09
しばらく泣き続けたルヴィエラーニャは泣き止んでもライイェンの胸に顔を埋めたままだった。
恥ずかしくなったのだ。
離れたいけれど、この顔を見られるのは恥ずかしい…とルヴィエラーニャが葛藤する間もライイェンは優しくルヴィエラーニャの頭をなで続ける。
「ルヴィ?もう大丈夫か?」
心配そうに声をかけるライイェン。
その呼び方に驚いてルヴィエラーニャは思わず顔をあげた。
「え、ルヴィ……?」
「嫌だったか?ルヴィエラーニャって長いからさ、愛称」
ルヴィ…と何度か呟いてから、彼女は花が咲いたように笑った。
そんな彼女を見てライイェンは少し頬を赤く染めた。
ルヴィエラーニャとて、醜いわけではないのだ。
むしろ、とても美しい。
まだ成長しきっておらず、子どもと少女の間のような危うさがあるが、そこがまたいい。
背中の中ほどまである紫紺の髪はゆるやかに波打っている。
大きな金の瞳はまるで満月のよう。
瑞々しい唇は紅をつけずとも十分赤い。
肌など雪のように真っ白だ。
ライイェンも年頃の少年なわけで、まじまじとルヴィエラーニャを見てその美しさに見惚れた。
「ううん、嬉しいっ!じゃあ、貴方はライ?」
「おう。それでいいぜ」
ライイェンが自分に笑いかけてくれることにルヴィエラーニャは人生最大の幸福を感じた。
それから二人はしばらく話し続けた。
ライイェンの兄はフェイオンといいリルファルティアに心を奪われていること。
ライイェンは、自国でも指折りの剣の使い手だということ。
夜会などの堅苦しい場が嫌いなこと。
今夜もさっさと逃げ出してきたこと。
今年で十歳になる妹がいること。
ライイェン自身はリルファルティアと同い年で十六歳であること。
精霊にはそこそこ好かれるものの魔法はほとんど使えないこと。
ルヴィエラーニャはこんなに一人の人と長く話したのは初めてだということ。
誰にも言ったことがないが、実は魔法が得意だということ。
人間には嫌われているが精霊には好かれているようで、よく遊びに来てくれるということ。
話しているうちにかなり時間がたってしまった。
気がつけばもう真夜中を過ぎている。
夜会ももうそろそろ終わる頃だろう。
「ライ、もう戻った方がいいんじゃない?」
「あー、うん」
二人とも名残惜しくはあったが、お互い誰かにバレるとまずい。
「夜会会場へはここを真っ直ぐ行けば着くわ。今日は楽しかった。ありがとう」
灰の宮と龍の宮の堺までルヴィエラーニャはライイェンを送る。
「また、会いに来る。だから≪さよなら≫じゃなくて≪またな≫」
その言葉にルヴィエラーニャは可愛らしい笑顔を見せた。
年相応の笑顔。
「うん、またねライ!」