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my act.5 セリス=ロードランペイジ

 View セリス


 現実味を帯びないまま、ユートという少年に頼まれ、馬車の手綱を任された。

 年齢は、おそらく私より下だろう。

 私が18だから、彼は多分16、7くらいだと思う。

 漆黒の憂いを帯びた黒髪に、これまた漆黒の深海の如く深い黒い瞳。

 黒髪で黒眼の人間は初めてみた。


 少なくとも、私に害のなすことはしないだろう。

 奴隷商人と盗賊を退治したあの時。

 彼は奴隷商人の、奴隷の扱いを聞いた時、“性処理”という単語に、底の無い深い激情とともに、商人を殴り、手刀を当て気絶させた。

 わざわざ、首を狙ったあたり理性は残っていると思われたが、ギリギリ我慢できただけだろう。

 あと少しでも、商人が余計な事を口走っていたら、間違いなく首が飛んでいたと思われる。


 最初は恐ろしい少年だと思った。

 その場にいた全員は殺さずに、気絶させていた。

 しかし、彼が殺人行為に対し、抵抗はあれど、可能としていることは、何より目が語っていた。


 それから、後ろの馬車で、何かしているかと思えば、

 金板10枚で、近辺の町まで馬を操ってほしいと言われた。


 金板10枚も支払って、町まで案内する理由がわからなかったが、しばらく思考に耽っていると理解できた。

 おそらく、私に気を使っているのだろう。

 飢え死にしないように、わざと金板10枚を渡そうとしているのだと思う。

 かといって、他人にいきなり金を渡されて受け取るような人間じゃないと把握し、町までの案内を担うという適当な依頼を受けさせたということだ。


 正直、わけがわからない。

 黒髪黒眼で少年で、相当な強さをもっている。

 そのくせ、認めたくは無いが、奴隷という身分の私を保護し、金貨まで渡そうとしている。

 何が目的なのか理解できなかった。


 助けてくれたからといって、そう簡単に信頼はおけない。

 私は生まれてから一度も大切にされた覚えがない。

 それこそ、盗賊に襲われていても放置されるような存在だ。

 ゆえに、そう簡単に人を信頼することは出来ない。


 と、そうこう考えているうちに、町の目の前に着いた。

 とりあえず、少年を起こそうと思い、馬車を止め、後ろの扉を開けた。


 ユートはまだ寝ていた。

 出来れば近づきたくはなかったが、そうも言っていられないため、妥協することにした。


「あの、着きました」


 声をかけるが、ちっとも反応しない。


「着きましたよー?」


 びくともしないため、もう少し近づいてみる。

 

 ユートの目の前まで寄って、もう一度声をかけるが、それでも反応しない。


「すいませーん、着きましたー」


 軽く寝息を立てながら、だらなく無防備な顔を見ていると、ついつい語尾が弾んでしまう。

 知らずのうちに自らの顔も綻んでいる。


 今度は、肩をゆすりながら、声をかけてみる。

 先ほどのような警戒心も、知らずのうちに薄れている。


「町の目の前まで着きましたので、起きてくださーい」


 微笑を浮かべながらも、彼を起こそうとするが、まったく起きない。


 ここでようやく、自分が笑っていることに気付いた。


「・・・・・・」


 何故だろう。

 さきほどまで、警戒心を張り巡らせていたのだが、今はそんな気にはなれない。

 でも、不思議と悪くはない。


 笑ったのは久しぶりだ。

 自分が今という時間を楽しんでいることに気付き、嬉しくなる


 こんな気持ちになったのはいつ以来だろうか。

 もう何年も笑顔という表情をしていなかったため、もう忘れていると思っていたのだが。


 そういったことを考えていると、自分は今充実しているんだと実感できる。


「・・・・・・すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」


 相も変わらず、寝ている彼の顔のほっぺをなんとなく突いてみる。

 これには反応し、彼は顔を左右に振ったり、声に出してうっとうしそうにしている。


 その声がどうしようもなく、卑猥に聞こえ、やや赤面してしまったのは気にしないことにする。


 そんなことをしながら、撫でたり、つねったりしていると、不意に、彼の頬に涙がつたった。


「・・・・・・え?」


 理解できなかった私は、どうしていいかわからず、固まってしまった。


 一滴のみの涙はすぐに治まり、今度は決意に満ちた表情をしたような気がした。


 彼にも色々事情があるのだろう。


 何だか、少しだけ彼の性格がわかった気がする。

 少なくとも、その一滴の涙にただならぬ決意が込められていることは感覚的に理解した。


 だったら、私は・・・・・・




 View 結兎ゆうと


 まったく、変な事考えてたな。

 考えてもしょうがないことを考えるとは、少しは変わったのかな。

 まぁ、いいか。損は無いし。


 そうして、ふと目をあける。


「あ、こんにちわ」


「・・・・・・あ、ども」


 蒼い長髪に琥珀色の瞳をもつ女性がこちらを覗き込んでいた。


「ああ、セリスか」


 寝起きの目を擦ってみるとセリスだったことに気がついたのだが、


「何で膝枕?」

 

「あら、いけませんか?」


「・・・・・・いや、いけないとかじゃなくて」


「あなた様の決意を胸に、私も一歩踏み出してみようかと思いまして」


 何なんだ一体。俺が寝ている間に何があったんだ。

 なんか、ちょっと口調変わった気がするし。


 そんな彼の考えはお構いなしに、こっちに笑顔を振りまいてくるセリス。

 本能が告げている気がする。

 これは早々に逃げるべきだ。


「まぁいいや。その馬車あげるよ、あと、これ金板ね」


 そういい、さっさと馬車と金板を渡す。


「それじゃ、またどっかで会えたらよろしく」


 早々に退散しようと、町に踏み出す彼だった。



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