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氷炎護リ人  作者: 有麻環
一章
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1章 8 新生異世界ライフ

「じゃあ、トラリアの方行ってるから。シアンに顔見せてこいよ、オレも終わったら行く」

 

「はいはい〜、んじゃあとよろしくな」


 シアンと葉がいる場所の近くまでライアを送り届けたソラは、迷イ人リンナについての報告をするためベルナイース隊の執務室へ向かった。シアン達は中庭にいるらしい。魔力の流れを感じるので、大方シアンが葉に魔法を教えているのだろう。

 シアンが葉を送り返しているという選択肢がないのは、ライアも恐らく葉はエインスカイに定住するだろうと思っていたからだ。ライアはまだ知らないが、事実その通りになっているわけであるし。

 案の定中庭に着くと、シアンが身振り手振りで葉に魔法を教えていた。シアンは基本脳筋なのだから、理屈で学ぶタイプとは合わないだろうに。苦戦している様子を見るに葉は理屈派なのだろう。と、見かねたライアが声を掛ける。


「はいはいハローおつかれさ〜ん、二人とも」

 

「あ、ぜぇ……ライアさん。……お…………お帰りなさい」

 

「遅かったな、ソラは?」

 

「ただいま葉さん、疲れてんね〜。ソラはトラリアんとこ、終わったらこっち来るってよ。それよりさ〜、シアン。さっきから見てたんだけどもう少し教え方どうにかならねーの?」

 

「見てたんなら声かけろ」


 悪態をつくシアンを横目にライアは近くの椅子に座る。いつから始めていたのか分からないが、葉は既に全力疾走したかのような疲弊具合だった。今まで魔法を創作物としか認識していなかった人間がいきなり自身の魔力使おうとしているのだ、それはそうだろう。

 魔法とはエインスカイの殆どの人間が使う力であり、魔力とはエインスカイで当たり前に生活に浸透しているエネルギーの1つでもある。

 この世界の生物は多かれ少なかれ必ず魔力を有している。迷イ人も例外ではない。逆に言えば、魔力の無い者はエインスカイに留まることが出来ないということでもある。

 葉のように魔法が想像上の産物である世界でも、その実魔力を持つ人間はいる。そういう人間が己の世界からはじき出されるようにエインスカイに飛ばされてくるのだ。


「だいたいさ〜、いつも言ってるけど私ら初めから魔法を使う人間は、こういう指導に向いてないんだって。し!か!も!ただでさえ感覚で掴む脳筋には土台無理な話だろって」

 

「なんだお前、いちいち一言多いな。喧嘩か?」

 

「は〜〜〜〜?事実を述べてるまでですが?」

 

「ちょ、ちょっと……なんでそんなに空気悪いんですか…………?!」


 ライアの言うことは最もだが、言い方が癪に触ったシアン。一瞬にしてピリついた空気に変わる。


 ☆


 葉はどうしていいか分からなくなってしまった。原因の中心にいるのは恐らく自分なので。

 

 (トラリアさん……!助けて…………)


 慌てている間にも双子の言い合いはエスカレートしていき、一触即発の空気だ。昨日から思ってはいたが、飄々と掴みどころのないライアと、直情的且つ短気らしいシアンは姉妹でありながらあまり反りが合わないようだ。ここにはいない唯一葉が他に知っている人間、トラリアに心の中で助けを求めるが来るはずもなく。双子はついに魔法を使う準備までし始めている。

 実の所、シアンの説明は擬音ばかりで何を言っているかあまりよく分からなかったが、彼女の魔力に当てられた葉は魔力を感知できるようになっていた。それ故に、今の双子が魔法を使う直前だと感じ取っていたのだ。


「何やってんだ、アホ二人ぃ!!」


 突如中庭に怒声が響き渡った。直後、雷が落ちるような音ともにビリビリと空気が震える。

 葉が思わず瞑った目を開けると、頭にたんこぶをこさえた双子が倒れ、その間にピリピリと帯電している金髪褐色の男がいた。


「ちょっと目を離した隙にすぐこれだ。城内で喧嘩するなっていつも言ってるだろうが、マリーシャ泣くぞ」

 

「ソラぁ、テメェが一番乱暴だって…………」

 

「そーそー……自称平和主義者はどこいったよ……」

 

「なんだ。まだ反省の色がないのか」

 

「「痛い痛い痛い痛い!アイアンクローはやばいって!!」」

 

 項垂れつつも悪態をつき続ける双子の顔面を掴みギリギリと力を込めるソラに、さすがの二人も両手を上げた。その言葉に満足したのか、パッとその手を離す。双子は揃って崩れ落ちた。


「はぁ……ごめんな、うるせえ双子で。迷惑かけたね」

 

「い、いえいえ!迷惑かけてるのはあたしの方なので……!」

 

「貴女が葉さんで合ってる?オレはソラ。このアホ2人の幼馴染みたいなもので、同じ護リ人だよ。よろしく」

 

「なーに二人してペコペコやってんだ、水飲み鳥かっつーの」


 お互いに謝罪を繰り返し、お辞儀し合う様子を寝転がったままのライアが茶化した。そして再びソラに殴られた。雉も鳴かずば打たれまいに。


「葉さんはここに残るんだっけ?トラリアに聞いたよ。それで魔法の使い方習ってたんだろ?確かに、自分で弟くん探すんなら戦えるようにはしておかないと、何があるか分からないからな」

 

「その通りです。でも、そのぅ、なかなか上手くいかなくって」

 

 お恥ずかしながら……と苦笑いをする葉。


「そりゃあそうだろうよ。ライアも言ってたけど、オレたちは魔法を初めて使う感覚なんて覚えてないから…………あ!ちょっと待ってろ、さっき適任が暇してたから呼んで来よう」


 言うが早いか、ソラは再び城に戻って行った。ちょうどその時、撃沈していた双子が起き上がってきた。二度も制裁をくらったライアはまだフラフラしているが、自業自得である。


「呼んでくるってあいつ、誰呼ぶ気だよ……」

 

「適任、適任ね〜。元迷イ人連中のこと言ってるなら海斗、大地あたり?あ、でもあいつらが今暇してるわけないか……。響は論外として、じゃあイヴ…………ないな」


 ライアから様々な名前が出てくるが、多くが馴染みのある響きの名前。あえて元迷イ人の名を挙げているようだが、日本人が多いというのは本当のようだ。

 そうこうしているうちにソラが深紅髪の男を連れて戻ってきた。


「「スザっくん!!」」

 

「すざっくん?」


 双子に口を揃えて名、というより渾名を呼ばれた男は葉をじっ……と見つめた。なんの感情も読み取れないその表情に、葉は少し居心地の悪さを感じた。双子が呼んだ渾名をつい繰り返してしまったからだろうか。

 そのうち、男は「嗚呼」と納得したような顔をし、こう名乗った。


「お初にお目に係る。バルフィレム国軍、カノ隊隊長を勤める、カケル・スザクだ。先に言っておく、俺には人の顔が分からない。髪型、声、雰囲気で認識するから、髪型や髪色を変えたらすぐには認識できないと思ってくれ」


 彼の言葉はどこか武人らしく、堅い。けれどその瞳に揺れはなく、葉は自然と背筋を正していた。

 

「は、はい。風希葉と申します……。えっと……スザクさん?カケルさん?」

 

「スザクが家名でカケルが名前だ。そこの双子は語感がいいとかで家名で呼ぶが、基本は名前だな。まぁ、好きに呼ぶといい」


 (カケル)朱雀(スザク)。軍の中でも特に戦闘に特化したカノ隊、通称四番隊の隊長であり、本人は元迷イ人である。名の響きだけならば日本人に近いが、彼もまた葉達のいた世界と異なる異世界人だった。


「それで、ソラさん。俺は何故ここに連れてこられたんだ」

 

「暇そうだったから」

 

「待った!ソラくん?お前まーた要件言わずに連れてきたのか」


 思わぬやり取りに、ライアが勢いよく口を挟んだ。てっきりスザクは全て知った状態でここに来たものだと思われていたが、実際は何も知らされていないらしい。


「え?言ってないっけ?」

 

「言われていないはずだが」

 

「ああ………………すまん!言った気になってたみたいだ」

 

「そういうとこあるよお前」


 頭を掻きながら苦笑いで謝罪するソラに、黙って見ていたシアンも流石に呆れて口を挟む。言った気になって何も説明せずに行動するのはソラのいつもの悪い癖だそうだ。


「悪い悪い。カケルに葉さんの魔法指導役になってもらええねえかと思ってさ。ほら、カケルの故郷も魔法のないのが当たり前だっただろ?」


 ソラがスザクを選んだのは、どうせ教わるなら元々魔法を使うのが当たり前では無い人間に教わったほうが感覚をつかみやすいだろう。という理由かららしい。勿論、暇そうだったからと言うのも間違いではないが。


「そういうことなら承った。暇なのは事実だからな」

 

「暇なの?カノ隊。本当に?」

 

「本当だ。今は戦争がないからな」


 ライアの問いにスザクは迷いなく頷いた。その様子に、葉は少し目を見開く。こんなに簡単に話が進むんだ……と。さらにその後の「戦争」というワードに慄いた。ここは自分がいた世界ほど平和ではないのだと知らされた気分だった。


「にしても何故エインスカイに来て間もない迷イ人が魔法を?興味か?」


 魔法が使えなかった人間が己も使えると知って、その特訓を始めるのはよくある話ではあった。しかしそれを来界翌日から行う程余裕のある人間はなかなかいないため、スザクはつい疑問に思ったらしい。


「あ、いえ、それもあるんですけど……そうじゃなくて」


 どこから話したものかと言い淀む葉に、シアンが助け舟を出す。


「葉さんは弟を探したいんだと。じっとはしてられないから自分でな。そうなると自衛手段は必要だろう?」

 

「……成程、理解した。要は一人でもこの世界で身を守れるようにすればいいんだな?」

 

「そういうことだ。頼めるか」

 

「問題ない」

 

「よ、よろしくお願いします!!」


 葉はこれから師匠となる男に、深く頭を下げた。すると、ライアがニコニコしながら葉の肩を組む。その勢いに思わずよろけそうになったが、きちんとライアに支えられた。


「やったな、葉姉!こいつは軍内部でもタイマンならトップクラスの強さを誇る。指導を受ける機会なんざ滅多にないんだ。ラッキーだぜ、本当に!」

「そ、そんな人がわざわざ……。葉姉って?」


 先程まで「葉さん」だった呼び方がいつの間にか変わっていた。不思議とライアの口から姉呼びされることに違和感は抱かなかったのだが、それはそれとして疑問は残る。そもそもソラを含めた三人は同い年くらいと思っていたが、どう見ても年上のスザクにさん付けで呼ばれているあたり立場と実年齢がよく分からない。

 葉の問いを聞いたライアはとぼけるように返答した。

 

「んぇ?いやだって〜、いつまでもさん付けって堅苦しいっしょ?これから長い付き合いになりそうだし、お互いフランクにいこうぜ。葉姉ってのはま〜、語感が良かったから?嫌だった?嫌なら止めるけど」

 

「い、嫌ではないですよ、ちょっと驚いただけで」

 

「あはは!敬語もやめやめ。私らに敬語使うやつはほとんどいないし!言ったろ〜?フランクに!」

 

「はい!あ、違うか…………うん!」


 このやり取りをもって、漸く葉のエインスカイでの暮らしが幕を開けたのだ。

 

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