キアラの身体
運命とは残酷なものなのかもしれない。
キアラは病気だった。日に日に、身体が動かなくなった。
身体が、何かにむしばまれ始めたのは、ごく最近のことだった。ようやく、身体が成長して、本来ならば仕事に出られるような能力を身に着けたころだ。
鈍い痛みと違和感が、腕に出るようになった。どこかを掴んでぶら下がったり、手を付いて跳ねたりして、腕を使ったときだ。痛みは大したことではなかった。しかし、今までキアラは身体に不調を感じることはほとんどなかったし、どこか一か所に痛みを感じるなんて、擦り傷や切り傷や打撲以外には経験がなかった。だから、右ひじが痛くなったとき、あざが出来ていないか確かめてはみた。何にもなっていない。いつもの腕だ。ちょっとした痛みなんかで、キアラが腕を使うのをやめることはなかった。キアラは痛みを無視した。
「お前、妖気が強いんだな。人には、好かれないだろうな」
カラスは、上の枝に飛び乗っては下の枝に飛び降りるのを繰り返して遊んでいるキアラに向かって、意地悪く言った。
その日キアラは、外でうとうとしている間に同じ年頃の娘たちに眼帯を奪われ、街中飛び回って奪い返したものの、母にその姿を見られてしまったので不機嫌だった。娘たちにどれほどからかわれようとも、気にならなかったが、母に余計な心配をかけると、面倒なことになるのだ。母は、眼帯が簡単には取られないように作り直し、キアラに何度も謝った。自分の作り方が悪かったせいで、キアラを傷つけてしまった、と。そのようなことで気をもまれても、煩わしいだけだ。
「妖気ってなに?」
キアラは枝の上で片足立ちをしながら、聞きなれない単語に顔をしかめた。
「人の精神が発してるものさ。お前が怒ってたら、普通の人間は近づきたがらないだろう」
「近づくなって、黙ってても教えてあげられるんだ」
キアラは得意そうに笑った。
「そんなことが出来ない人間も多い」
「カラスは出来るの?」
カラスは、カラスと呼ばれたことに対して不満があるようだった。何も言わないし、カラスに表情など無かったが、キアラにははっきりとそのことが分かった。
「ふうん。出来るんだ」
キアラはふてくされたような言い方をした。
「俺は妖怪だ。妖気の塊だぞ。今すぐ鳥肌立てて逃げろ」
カラスは、わざとらしく恐ろしげな声で言った。
キアラは、カラスの妖怪のことを怖いと思ったことが無かったし、そんなことを言われても逃げる気はなかったのだが、カラスが何かしたのだろう。本当に寒気がしてきて鳥肌が立ったので、さっさと退散したのだった。
カラスは面白がって大声で笑った。