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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 フォレイグン屋敷編 1 救助要請

 時が経つのは早いもので、葉がエインスカイに来てから既に一ヶ月が経とうとしていた。

 葉は弟を探すという目的がある以上、正式に軍所属という訳では無いが、彼女の師匠であるスザクが軍属のため城内の訓練場の一角を使用している。それでも生活費を稼ぐためスザク率いるカノ隊の雑用として働き、少しずつエインスカイにも馴染んできたようだった。

 

 一方、シアン達護リ人3人はトラリアと共に過去の迷イ人の傾向を洗い出し、次に備えるための調査に城へ来ていた。もっとも、ライアはソラが城までフードを掴んで引きずって来たが、城内に入って手と目を離した瞬間にどこかへ消えていた。

 迷子(ライア)を探すついでに葉を見ていくか、と、シアンとソラが訓練場に向かうと突如強烈な風が吹いてきた。それと同時に葉と目的の人物の声が聞こえてくる。


「さーて葉姉、魔法使えるようになったんだって?かるーく見せてみ」

 

「う、うん。……いくよ……!」

 

「ぶっは!軽くっつったじゃん!暴風だわ!!あはは!威力は十分すぎるな!本気でやれば大抵の奴らは吹き飛ばせるっしょ。この調子でがんば」


 そこにはスザクが居ない代わりに、ライアが葉を見ていた。

 城に着いてそうそう迷子、調査サボったと思ったらこんなところにいたのか……とシアンがブチ切れそうになる。隣のソラは無言でそれを宥めた。ここでまた喧嘩されてはかなわない、と。

 葉はだいぶ魔法を使えるようになったようだ。様子を見るに、得意属性は風。まだ力をコントロールするのは難しいようだが、威力は申し分無さそうだった。スザクがどういう教え方をしたかは知らないが、案外順調に進んでいるようで安心した。そろそろ声をかけるかと口を開いた時――


「大変よくできましてよ!魔法の魔の字も知らない状態から一ヶ月、戦い方と並行してここまで諦めなかったのは賞賛に値しますわ。これからも精進なさってくださいまし」

 

「うん。出だしは完璧、よくやった。頑張ってる葉には飴をあげよう。はい、『風神ソーダ味』」

 

「な、何そのお酒みたいな味…………なにこれぱちぱちす………っ、かっっらい!!!!」

 

 凛としたよく通る声と謎すぎる飴の名前、加えて葉の悲鳴が響き渡る。どうやら葉のそばにいたのはライアだけではなかったようだ。

 シアンのいる位置からは姿こそ見えないが、口調からしてリザイアとシャナ。彼女らはバルフィレムの貴族街に住むいわゆるお嬢様。確かに葉と歳が近かったはず。なぜここにいるかは分からないが、言葉を聞くに何度か葉の特訓を見ていたのだろう。


「よぉ、お嬢様達来てたのか。葉姉も久しぶり、魔法も随分とスムーズに発動できるようになってんな」

 

「シアン!」


 いつまでも影で見ている訳には行かないので彼女達に近づいた。葉はリザイアに水を貰い、必死に飲みながらこちらを向く。『風神ソーダ』は、相当辛いようだ。

 尚、ソラはライアに詰め寄っていた。人の怒りは止めたくせに。


「ライア、お前!お前さあ!」

 

「なーにソラ。城の外にいたわけじゃねーからいいだろ。別に私が居ないと進まない話でもないだろーに」

 

「良くねえんだわ!なんで一瞬手を離した隙に消えるかなあ?!毎度毎度探すオレの気にもなれ!!」


 などと騒いでいる。


「それで?リザイア、シャナ、お前らなんでこんなとこにいるんだよ」


 騒ぐ二人は置いておいて、話を進めるシアン。リザイアは優雅に会釈をした後に説明を始めた。


「たまたま、(わたくし)達がお爺様のお使いで城へ来た時にランチをご一緒しましたの。同性の方が気が楽だろと、スザク隊長の進言ですわ」

 

「そう。歳も近いって話してみたら意気投合。あ、シアンも飴舐める?『ぶっちゃけタンポポ味』」

 

「いらねぇよンな自白剤みたいな味。しかもタンポポて」

 

「リザとシャナはその後から特訓に付き合ってくれたんだ。エインスカイの常識とかも結構教わったよ。魔力はみんな持ってるとか、王都の外に出るなら天使に気をつけろとか、迷イ人が暮らす上で気をつけることとか。頼りっぱなしだなぁ」

 

「えぇ。どんっどん頼ってくださいまし。(わたくし)達のところにも元迷イ人がおりますの。何が大変かはよく知っているつもりですわ」

 

「その通り。水臭いこと言わないで。人を頼るのは人を信じられる証。頼れる時は頼るべき」


 嬉しそうに胸を張るリザイアに、眠そうな顔のままピタッと葉にくっつくシャナ。なかなか良好な関係のようだ。やはり友を作るには歳の近い同性が一番話しやすくて良いのだろう。一ヶ月前は緊張で固かった表情も見事に緩み、自然な笑みが浮かんでいた。


「で?そのスザっくんは?」

 

「スザク先生なら、五番隊の隊長に呼ばれたとかで席を外されてるよ。すぐ戻るとは仰ってたけど」

 

「嗚呼。ちょうど戻った」


 噂をすれば影がさす、とはこの事か。ちょうどいいタイミングで当の本人が戻ってきた。

 彼はじっとシアンを見つめ、「頭が白い。シアンさんか……」と言った。間違いない、髪の色でライアと区別されている。人の顔が分からない彼からすれば、双子も他の人も関係なく同じ様に見えるのだという。何も考えてないような顔をして、その実苦労しているのだろう。

 

「葉はどうだ?見た感じかなり魔法使えるようになってっけど。今後のためにどんな指導したのか聞いておきたいんだが」

 

「コントロールは見ての通りだが、使うこと自体はもう慣れたものだな。指導と言っても……正直ほとんど何もしていない。初日から感知はできていたようだから、無理やり俺の魔力を流してみたんだ。そしたらできた」

 

「荒業だなぁ……」

 

「俺もそうやって教わった」

 

「誰に?」

 

「ソラさん」

 

「あの野郎……」


 それでは指導というより矯正じゃないかと呆れるシアン。しかも最初にそれをやったのがソラだという。散々人のことを揶揄するがあいつこそ脳筋だ。


「だが、それでもオレは慣れるまでに時間がもっとかかっていた。葉は恐らくだが元々魔法を見たことがあるんじゃないか?本人が覚えているかは分からないが」

 

「なるほど。完全新規の魔力回路を開けたんじゃなくて、眠ってたものを叩き起したって感じか。それならまぁ、納得できるな」

 

「その表現が近いだろう」


 こういう迷イ人は稀にいる。恐らくは現地でも秘匿されていただけで魔法が実は存在していた場合や、この世界から弾き出された元エインスカイが身近にいた場合だ。エインスカイには外の世界からの迷イ人が多いが、その逆も有り得るのだ。

 現状行き先までは掴めないため、一種の災害と言える。迷イ人対策を担う三番(ベルナイース)隊と協力し、目下対策中ではあるが、なかなか上手くはいかない話だった。


「俺は零を一にしただけで、その後は魔力に耐えるだけの体力をつけることと、すぐに使える護身術だけ叩き込んだ。魔法のほうは、あのご令嬢たちに任せて監督していた」

 

「監督って…………それサボりじゃねぇの」

 

「いや。監督だ」

 

「そうかよ。………………本は何冊読んだ?」

 

「たくさんだ。有意義な時間だった」

 

「サボっては?」

 

「ないな」


 それがサボりじゃないならなんだと言うんだ……と思ったが、本人が頑なに認めないためシアンはもう諦めた。体力、武術に関しては高々一ヶ月、あまり期待しない方がいいだろう。

 ふと思い出したようにスザクがライアとソラを呼んだ。


「そうだ、ちょうど護リ人三人揃っているなら仕事を頼んでもいいか」

 

「な〜に?」


 疲れきった顔のソラと、その説教が何も響いていないライアが戻ってきた。暖簾に腕押し、糠に釘。ソラも疲れるならやめればいいのにと思うシアンだった。

 三人が揃ったのを確認し、スザクが話を続ける。どうやら先程席を外していた時の話だそうだ。


「アウラさんを通してフォレイグン辺境伯から要請が届いた。戦力が欲しいそうだ」

 

「フォレイグン?そうなのかリザ、シャナ」


 フォレイグン辺境伯は、元バルフィレム国軍の医療の要、六番(ソウェル)隊の隊長を勤めていた老人だ。元は公爵だったらしいが、今は辺境伯としてバルフィレムの端――ウッズメイズと呼ばれる森を管理している。

 リザイアとシャナはそれぞれ別の公爵家ではあるものの、彼をお爺様と呼び懐いていた。彼女らの両親が彼を信頼しているために預けられているらしい。

 

「初耳ですわ。私達は本当にただ遊びに来ただけですもの」

 

「でも…………最近確かに森の様子がおかしかった。また蓮夜が狙われてるのかもしれない」


 その二人が何も知らないということは、ちょうど今、急に戦力が必要になったのだろう。そうと知ってここでじっとしている訳にはいかない、とリザイアとシャナは先に帰ることになった。

 走る二人を眺めていたスザクは本題と言わんばかりに、ぽんとシアンの肩に手を置いた。

 

「という訳だ、貴方たち暇だろう。行ってきてくれ」

 

「暇じゃないんだが」

 

「どう見たって暇人の集いだろう。そうだな……ソラ、後で奢ろう」

 

「よし、任された。ほらお前らさっさと行くぞ。」

 

「ソラくんさ〜飯に乗せられてんじゃねーよ、私ら金に苦労はしてねーだろ」


 スザクが呼ばれたということは、本来は戦争がなくて暇な四番(カノ)隊に来た話なのだろうが……丁度いいところにいたと言わんばかりのスザク。暇かと言われると暇では無いと言い返したいシアン。ライアはライアでフォレイグンのところには行きたくない理由があり、反対の様子。しかし、飯を奢ると言われ、目を輝かせたソラによって連行されることが決定した。あの大食らい、どうしてくれよう。

 

「しゃあねぇな。葉姉、あんたも来い。弟くん探しのためには王都から出ることもあるだろ。いいよな先生?」

 

「嗚呼。貴女達がいるなら安心出来る、実践を見てくるといい」

 

「は、はい!」


 半分蚊帳の外になっていた葉に声をかける。慌てて返事をしたがおそらくは何も分かっていないだろう。

 師匠の許しも得た。ならばすぐにでも出発するべきだ。シアン達三人は、表情にこそ出さないもののこれが緊急事態という事は理解している。()()()()()葉を連れていくのだ。

 いつも通りソラがライアのフードを掴み、駐車場へ向かう。魔法の存在する世界といえど科学技術は発達する。急いで遠くに行くなら車は必須だ。勿論動力は魔力なのだが。

 シアンが葉に着いてくるように伝えると、スザクが待ったをかける。


「葉、お前は覚えがいい。この一ヶ月で確かに一般人よりは戦えるようになっただろう。その暴風なら大抵の敵からは自衛できる」


 その目はしっかり葉の目を見ていた。傍から見てもわかるほどに強く、真剣だった。思わず葉が呼吸を忘れるほどに。あえて緊張感を出すためか、スザクはひと呼吸置いた後に再び口を開く。

 

「ただこれだけは忘れるな、エインスカイでは全ての人間が抜き身の刀を持っているようなものだ。魔法は簡単に人を殺す。だから、いざという時、躊躇ったやつから死んでいく。敵に攻撃をする覚悟を、命を奪う覚悟を持っていけ」

 

「………………はい、先生」


 葉はスザクの気迫にそう返事をするのがやっとのようだった。そして、彼の言葉の本質をこの時の葉にはまだ、掴めていなかったのだ。

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