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「ちょっと化け物。お前どうやってライイェン様に取り入ったの」
夜会から数日後、灰の宮のルヴィエラーニャの部屋を姉王女であるリルファルティアが訪れた。
いつもは何十匹も被っている猫もルヴィエラーニャの前では脱ぎ捨てる。
リルファルティアが人目のないときにルヴィエラーニャを化け物と呼ぶのもいつもことだ。
他の者がいる場では可愛いルヴィエラーニャなどと言い、慈悲深いところを見せようとするのだが、二人きりであればその必要はないということだろう。
つかつかとルヴィエラーニャに近寄っては扇で顎をついとあげる。
「取り入る……?そんなことはしておりませんわ、お姉様」
困惑した様子のルヴィエラーニャの頬を扇でぴしゃりと叩き、リルファルティアはルヴィエラーニャを睨みつける。
「汚らわしい。わたくしを姉などど呼ばないで。化け物の分際で。化け物は化け物らしくみじめにしていればいいのよ。」
そう吐き捨てるリルファルティアにルヴィエラーニャは瞳を揺らがせる。
姉が自分にだけは酷い態度をとるのにはもう慣れた。
それでも今日はどうしたのだろうか。
いつもはここまでではない。
「ライイェン様はいずれわたくしの夫となるお方。色目を使ってどうするつもり?」
ひゅっとルヴィエラーニャののどがなった。
リルファルティアの瞳は嫉妬の炎でぎらついていた。
が、頭の片隅ではリルファルティアの言葉に疑問を抱く。
ライイェンは本当にリルファルティアの婚約者なのだろうか?
それならば、あの時に話すはずではないのか。
それに、ライイェンはライイェンの兄がリルファルティアに恋をしていると言っていた。
なにより、婚約者だとしたら夜会を抜け出すだろうか?
あれは、リルファルティアの誕生パーティーであったのだから。
「なに、その反抗的な顔は。いつまでそんな顔をしていられるかしらね?」
憎々しげにそう言うと、リルファルティアは自分のドレスを乱して自らの頬を叩き部屋の中央に置いてある小さな丸テーブルに倒れこむ。
その衝撃でテーブルは倒れ、その上にあったティーセットが割れ、絨毯にシミをつけた。
ルヴィエラーニャはわけがわからず、ただ目を見開き呆然としているだけだった。