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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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9/9

9

9(ジョイル視点)




「お前は沙汰が下るまで、自室で反省していろ!!」


「ち、父上!!」


 ジョイルはベルワーテ侯爵に自室へと押し込められ、反省するように言い渡される。

 ドアが乱暴に閉められた後、侯爵らしき足音が遠くなっていく。


 仕方がないと、彼は自室の一人掛け用のソファにドカッと座った。それなりに値の張る代物だからか、乱暴に座ったにもかかわらず、すべての衝撃を受け止める。


 なぜ、こんなことに、なったのだろうと思い返す。


 自分の夢を宣言し、爵位を継いだ後の予定を披露。すると空気が一変し、父親であるベルワーテ侯爵から叱責を受けた。コレットが帰宅し、母親である夫人が退出してからも続き、先ほど反省するように言われたところだ。


 片手で髪をかき上げ、頭の中で気持ちを整理するジョイル。


 もしかしたら反対されるかもしれないと、予感はしていた。だが、自分は優秀だと自負しているし、家庭教師からも物覚えが良いとお墨付きを得ている。父親もそれは認めているので間違いない。

 兄は後継者に相応しくないと父親自身が判断したので、跡を継げるのは自分だけ。


 説得できると思っていたが、当てが外れてしまった。


 ジョイルは思い通りにいかなかったことにイライラしたのか、両手で頭をかきむしる。


「はあ……」


 溜息を吐いた後、ジョイルはなぜ自分が画家になりたいのかを思い出す。



 幼い頃のジョイルは甘やかされていた。しかし、領主教育が始まると一転、厳しくしつけられるように。

 当時は幼さ故、なぜ両親が厳しく接するようになったのかが分からなかった。


 そんなジョイルが唯一、癒されたのが絵を描く時間。

 特に、庭園の草花を観察しながら描くのが好きだった。


 使用人に自身が描いた絵を見せると、皆、一様に褒めてくれる。それが嬉しくて、休憩時間が与えられると、すぐにスケッチブックを持って庭園に向かった。


 ある時、いつも通り庭園で絵を描いていると、父親が自分を見ていることに気付く。

 もしかしたら、絵を描くより勉強を優先するよう小言を言われるのではないかと、不安になる。しかし、父親から掛けられたのは意外な言葉だった。


「お前は絵を描くのか」


 ジョイルは思わず、父親に質問する。


「父上、ぼくを、おこらないのですか?」


「なぜだ? 絵を描いていると、心が休まるのだろう?」


 そう言いながら、ジョイルの持っていたスケッチブックをペラペラとめくり始める。

 描かれた絵の多さに、思わず言葉が出たのだろう。感心したように呟く。


「こんなに絵を描いていたとは……。貴族の家に生まれていなければ、画家になったかもしれないな」


 この時、ジョイルにあることが頭に浮かぶ。



 自分には、画家の才能もあるのでは?――と。



 勉強もでき、画家の才能もある。

 ジョイルはこの頃から、万能感のような高揚した感覚を持っていた。


 それから数年後、ジョイルは父親からコレットと結婚するように命令される。


 この計らいも、画家の才能を埋もれさせるのが惜しいと思った親心だろうと、解釈していた。

 ベルワーテ侯爵家の仕事をコレットに任せて、お前は画家になりなさいと。

 彼女も自分に好意を抱いている。利用しない手はない。



 当時を思い出し、再び溜息を吐く。


「僕の画家の才能を、認めてくださっていると思っていたのに……」


 すると、ふと、ある可能性が、頭をよぎる。


「父上は、才能のある僕を疎ましく思っているのでは?」


 自分は勉強ができるだけでなく、画家の才能も持ち合わせている。当然、後継者として育てられたので侯爵貴族としての技量も十分。

 それに対して、父親は侯爵貴族としての技量しかない。貴族でなければ無価値だ。


 ジョイルは自身の能力を高く評価し、父親であるベルワーテ侯爵を見下し始める。


 さらに、伯爵家の息女であるコレットと婚約させたのも、嫌がらせの一つだろうと考えた。

 彼女も、後継者として教育を受けていたので補助してもらうためと言っていたが、それは建前。本当は、自分より劣っている息女なら、誰でもよかったのではないかと。


 一人掛け用のソファから勢いよく立ち上がり、演説しているかのように独り言をしだした。


「優秀な自分に、伯爵家の娘なんか不釣り合いだ。才能に恵まれている自分には、名家の息女との結婚が相応しいじゃないか!」


 ジョイルは部屋に一人で考え事をしているからか、被害妄想に取りつかれる。


「おかしいと思った! そうか、父上は僕に嫉妬しているんだ!! ははっ!!」



 ジョイルの自室から、いつまでも不気味な笑い声が響き渡っていた。

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