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level5の少女



放課後、裏庭のベンチに一人腰掛けさっき買ったパンをかじる


「疲れたなぁ…」


俺が背もたれにだらしなく体重をかける


「てか、さっきはナイスタイミングだったよなぁ、禍月。お陰で───」


「私にlevel言わなくてすんだから?」


「そうそう…ってお前が何でここにいるんだよ!」


勢いよく前を向くとそこには仁王立ちする春華の姿が


「あなたならここに来ると思ったのよ。」


「根拠は?」


「あなた、学校内でここ以外は教室と訓練場以外知らないでしょ?靴があったらから帰ってないのはすぐにわかったもの」


「うっ…」


春華がニコニコしながらこちらに来る。自分の推理が当たったのが嬉しかったのか上機嫌に見える


「となり、座っても良い?」


「好きにしろ」


「ふふ、ありがと」


俺の右となりに春華が座ると風に乗り、ミルクのような甘い香りが鼻孔をくすぐる


だから女は嫌いなんだ、近くにいるだけで落ち着かなくなる


俺が少し左にずれると春華もついてくる


「何だよ」


「あのさ、あなたはこの学校が寮生って知ってるのよね?」


春華は少しうつむき、俺と自分の手を視線が往復する


「知ってるが俺は家からかようよ。この学校は女子生徒が生活するのに適しすぎているから男の俺には少し居づらいんだよ」


「なら!」


春華は勢いよく立ち上がり俺の正面に移動する。そして顔を近づけてくる


「私の部屋に来なさいよ。相部屋の人もいないから」


「は?」


この人は何をいってるのでしょうか、僕には理解できません。


「だーかーらー、あたしの部屋に来なさいよ。色々面倒見てあげるから!」


春華は俺の肩をつかみ前後に揺らしてくる。マジで吐きそう


「お前、自分の言ってること理解してる?」


「もちろんだよ!」


えっへん、と大きくはないが形の良い胸を張る


俺は春華に詰め寄る


「あれ?これすごいデジャブのような気が──はにゃっ!?」


春華は後ろを見ずに後ずさりし、段差に躓き尻餅をつく


俺は春華に覆い被さるようにして壁ドン(地面ver)を春華の顔の横に両手で行う


「男と暮らすことの意味わかるか?」


固まり動けない春華に俺は顔を少しずつ近づける


お互いの息が触れあうほどの距離にまで近づく


「ごめ、んなさい…許して…」


春華はの声は震え、瞳がうっすらと濡れているのに気づく


さすがにこれ以上は可哀想なのでやめにする


顔を離し、立ち上がると春華に言う


「もうあんなことは言うんじゃないぞ。軽率にも程がある」


俺が春華の手を握ると春華は弱々しくも立ち上がろうとするが


「あっ…」


足の力が抜けたのか崩れ落ちそうになる。反射的に俺が腰に手を回して抱き寄せるとまた顔を少し赤くする


「大丈夫か?」


「あはは…腰が抜けちゃったみたい」


そう言う春華はの下半身は震え、力が入っていないようだ


仕方ないか、少しやり過ぎたかもな


俺は春華をベンチまでお姫様だっこで運び、一度座らせる。そのあと背を向け跪く


「え?」


「乗れ、部屋まで送ってやる」


沈黙のあとふわっとミルクのような匂いが鼻をくすぐると背中を柔らかい感触が襲い、春華が首もとに腕を回してくる


「ありがと」


「こっちこそ悪かったな、悪のりが過ぎた」


歩き始めると春華は掴まる力を少し強める。昔はこうしてよく妹をおんぶしてたよな


でもなんでだろう、春華は俺にこんなにも無防備なんだ?お世辞にも優しそうな容姿はしてないつもりだが


だが近づけば知ってしまうだろう。俺の正体を


そして真実を知ってしまったら俺から離れて行くのはもうわかりきったことだ。既に何度も経験した


春華は小さな寝息を立てている。その無垢な寝顔は妹と重なって───


その時、抱いたことのない感情が俺の中で芽生えたような気がした


─◇─


「ありがとう、もう大丈夫」


「わかった」


女子寮に着き、俺は春華を背中から降ろす


「じゃあ俺は帰るから、また明日な」


そう言い春華に背を向け帰ろうとするとベルトを引っ張られ前に進めない


はぁ…


「どうしたんだ?」


「その、ご飯食べていけないかな?」


「…お前が作るのか?」


「いや、かな」


春華は寂しそうな顔をする。そんな顔されたら断れないだろ…


「俺で良いならご馳走になろうかな」


春華に不安を抱かせないように微笑みながら頭を撫でると笑顔を浮かべる


「それなら決まりだね、早く早く!」


春華は俺の手を掴むと自室へと駆け出す。


俺は今まで人との関わりを避けていたが春華になら少しだけ気を許しても良いかな、と思えてしまった


─◇─



「お邪魔します」


「お邪魔されます」


俺より先に部屋に入った春華が独特の言い回しで返してくる


「お邪魔なら帰ります」


「じょ、冗談だよ!?さあ、入って」


「わかってる、ちょっとからかっただけだよ」


俺が部屋にはいると春華から感じたミルクのような香りがする。うん、落ち着かないな


部屋に案内された俺はソファーに座り春華のようすを伺う


春華の方は台所ですでに料理を始めている。メニューはもう決まっていたのか、手早く調理していく


あれ、春華って料理できる…のか?


お決まり展開は材料を錬金術で炭素の固まりに変えるんじゃないのか?


俺がそんなことを考えているとき視線に一枚の写真が写る。


春華と…お兄さん、かな?


春華と同じ銀の髪。


俺が写真に近づいたとき──


「ストーップ!」


春華が勢いよく目の前に現れ写真を伏せてしまう


「お兄さん?」


「うん、そうだよ」


春華の表情は暗い、こんな反応するのは


何らかの原因で死んだのか、春華のお兄さんは


「すごい神狼だったんだ。でも五年前に亡くなってしまったの」


「その、悪いな。言い辛いこと言わせて」


春華は首を横に振る


「今は友達もできたし寂しくはないよ。」


笑顔を見せる春華。でもその笑顔には隠しきれない悲しみが見えて───


無言で春華の頭を撫でると少しビックリしたのか春華は動かない


「それはそうと、鍋が吹き出してるぞ」


「はにゃ!?やばいやばい!」


春華は台所にパタパタと走る。どこか抜けてるんだよな、あいつは


俺も飯が出来るまでは大人しくしてるか



─◇─



「召し上がれっ!」


目の前に並ぶ料理は普通に食べられそうである


俺がスープを飲もうとするが手が震える


「どうしたの?」


「い、いや、何でもない」


俺は意を決してスープを口に含む…


あれ?もしかして美味しい?


味付けも薄味で野菜の味が引き出されてる…


「ど、どうかな」


「うん、うまい。てっきり錬金術で産み出された炭素が出てくると思った」


その言葉にがっくりと肩を落とす春華


「私ってそんな風に見られてたんだ…」


「冗談だよ、作ってるときから料理が出来るのはわかってたから」


「ならそんなこと言わないでよぉ」


「あはは、ついな」


そのあとは俺の前の学校の話しや春華にこの学校のことなどを聞いたりして過ごした



─◇─



「BAB?」


「そう、BAB《バレット&ブレード》。簡単に言うと生徒が自分の神器を使って大会の制限下で戦うの」


「ふーん。賞品とかあるの?」


「あるんだよ~、それはなんと」


「なんと?」


「新しい神器を貰えるらしいの」


へぇ、新しい神器ね


「どんな属性なんだ?」


「詳細は出てないんだけど確か新たに見つかった神属性神器だったと思───」


ガタッ


反射的に身体が動いた


今、神属性っていったのか…?


「それは本当なのか春華!」


「たぶんの話だよ。公式発表はまだだし」


「そう、だよな。」


俺は椅子に座りなんとか落ち着こうとする。だが、もしその情報が本当なら俺は…ッ!


「どーしたの龍牙くん、顔怖いよ?」


春華が身を乗り出し顔を近づけてくる


「すまない、考え事をな」


お茶を一口飲み、春華に気になったことを聞いてみる


「唐突だけど、春華はどうして俺にここまでするんだ?さっきの相部屋の話しもしかり」


「それは…龍牙くんがお兄ちゃんに似てるからかな」


「さっき顔は見たけど似て無かっと思うが」


「外見じゃなくて内側かな、何でも一人で抱え込んでしまう。そんなように見えたんだ」


「俺が、か」


春華はうなずき話し続ける


「だから放って置けないのかな」


「そうか…ありがとな、春華」


俺がそう言い頭を撫でると少し赤くなりながらも笑顔になってくれる。春華には笑顔が一番似合うからな


「俺のlevelって知りたい?」


俺が覚悟を決めて聞くと予想外なことに春華は首を横に振る。なんでやねん


「龍牙くんが言いたくないことは聞いちゃいけないって思った、龍牙くんが言いたい時に言えばいいと思うよ」


「じゃあ、改めて自己紹介しようか。言うのは本名とlevel、戦闘スタイルの3つ」


俺の提案に驚いた顔をする。まあ当然か、昼間はあんなに嫌がってたのにな


「嫌じゃないけど…良いの?」


「俺が良いって言ってるんだから良いんじゃないか?それに、春華には知っておいて欲しいんだ」


俺がそう言うと春華は可笑しそうに笑う


「あはは、龍牙くん変なの」


そして笑うのを止めた春華は少し真剣な表情をする


「成田春華17歳、戦闘スタイルは超近接系の長剣使い、levelは5だよ!」


「5!?全然見えない」


「ちょっとそれどういうことよ!」


春華はぷんすかと怒っている。怒った顔もかわいいな、って違うだろ


「じゃあ次は俺か」


深呼吸をしたあと偽りのない自己紹介を始める


「神飼龍牙17歳、戦闘スタイルは超近接系の双剣双銃使い。levelは8だ」


自己紹介を終えた時、春華が立ち上がる


「level8!?冗談だよね?」


「我ながら真面目に言ったつもりだが」


真顔で言い返し、level8にだけ配られる黒いバッチを見せると春華顔面蒼白になり、勢いよく跪いてしまう


「さ、先程のご無礼申し訳ありません!」


はぁ、やっぱりこうなるのか。当然と言えば当然なんだが…


levelは神狼の実力によって決まる。そのレベルは高ければ高いほど強い権力を持てる。特別、level8の権力は計り知れないと言われている。


俺は行使したこと無いからわからないけどな


「春華」


「は、はい!」


「立て、そして顔をあげろ」


春華は恐る恐る立ち上がり顔をあげる。俺としては権力とか関係なく天真爛漫な春華でいてくれた方がよかったんだけどな


俺は春華の頬をつまみ引っ張る


「俺とは普通に接してくれ。俺は春華とこんな関係になるためにlevelを教えたんじゃない。あと俺のことは龍牙でいい」


「でも…」


「これは命令だ。それでも聞けないか?」


俺は恥ずかしさをごまかすために春華の頭を撫でる


「…龍牙は言ってることがめちゃくちゃだよ」


「やっと笑ってくれたな。今日はもう遅いから…春華は風呂入ったのか?」


「私はまだ入ってないよ?龍牙が入るなら案内するけど」


「じゃあ遠慮なく」


風呂場へと案内してもらい早速入ろうとしたのだが…


「は!?寮に共用の大浴場がひとつあるだけなのか?」


「そうだよー。お風呂すっごくおっきいんだよ!」


「誰か入ってこないのか?」


俺の素朴な疑問に首をかしげる春華。かわいい…じゃなくて


「この時間に使う人は部活やってる人くらいだけど、まだ時間あるし長居しなければ大丈夫だよ」


「わかった。さっさと出る」


それだけ言い残し俺は更衣室に入る



─◇─



「はぁ」


でかいとは聞いたがここまででかいとはな


「流石、この学校の設備に国が力を入れてるだけはあるな」


ぴちゃ、ぴちゃ


俺の耳に足音が聞こえる。ぼーっとしてて誰かが入ってきたことに気付かなかった


「龍牙、どうかしたの?」


「なんだ春華か…って、春華!?何でここに?」


「遅いから入ってきちゃった。てへ」


へてじゃねーよ、てへじゃ。かわいいな畜生


いくらバスタオルつけてるからって身体のラインはわかるんだぞ


カラカラ


「え?」


「今の音はまさか…」


「部活終わりの人たちが来ちゃったみたい」


「冗談きついな…」


俺が絶望の最中にいる時、いきなり春華が湯船に入り近づいてくる


「お、おま、なにしてんだよ」


「静かに。向こう向いて」


俺は言われるがままに半回転すると背中にすべすべした感触が当たる


考えは理解できたが無理がないか?春華と俺の髪色では違いが大きいと思うが


「龍牙は肩まで浸かって」


「わかった」


俺が肩まで浸かると同時に聞きなれない声が聞こえる


「あら、春華じゃない。また一人でお風呂?」


「あはは、かわいそー」


二人目の声は覚えている。俺が適性検査の時に倒したレヴィア・フォルアだ


「レナもレヴィアもどうしたの?まだ部活動中だと思うけど」


「今日は早く終わったのよ」


「それより、春華はBABの相方決まったの?あ、そっか。春華は友達いないから決まらないよね」


「っ…」


春華は悔しそうな表情になる。友達がいないような風には見えないのにな、性格もいいし


「相手は、組んでくれそうな人はいる。」


「あんたと組んでくれる人なんでよく見つけたわねぇ」


「相方は苦労が多そうだね」


そう言われ春華の瞳から涙が流れる


流石にここまで言われたら我慢出来ない。無理、限界


「おい、お前らふざけんじゃねぇぞ」


俺が勢いよく立ち上がると二人は驚いた顔をする


「あなたが噂の男の神狼かしら?」


「レナ、こいつが私の言ってた人。level1って言ってるけど絶対に嘘だよ」


「そんなことはどうでもいい。春華に謝れよ、お前らは言って良いことと悪いこともわかんねえのか」


「わからないわね。転校してきたばかりのあなたになにがわかるの?下心があってその子に近づくなら止めておきなさい」


「そうそう。裏切り者の妹なんて関わる価値無いよ」


「兄さんは裏切り者なんかじゃない!兄さんは…」


なんかあるっぽいが今はいい


「春華の兄貴はこの際関係ない。春華自身を俺は気に入って友人になった」


「それじゃあ、あなたが春華と組むわけ?」


「ああ、俺が春華と組む」


「一度ペアを組んだら解消するのに複雑な手続きが必要なのよ?」


「解消はしないから手続きのことを考える必要もない」


俺がそう言いきると二人とも黙る


「だから春華に謝罪しろ。嫌なら二対二の模擬決闘を申し込む。俺たちが勝ったら春華に謝ってもらう」


「私たちが勝ったら?」


「当然、それに見合うだけの代価はあるのよね?」


「1つだけどんな命令も聞いてやる。俺はもうそろそろ出る、模擬決闘は明日の放課後だ」


それだけ言い残し、浴場をあとにする


春華も上がってきたのか足音が聞こえる


「本当に良かったの?」


「ん、なにがだ?」


「その…ペアのこと。私と組むって」


「ああ、そんなことか」


あまりに適当な返しに言葉もでないのか口をパクパクさせる春華


「そんなことじゃないよ!ペアになるってことはお互いの秘密まで教え合うってことなんだよ?」


「お互いが言いたいときに言えば良い、言いたくなければ言わなくて良い。俺はお前が知りたいなら全ての秘密を教えるから」


俺の言葉に春華は首を横に振る


「今は聞かない。今は普通の龍牙の事が知りたいから、また今度聞くよ」


春華がとなりで笑ってくれる。俺はこの笑顔を失いたくないから、春華を守ってやりたくなるのかな


頭の上に手を乗せると春華は上目遣いに俺を見上げる。


相変わらずかわいいな、本当に


「もうお子様は寝る時間だぞ」


「まだ10時だよ!まだ全然眠くな…ふあ」


「あくびしてるぞ」


「まだ眠くないもん」


と言いつつも春華の目は潤み、いかにも眠そうにみえる


俺は春華の手を取り部屋へ向かった


─◇─


部屋についた途端に春華は眠った。色々あって疲れたのかもな


俺は特に眠くないのでベッドに座り春華の寝顔を観察中


人差し指で春華の頬に触れる。こんな風に人と関わったのは5年前に俺の中の人間が強かった頃か


確かその頃は…


「っ!?」


五年前の記憶を呼び出そうとした瞬間。頭に激痛が走る、頭を万力で潰されるような感覚に陥る


「どうしたの?顔が怖いよ」


春華の声が聞こえ頭痛から解放される


「…ちょっと考え事をな。ごめん、起こしちゃったか」


春華の頭を撫でようと手を伸ばすが俺の手は春華に握り、引っ張られる


状況を理解したとき、俺は春華の胸に顔を押し付けるようにして抱き締められていた


「春華?」


「私はずっと龍牙のそばにいるから。辛いことがあったら私も背負うから、そんな顔しちゃダメだよ」


「ありがとう。春華」


そんな風に言われたら本気で惚れるぞ


俺は闇に吸い寄せられるように眠りに落ちた












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