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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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 会場に入る際、ジョイルにエスコートされるコレット。


 王城内とあって、ホールは千人もの人を入れても余裕があるほど広い。

 天井には大きなシャンデリアが吊るされており、場を明るく照らしている。全体的に白を基調としているが、壁や柱など至る所に臙脂のような深みのある赤色や金色の装飾が施され、華やかな印象を与える。床には海外から取り寄せたのか、白色や黄色のタイルが敷き詰められ、離れて見ると大きな花のような模様になっていた。近くで見ても細かく描かれているので、思わず踏むことを躊躇してしまうほど素晴らしい。


 王城内のホールを緊張しながら歩くコレット。

 社交界デビューして数年経つ。もちろん何度も王城内のホールに足を踏み入れているが、豪奢な内装や招待客の多さに、なかなか慣れなかった。しかし、今回はそれだけではない。


 ジョイルが自分を凝視しているからだ。

 愛する者にエスコートされていることもあり、ぎこちなくなるコレット。


 ジョイルが自分を見てるが、どこか作法に問題があるのだろうかと、彼からの視線に気付き、うろたえる。

 そんな不安をよそに、ジョイルは彼女に話しかける。


「なあ、コレット。そのドレス――」


「な、なあに?」


 話しかけられたコレットは赤くなる。

 この日のために用意したドレスは、ジョイルの瞳と同じ空の色。その意味に気付いてくれたのだろうかと、内心ドキドキする。


 しかし、胸が高鳴る彼女とは逆に、ジョイルの反応は冷ややかだった。


「もう少し、落ち着いた色にした方が良いんじゃないかな? あちこちに付いてるリボンなんかも、いらないだろう。もうすぐ結婚して令嬢では無くなるのだから、もっと質素にしないと」


「あ……そうね、ごめんなさい。今度からは気を付けるわ」


 自分はなんて、はしたないのだろうと恥じる。しかし、ジョイルに指摘してもらって気付くことができた。

 コレットは彼からの指摘を好意的に捉えていた。


 “令嬢”から、愛する人の“妻”になる。


 結婚のことも考えてくれている。そう思いながら、うっとりする。

 そんな彼女の腕を少し雑に外すジョイル。


「じゃあ、挨拶に行って来るよ」


「ええ……」


 コレットを放って、ジョイルはすぐに立ち去る。

 彼が足早にその場を後にし、姿が見えなくなったことに寂しく思う。



 コレットがジョイルと出会ったのは十年前。

 彼女の父親であるポワミエ伯爵と共に、予てから親同士で親交のあったベルワーテ侯爵の領地へ赴いたことがきっかけだ。


 この国では、実子に男がいない場合、女でも爵位を継ぐことが許されている。


 当時、コレットは一人子で男兄弟がいなかった。そうなると、爵位を継ぐことが可能なのは彼女だけ。

 ポワミエ伯爵は娘を後継者に据え、厳しい教育を施した。女だからと苦労しないようにだろう。


 自分しか爵位を継ぐ者はいない――コレットは逃げ出したい気持ちを抑え、言われるがままに教育を受けていた。

 領主教育に加え、淑女教育も同時に行われたため、同年代の息女たちよりも覚えなければならないことが多い。凡庸な彼女がとった手段は、ただ、ひたすら時間を費やすこと。寝る間を惜しみ、勉強することを自ら強いていた。


 無理をさせていることを自覚していたのか、ポワミエ伯爵は娘の気分転換になればと家族でベルワーテ侯爵領へ訪れた。

 そこで出会ったのがジョイルだ。


「コレット。こちらのご令息もベルワーテ侯爵の跡を継ぐために、一生懸命、勉強しているんだよ」


 父親にそう言われ、自分と同じ年頃で爵位を継ぐために勉強をしている子息の存在を知る。


 ジョイルもベルワーテ侯爵の後継者として教育されていた。

 すぐに同じ苦労をしている者として二人は意気投合し、心の支えに。


 ある日、ベルワーテ侯爵邸を訪れていたコレットは庭園で不安を吐露する。


「授業で教えられたことを、ちゃんと覚えたいのに、なかなか覚えられないの。休憩時間中もずっと勉強しているのだけれど……私、爵位を継いでも領主として運営していけるのかしら……」


 爵位を継いだら父親に頼らず、自分で切り盛りしていかなければならない。だからこそ、凡庸な自分が良い領主になれるのだろうかと、常に不安が付きまとう。

 受け継ぐであろうポワミエ伯爵の名と重責で、今にも押し潰されそうだった。


 ジョイルと何度目かの会話で、彼が自分より優秀であることを見抜いていた。もしかしたら、良い助言が得られるのではないかと期待したのだ。


「そういう時は、きちんと休憩を取った方が良いよ。かえって気持ちがすっきりして勉強が捗るからね」


 彼女の悩みを笑顔で、優しく助言するジョイル。


「あと、趣味を持ってみても良いんじゃないかな。僕は勉強の合間に絵を描くことにしているよ」


 そう言って、手に持っていたスケッチブックを見せる。そこには、花や人らしきものが鉛筆で描かれていた。

 大人から見ると非常に拙いが、子どもからすると上手く描けているように見えるのだろう。コレットはジョイルの絵を褒め称える。


「まあ、とっても上手ね! 勉強ができるだけではなく、絵もお描きになるなんて素敵だわ!」


「当然だよ!」


 羨望のまなざしを向けるコレットに対し、今まで幾度も褒められてきたのか、ジョイルは堂々としていた。

 彼女はその姿に見惚れ、頬が赤くなる。


 悩みや不安を打ち明け合っていく内に、コレットはジョイルに初めて恋をした。


 早速、ポワミエ伯爵領に帰宅したコレットは助言に従い、いつか読もうと積んでいた本を読むことに。積んでいる本のほとんどは、巷で流行している恋愛小説。

 そこには貴族の二人が自由に恋をし、愛を育んでいく様子が丁寧に描かれていた。

 実際の貴族が自由に恋愛をすることは稀。だからこそ、惹かれるのかもしれない。可能な限り、休憩時間はほぼ恋愛小説を読むことに費やしていた。


 ジョイルの助言に従ったことでメリハリができたのか、以前より円滑に勉強の内容が覚えられるように。それだけではなく、勉強を楽しむ余裕さえできていた。


 いつも通り、恋愛小説を楽しむコレット。この日はご褒美として、午後から休みを言い渡されたので読書に没頭していた。

 お気に入りの場所は、図書室の窓辺にあるソファ。少しクッションに寄りかかり、すぐ横にあるサイドテーブルに飲み物を用意するのが好きだった。午前に行われた勉強の疲れを癒して欲しいからか、侍女が気を利かせて淹れてくれたのはカモミールティー。今、そのサイドテーブルの周りはカモミールの優しい香りが、ほのかに漂っている。

 侍女の気遣いに自然と笑みがこぼれ、感謝する。


 休憩時間に読み進めていた小説も、遂に物語の終盤へ。貴族の子息が、同じく貴族の息女に愛の告白をしている場面に。


『私は完璧ではないが、もしかしたら君の支えになれるかもしれない。互いに支え合って、生涯を共にしていきたい』


 物語に登場する二人は、決して完璧ではない。だからこそ、支え合っていきたいという姿勢に心を惹きつけられた。


 自分もこの物語のように、心から慕っている方と支え合って生きていきたい。


 心の中で、コレットはジョイルを思い浮かべながら呟く。


 数年後、ポワミエ伯爵と夫人の間に息子、サロモンが産まれた。

 弟ができたことで、コレットは後継者になる権利を失うことに。


 息子が産まれることも想定していたポワミエ伯爵。すぐにコレットの婿探しから、嫁入り先を探すことに切り替えた。

 幸い領主教育を受けた息女は少なく、すぐに多くの縁談が舞い込む。

 その時にベルワーテ侯爵家より縁談が持ち込まれ、初恋の相手であるジョイルと婚約するに至ったのだ。


 本来であれば、それぞれ爵位を継ぐことを宿命づけられていたので、結婚することは叶わない二人。

 ジョイルとの結婚を諦めていたコレットは、奇跡だと喜んだ。



 当時を思い出し、静かに笑みを浮かべるコレット。


 その彼女の元に、誰かが近付いて来る。

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