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打ち合わせから数週間後、王城で夜会が行われる。もちろん、コレットもジョイルも参加する予定だ。
コレットはこの日のために、新しくドレスを新調した。
ジョイルの瞳と同じで、空を思わせる明るい青色のドレスだ。大部分は明るい青色だが、腰のあたりからはグラデーションになっており、上部に行くにつれて青色が濃くなっていく。所々に大小さまざまなリボンがあしらわれ、寒色だが可愛らしい印象を与える。
「馴染みのお店に頼んで正解ね!」
素晴らしい出来栄えに、思わず、その場でくるりと一周。ずいぶんも前から準備していた甲斐があった。
支度を終え、向かった先はポワミエ伯爵夫人である母親の寝室。
想定していたより、素晴らしい仕上がりを見て欲しかったのだ。
使用人に訪問したことを伝えてもらい、どうぞと許可を得た後に入室する。そこには部屋の主であるポワミエ伯爵夫人、コレットの弟であるサロモンと数人の使用人がいた。
ポワミエ伯爵夫人はベッドから上体を起こしており、笑顔でこちらを見ている。サロモンは先ほどまで母親と会話をしていたのか、ベッドに上半身を預け、頬杖をついていた。
「失礼いたします、お母様」
「いらっしゃい、コレット。まあ、可愛らしい!」
娘の姿を見たポワミエ伯爵夫人は優しく微笑む。
「あの、今夜の夜会のためにドレスを新調したのですが……い、いかがしょうか?」
先ほど褒めてもらえたので、似合っていないなどと言うはずがないと分かっているが、それでも不安だった。
「とっても似合っているわよ!」
「ありがとうございます!」
褒められてお礼を言うコレット。母親を笑顔にすることもできて、本人も嬉しそうだ。
「おねえさま、とってもきれい!」
そう言うと、サロモンはコレットに小走りで近付いた後に抱き着く。本心なのだろう、いつもより美しく着飾った姉の姿に顔を赤くさせている。
「ふふ、ありがとうサロモン」
年の離れた可愛い弟に褒められ、コレットはお礼を言いながら背中を抱き寄せる。純粋な思いを感じ取り、愛しく思う。
コレットの母親、ポワミエ伯爵夫人は三年前、息子であるサロモンを出産した後から不調の状態が続いている。侍医の診察によると、高齢での出産が原因だろうとのことだ。
徐々にではあるが快方に向かっており、現在、少しの間だが王都に滞在できるようになった。あの頃より、目に見えて血色も良くなったように感じる。すでに休む準備をしているのは、久しぶりに訪れた王都での散策に疲れたからだろう。
このまま回復していけば、自分の結婚式に出席してもらえるかもしれないと、コレットは母親の顔色を見て感じた。
しかし、それとは裏腹に、ポワミエ伯爵夫人は娘と息子の仲睦まじい様子を見て微笑んだ後、悲しそうな表情へと変わる。
「ごめんなさい、コレット。貴方に負担をかけてしまって……領地の仕事もしているのに」
「お気になさらないでください。負担だなんて思っておりませんから。それに、領地の仕事は私からお父様に、無理を言ってお願いしましたの」
ポワミエ伯爵夫人は、娘に女主人の役目を背負わせてしまったことに後ろめたさを感じている。
コレットは母親の心情を察し、悲しげな表情に心を痛めた。
ポワミエ伯爵夫人の体調が戻らない今、ポワミエ伯爵家の女主人の役目はコレットが担っている。
社交界ではポワミエ伯爵夫人が体調を崩していることは知られているので、ある程度の粗相は許してもらっている。それでも女主人の仕事は大変だった。だからこそ体調を崩している母親にはさせられない。
今では母親に対し、大変な仕事を笑顔でこなしていたことに尊敬の念を抱いていた。
領地の仕事は、自分から父親にお願いしたというのは嘘ではない。将来、ベルワーテ侯爵夫人として必要な経験だと思い、彼女から願い出たのだ。
自分の決断が、母親を追い込んでいたことに申し訳なく思う。
サロモンは幼い故か、きょとんとしている。
「私のことより、ご自分の体のことだけを考えてください。こう見えて、楽しく仕事をしているのですよ?」
母親が安心するよう、できるだけ笑顔で答える。
女主人の役目とか貴族とか関係なく、今は体を休めて欲しいという一心からだ。
「お母様の体調がすっかり良くなりましたら、ポワミエ伯爵家の女主人の仕事をお返ししますわ。ですから、早く良くなってくださいね」
それから――と、更に言葉を続ける。
「できれば、お母様には私の花嫁姿も見ていただきたいわ」
ポワミエ伯爵夫人は娘の気遣いに、再び笑顔になる。
「そうね、コレットの花嫁姿も見ないとね」
自身の姉と母親が笑い合っている姿を見て、サロモンも笑顔になる。
「お嬢様。ご歓談のところ申し訳ありませんが、そろそろお時間が……」
そうこうしている内に時間が来たらしく、侍女に早く馬車に乗るよう促される。
「まあ、もうそんな時間?」
会話が楽しかったからか、時間が経っていることを忘れていたようだ。
侍女に少し乱れている所を整えてもらい、ドアへと向かう。
「それでは、お母様、サロモン、行って参ります」
退出しようとするコレットを、ポワミエ伯爵夫人とサロモンは笑顔で送り出す。
「ええ、行ってらっしゃい。また、お話を聞かせてね」
「いってらっしゃい!」
部屋を出たコレット。
二人に見送られ、自然と笑顔になっていた。
しかし、それだけではない。
彼も、自分のドレス姿を褒めてくれるだろうかと、愛しの婚約者に褒められる明るい未来を想像しながら、玄関へと向かって行った。




