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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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「僕には夢がある。その夢を叶えるために、支えて欲しい」


 愛しい婚約者の真剣な眼差し。


 せっかく自分に打ち明けてくれたのだ。ぜひ、力になってあげたい。

 そう思い、表情を引き締めるコレット。



 この後、打ち明けられた夢の内容と計画に、コレットは絶望の淵に突き落とされることとなる。






 ポワミエ伯爵家の邸宅にある応接室。貴族の邸宅にしては落ち着いた雰囲気をしている。

 亜麻色のような淡い赤色を含んだ黄色の壁紙に、全体的に胡桃の殻のような茶色の絨毯。家具は装飾が少なく素朴だが、優しい部屋の雰囲気に合っている。ローテーブルには庭園に咲いていた花が花瓶に生けられ、部屋に彩を添えていた。


 ポワミエ伯爵家の息女であるコレットは、婚約者のジョイルと共に結婚式の打ち合わせの真っ最中。


 婚約者のジョイルはベルワーテ侯爵家の跡を継ぐことが決まっており、結婚すれば将来的にコレットは侯爵夫人となる。

 ジョイルには兄がいるのだが、勉強が苦手だったので後継者として教育しても、すぐに挫折するだろうと予想された。そこで兄ではなく、勉強が得意だった弟のジョイルに白羽の矢が立ったのだ。


 この日の打ち合わせ内容は、式の招待客について。ほとんどの招待客は父親である両家の当主が決めているが、友人については本人たちに一任されていた。

 コレットは前日までに、まとめていた、親交のある貴族の息女や子息の名前が書かれた紙を見ながら相談する。


「実は私、友人のベライス様を招待しようと思っているのだけれど、良いかしら?」


「良いんじゃないかな。僕はエミードを呼ぼうと考えているよ」


「まあ、伯爵家のご令息ね! 幼少期から仲が良かったと仰っていたものね。ぜひ、出席していただきたいわ」


 コレットは浮かれながら名簿に丸を付け、メモを取る。

 その間、ジョイルは思い出したように、ある包みを取り出す。


「ああ、そうだ。これ、母上からコレットにだって」


 そう言って、コレットへ手渡した。

 両手ほどの大きさで、丁寧に包装されている。

 相手を大切に想っていることが一目で分かるほどだ。


「あら、ベルワーテ侯爵夫人から? 何かしら。開けてみても?」


「いいよ。僕のじゃないし」


 ぶっきら棒だったがジョイルから許可を得た。

 受け取ったコレットは丁寧に包みを解く。


 そこには、ベルワーテ侯爵夫人が手作りしたケーキが詰め込まれていた。

 材料を混ぜて焼いただけなので見た目は少々素朴だが、練り込まれている乾燥した果物と甘いバターのほのかな香りが鼻腔をくすぐる。


 ベルワーテ侯爵邸に招かれた時に、自分が気に入ったことを覚えていてくれたのだろう。コレットはベルワーテ侯爵夫人の気遣いに、自然と顔がほころぶ。

 対して、ジョイルは不機嫌そうだ。


「母上は意地悪だ。甘いものだと、僕が食べられないじゃないか」


「ということは、この美味しいケーキは私が独り占めできるのね。嬉しい!」


 ジョイルとは逆に、コレットは嬉しそうにする。

 ケーキのこともあるが、彼がこうして愚痴をこぼすと自分に甘えてくれているようで、とても愛しい。


「そのケーキ、そんなに好きだったっけ?」


「大好きよ!」


 乾燥した果物の自然な甘み、ふんわりした食感。素朴だからこそ、何度も食べたくなる。

 コレットは以前、ベルワーテ侯爵領で食べた時の記憶を思い起こした。


「はあ……甘いものを食べ過ぎないようにして欲しいんだけれどね」


「ええ、分かっているわ」


 はしゃぐコレットに、ジョイルは苦言を呈する。


 きっと、健康や体形のことを心配してくれているのだ。自分のことを想ってくれるなんて、ベルワーテ侯爵夫人に似て優しい。

 コレットはジョイルと婚約して良かったと、ケーキを見ながら改めて思う。


「それなら、ジョイル様はあの店はお嫌いかしら……。今、貴族の女性の間で流行しているお店があって――」


「コレットは流行に踊らされている。自分をしっかり持つべきだと思うよ」


 コレットはジョイルと一緒に行きたくて、軽食を提供している店に誘おうとした。しかし、流行の店だったことから、彼に主体性を持つよう指摘されてしまう。


 貴族であれば、流行に敏感でなければならない。その一方で、主体性を持ったり、自分の価値観を大切にする必要があることも事実。

 ジョイルが気分を害した点については、コレットが受動的なことだけではない。自分のことばかりで、相手の嫌いなものを話題にしてしまったことも要因の一つだろう。


「確かに、そうね」


 コレットは自分の未熟さに情けなく思う。

 ジョイルの指摘に納得した彼女は、そのことも忘れないようにメモをした。


 その様子を真剣な表情で見つめるジョイル。


「なあ、コレット……」


「なあに?」


「実は……」


 今まで見たことのないジョイルの表情に、コレットはドキドキする。


 もしかしたら、自分たちは両思いなのかもしれない――そう期待したのだ。


 しかし、ジョイルは苦しそうな表情を浮かべている。その表情を見てすぐに、自分が想定していたものではないと察する。

 しばらく待っていたが、彼が心の内に秘めた想いを言葉にすることは無かった。


「いや、やっぱり良いや」


「……そう」


 気が付かなかっただけで、もしかしたら、ジョイルは切羽詰まった状況なのかもしれない。自分だけ浮かれてしまって、婚約者なのに申し訳ない。

 コレットは、婚約者が悩んでいることに気付かなかった自分を恥じる。


 気持ちを切り替え、安心させるように優しく伝える。


「何かお困りでしたら、いつでも仰ってくださいね。私にできることでしたら協力させてください」


「ああ」


 コレットはジョイルの表情が少し解れたことに気付き、安堵する。


「少し休憩しませんか? ずっと打ち合わせをしていましたもの。きっとお疲れなのよ」


「……そうだね」


 休憩を提案されて同意するジョイル。



 コレットは侍女を呼び、紅茶と彼の好きな軽食の用意をするよう指示した。

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