my act.3 旅の災難、事実
中年は馬車を進めようとする。
しかし、この距離では魔術の速度には勝てない。
馬車が発進する前に、進行方向へ立ちふさがった結兎。
「えーっと、すいません」
相変わらず焦った声を上げているが、それを無視して声をかけた。
「は、はいっ!? ・・・・・・な、何か用でも?」
未だに焦っている中年を見ていると、軽く腹が立ってくる。
その感情を流して、ひとつの疑問を浮かべる。
「後ろの馬車はいいんですか?」
馬車が二台あるのに、ここには中年しかいない。
なぜか、後ろの馬車の手綱を持つ人がいないのだ。
「は、はい・・・・・・後ろのは必要ないんです・・・・・・」
先ほどの連中とグループなのは間違いない。
俺が5人を軽々と倒したから、片方の馬車は諦め早々に逃げようとしているわけだ。
普通に考えれば、商人と、それを護衛する傭兵、というのが妥当だろう。普通なら、だが。
「さっきの連中、とても傭兵には見えないんですけど?」
ニヤリ、と確信を得た表情で嘲笑う。
間違いなく、俺はすべて知っているぞ?、と言っているように聞こえるだろう。
その笑みを見た商人らしき人は、突如懐からナイフを取りだし、手を震わせながら彼に突き刺そうとする。
しかし、軽く身体をそらしてナイフをかわし、手を捻り上げる。
「まったく、物騒でしょうが」
この行動に少し腹が立った彼は、中年を思いっきり睨んでやる。
あくまで知的な冷静さは残して、だが。
「ひぃ!? す、すいません! お許しください! 何でもしますから!」
「じゃあ、馬車には何を積んでる? 全部言わなければ殺す」
ありったけの殺気を込めて言い放つ。
が、殺す気など毛頭ない。彼はまだ人を殺したことはないから。
「か、金と奴隷です!」
「奴隷?」
ふと、ジパングでは聞くことのない言葉を聞いた。
「は、はい! 良かったら差し上げます!」
別に欲しくなど無い。
第一、彼は一人旅をしているのだ。
奴隷を譲り受けても正直困る。
だが、興味はあった。興味というより、その奴隷という子に対する同情だ。
「ちょっと、見せてくれる?」
そう言うと、「はい」と声を震わせながら返事をして、馬を降り、その馬車を扉を開けた。
「こ、こちらです・・・・・・」
顔を除かせ、中を除いてみる。
中には一人の女性が座っていた。
宝石を埋め込んだかのような琥珀色の瞳が、こちらを捉える。
文句無しに美しいといえた。
そして、美しいのは瞳だけではない。
顔のパーツも一つ一つが、これ以上ないくらいに綺麗に整っている。
青く透き通った水色の長い髪も、色彩豊かに彼女を際立たせてくれる。
白と青のツートンカラーのワンピースのようなドレスを着こなしている。
どれも現実離れしすぎている。
しかし、その表情は絶望極まりなかった。
人生を諦めているかのような瞳が、こちらを捕らえ続ける。
黙ったまま、ずっとこちらを見続ける。
「商人さん。この人は何をする奴隷なんだ?」
「性処理です」
まさかとは思ったが、その予感は的中した。
彼女の表情を見ればわかる。
何かしらの理由があって、無理矢理奴隷にされたのだろう。
絶望を抱く彼女の表情に対し、生きるために、相手に媚を売りへらへらと笑いかけてくる商人。
その商人の顔を見て、腹立たしさが湧き上がってくる。
戦争が終わったというのに、まだそんなことをしているのか。
「ふざけんな!」
衝動的に、その商人の顔面を手加減無しに殴る。
さらに、もう片方の手で服を掴んでこちらへと引っ張る。
そして、殴った手で今度は首の後ろを手刀で叩き、気絶させる。
怒り狂いながらも、流れる動作で瞬く間に、一人を戦闘不能にする。
「・・・・・・くそ、最悪だよ、ほんと」
旅をするのが夢だった。
俺は旅というものに憧れや希望を抱いていたのだ。
だが、その思いは初日で崩されることになった。
何が旅だ。何がフレニア大陸だ。
世界を見て色々なことを学ぶ予定だった。
両親に聞かされた旅の内容は、所詮良かった部分だけを話したに過ぎないのだ。
わかっていたが、ここまでひどいとは思っていなかった。
「旅をするってこういうことなのかな」
そう口にすると、とことん悲しくなってくる。
だが、今はそんなことをしている場合ではない。
湧き出る色々な感情を、とりあえず押さえ込む。
そして、彼は後ろにある馬車の方へ向かい、扉を開ける。
商人が言ったとおり、この馬車には金板が積んであった。
一見するだけでも、30枚はくだらない。
「自在輪」
左手を金板の上に置き、そう呟く。
すると、人差し指の指輪が発光し、10枚の金板を残し、それ以外すべて消えた。
指輪の独立空間に転移させたのだ。これで簡単に保管できる。
残りの10枚を手に持ち、前の馬車へと移動する。
「金板っていうから、金塊みたいにデカいのかと思ったら薄っぺらいんだなぁ」
そんなことを呟き、相変わらず座っている女性に目を向けるのだった。
前書きとは後書きとか少なくてすいません><。
コピペ終わり次第、書いていこうかと思ってます。