
私と橘先生はシェルターへ向かった
─◇─
「クソッ、よりにもよって春華がいるなんて…」
寮の共用の風呂で傷を洗い、いつものように髪についた返り血を流す。この臭いにもなれたな
髪を流しているとき女子生徒数名の声が聞こえる
「まあ、この格好ならバレない…か?」
自分の身体を見下ろす。
胸は女とわかる程度には膨らみ腰もくびれているが背は低い。スタイルがいいのは確かなんだろうが自分の体なので特に何も感じない
腹の傷は血がほぼ止まっているとはいえ痛みはまだ残っている
「あれ?あの銀髪の人見かけない顔だね」
「ほんとだ、すっごい綺麗…転校生かな?」
綺麗なのか?これで
「てか運動部にシェルターの片付けやらせるのはいいけど、その報酬がお風呂ってのはねー」
「ねー。そうそう、成田さん凄かったよねー。どうしたんだろう」
成田?春華か!?
「春華がどうしたんだ!」
俺が勢い良く立ち上がって少女の肩を掴み正面から顔をのぞき込む
「え?えっと、血だらけでシェルターに帰ってきて大騒ぎになったんですよ」
「そうか、よかった…うっ」
急に動きすぎた…傷が開いて…
俺が腹を押え倒れかけたところを支えられる
「ちょっと、どうしたのその傷!」
「さっきちょっとな…」
「血が止まらない…里奈は術式組んで」
「わかった!」
二人の声をそこまで聞いたとき、俺は意識を失った