邂逅
この先のストーリーは作者の私も読めません。超能力を持った少女ほのかは、CLUMPのXのキャラからインスパイアされました。
御子柴は香月が言うところの子守を引き受けたことを自分でも意外に思った。自分でも言ったように、子供は苦手だった。騒がしく、感情がくるくると変わる。だが、この少女は大人しい性質らしい。ソファに遠慮がちに座ると、ポシェットから取り出したお菓子をついばむように食べている。
「君、名前は?」
御子柴は少女の名さえ聞いてないことにようやく気付いた。香月も嬢ちゃんと呼んでいただけだ。
少女は、咀嚼をやめ、もごもごと言う。御子柴は聞きとる事ができず、首をかしげた。
ようやく口の中のものを飲み込んだ少女が、おずおずと口を開く。
「…ほのか。柊ほのかです」
目の前の少女に似つかわしい柔らかな名前だ。ほのかは、照れてしまったのか頬を赤くしてうつむいてしまった。人見知りな性格なのかもしれないなと、御子柴はすっかり保護者めいた気分で思った。
「もうすぐ、会えるよ」
唐突な言葉に、御子柴は不審げな顔をする。ほのかは、何か遠くを見るような眼をしていた。今までのほのかとは、どこか様子が違っている。
「あなたが殺したいと思ってる人に」
ほのかは確信をもって言う。御子柴は絶句し、顔色を変えた。
「…なに」
第二部わたしの力
「わたしの力」
ほのかは小さな、かすれた声でぼそりと言う。
「未来が見えるの。すべてが分かるとは限らないけど。あの人とあなたの運命はつながっている」
少女はまっすぐな瞳で御子柴を見据えて言う。御子柴はイライラと髪をかきむしる。
「香月から聞いたのか。ふざけた真似はやめろ」
ほのかは御子柴の怒りを含んだ声に身を固くする。
「ごめんなさい。わたしそんなつもりじゃないの。お願い。ぶたないで」
少女は早口で言う。御子柴は、ようやく少女が怯えていることに気付いた。
ぶたないで。少女は日常的に暴力をふるわれていたのか…。お嬢様然とした金のかかった服装はしているが、家庭環境は恵まれなかったのかもしれない。
「叩いたりしない。安心しろ。香月から何を聞いたか知らないが」
極力優しい声を取り繕って、御子柴は言う。
少女は何か言いたげに、ちらちらと御子柴を見上げる。
「あなたにも分かる。もうすぐよ」
またあらぬ事を言い出したのかと、いささかうんざりしかけた時、気まずい雰囲気を壊すように、機械的な携帯電話の着信音が響いた。
この携帯の番号を知っているのは、香月くらいなものだ。御子柴は無造作にデスクの上の携帯電話に手を伸ばす。
「もしもし」
低い笑い声が聞こえた。香月の声ではない。あいつはもっと豪快に笑う。いたずら電話か。
そのまま切ってしまおうかと思った瞬間、相手が口を開いた。r
「久しぶりだね」
忘れたことのない声だった。何かの間違いだという想いと、自分があの男の声を間違えるはずがないという確信めいた想いが交差する。
「式。藤堂式かっ」
この名前を口にしたのは何年振りだろうか。抑えていた激情がこみ上げる。血にまみれた光の姿がフラッシュバックする。自分からすべてを奪った男。そして自分の生きがいでもある男。
「覚えていてくれると思ったよ。礼司。君は僕を忘れられない」
「貴様、どこにいるんだ」
「さあ、どこだろうね。僕と君の運命はつながっている」
運命はつながっている。ほのかもそんなことを言っていなかったか。
「積もる話もあるけれど、それは君に会う時のために楽しみに取っておくよ」
「ふざけるな。今どこにいる」
御子柴は受話器に向かって噛みつくように叫ぶ。
「殺人予告だ。次に殺すのは、千里眼の少女、柊ほのかだ」
ぷつりと音を立て、電話は切れた。
ツーツーと言う無慈悲な音だけが、御子柴の耳にこだまする。
御子柴は興奮してるとも呆然としてるとも自分では判別の付かない感情に駆られて、携帯電話を握りしめていた。