少女
BLです。性的描写は苦手なので、あんまりしない予定です。
小説を書くのが久しぶりなので、お見苦しいところもありますが、
読んでくださったら幸いです
犯罪の多発する街、新宿。何十年か前は、オフィス街だったというのが嘘のようだ。その一角に、御子柴礼司の構えるオフィスがある。オフィスといってもたい したものではなく、廃ビルの一室を勝手に御子柴が利用しているだけだ。ゴミ置き場で拾ったソファや机を置き、かろうじて事務所としての体裁が整えられている。
「邪魔するぜ」
いかにも高級そうなブランド物と分かる三つ揃えのスーツを着込んだ男は、その事務所のドアをノックもなしに、蹴り開ける。ドアが勢いよく開く。整髪?でオールバックにした髪。一目で堅気ではないと分かる、いかにもやばそうな雰囲気を持った男だ。
「御子柴ぁ、仕事持ってきたぞ。お前の大好きな仕事だぞぉ」
御子柴と呼ばれたのは、端正すぎるほどに整った顔の若い男だ。長い前髪の間から切れ長な瞳がのぞく。御子柴は厄介な奴が来たとばかりに、苦いものを堪えるような不機嫌な顔をした。
「香月か」
御子柴はめんどくさげに、口を開く。
「相変わらず美人だな。俺のところに嫁に来ないか」
香月は御子柴の方へ大股に歩みよると、肩に手を伸ばす。御子柴はうざったそうにその手を払いのける。冗談めかした調子でもなく、開口早々とんでもないことを抜かす香月を、御子柴は冷え切った目で一瞬を睨むと、すぐに机の上の書類に再び目を戻した。
「おいおいつれないな。子猫ちゃん」
懲りた風でもなく言う香月は、御子柴の机にどかっと腰を下ろす。
男物の香水の匂いが、御子柴の鼻をかすめる。露骨に顔をしかめた御子柴にはお構いなしだ。
「用件だけ言え。じゃないと撃つぞ」
香月は外国人めいたオーバーリアクションで肩をすくめ、お手上げのポーズをする。
「そりゃあ、勘弁願うぜ。ただの子守だよ。賃金は弾むぜ。しばらくお嬢ちゃんを預かってくれ」
「断る。子供は苦手だ」
御子柴は、にべもなく香月の依頼を断った。が、香月の耳には届かなかったのか、意識して返事を聞かないようにしたのか、香月は入口を振りかえり、大きな声を出した。
「嬢ちゃん、入ってきな」
大きなトランクを引きずるようにして入ってきたのは、ハーフだろうか、亜麻色の髪をしたの10と思しき少女。
桜色の上品なワンピースに、柔らかなウェーブを描いた巻き毛。肩からは赤いポシェットを下げている。フランス人形のような少女だと、御子柴は思う。
無表情のまま、じっと見つめられ、御子柴は居心地が悪くなり、視線をそらせた。
少女の亜麻色の髪に、御子柴の記憶がうずく。少女のような巻き毛ではなく、彼女はまっすぐな髪をしていたが。御子柴は何度その髪を愛おしく撫でただろうか。失った彼女と、目の前の少女の姿がどこか重なった。雰囲気はまるで違うが、どこか似通っている。
「初めまして。俺は御子柴礼司。しばらく君の世話をすることになった」
御子柴らしからぬ優しい声音で言った。少女はわずかに表情を緩め、口元に淡い笑みが浮かんだ。