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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 10 『凍結の魔人』

 僅かな光も届かない地下室。乱雑に落ちた紙、本、ファイル。決して広くは無いその部屋に、花の匂いが満ちていた。部屋の中央には縛られたまま寝転がる老人。老人を中心に白い線が円が書かれている。円の外側には椅子に寄りかかり、チョコ菓子を咥える男。

 

 男の名はベルク=ジャック。好きな物は殺人、人の真似、迷イ人の語る殺人鬼の話。かの『切り裂きジャック』など憧れの最高地点だ。今も老人を眺めながら、どこから切るのが一番キレイに断面が見えるかを考え、思わず涎が垂れそうになる。


「ったくさぁ〜、ギルドーのやつも酷いよな。三度の飯より殺人を掲げるオレに向かって監視しろってぇ〜。餌だけぶら下げて走れってか。馬じゃねぇっての」


 どう思うよジジイ。と、不服など一切感じない笑顔で老人をみる。

 老人はよろよろと顔を上げ、何かを訴えるように男を睨んだ。


「あっは!なにぃ〜?飯の時間はもう過ぎたぜおじいちゃ〜ん」


 この老人と部屋にこもってそろそろ1週間。想定通りではあるので、水も食料も予め用意はしてある。しかし、にしてもだ。日の当たらない所に何日もいれば、正常な人間は耐えられない。


「もーむり。耐えらんねぇ〜」


 ベルクは「少しくらい大丈夫でしょ〜、外の空気吸ってこよ」などと言いながら部屋を出た。扉の先には天へと伸びる真っ暗な階段。天と言えども、ここが地下なので目指すは地上に過ぎないが。少し登った先、正しく天界のような光が差し込んだ。


「うぉっ、眩しっ」


 思わず目を細めるベルク。その頭には疑問が浮かぶ。ここは階段ごと隠された部屋のはず。誰かが隠し扉を見つけない限り光が差し込むことなどない。

 白飛びするほど強烈な光の中に人一人分のシルエットが見えた。剣のような長いものを肩にかけて立っている。


 「おいおいマジかよ、ありえねぇだろ」


 少し低いが、女の声が聞こえた。だんだんと目が慣れてくる。ベルクの脳がようやくそれを認識した。長い白髪に青眼の少女、出刃包丁のような形の氷色の剣。

 ベルクの口角が上がる。


(マジかよマジか!退屈だと思ってたけど飛んだサプライズだぜ!)


 そして、同時に冷や汗も浮かぶ。本能でわかる、これは敵対するべきでは無いと。しかし、それで止まるなら殺人鬼になど憧れない。


「護リ人のシアン=ディアスタシアがお出ましとは!!」


 ベルクが両腕を広げ、歓喜を叫んだ。光の中から、氷が割れるような殺気と声が届く。彼女は、笑っていた。


「はっ!声がでけぇのは結構だがよ。人様の家のこんなとこまで入り込んでるとか、ちょっと礼儀がなってないんじゃねぇの」

 

 ☆。.:*

 

 ――時は数分前に遡る。

 

「血を飲めだ?何があってもそれだけは聞かないぜ。爺さんとの約束でよ。用量用法を守って正しく飲みましょうってな」


 血がべっとりと着いたナイフを適当に振り払い、折り畳むリュウガ。目の前には完全に事切れたクロウドらしきもの。


(にしても……本当によくできてやがる)

 

 肉を切った感触は確かなものだった。大嫌いな鉄の匂いも、己の嫌悪と反発するように浮かび上がる吸血衝動も。間違いなく人間のそれだ。ただひとつ違うといえばその血だ。確かに人間の血ではあるのだろう。しかし吸血鬼をルーツとするリュウガは騙せない。長年己を育てた男のものとは異なることくらい分かる。鉄臭さに混ざるクロウド固有の匂いが、彼にはわかった。

 さらに言うなら……保険をかけたかいがあったというもの。朝食前、迷子のライアを保護した時――


 『そうだリュウガ、お前気づいてるだろ』

 

 『なんの事だ』

 

 『あっはは!すっとぼけんなよ?私に嘘は効かないぜ?――――クロウド。あれ偽モンだろ』


 己が一番嘘をつくが故に、人の嘘偽りを見抜くライア。彼女の口から偽物だと断定されたなら間違いは無い。本人は基本的に信用できないが、その実力は確かなものだ。


「それで?うちの爺さんは何処にやったよ。聞こえてんだろ、人形師」


 リュウガは天井を向きながら声を発した。そこにいるかは確証がある訳では無いが、恐らく近いところにこの人形を操る者がいるだろう。


「…………お父様聞いて。私の人形、壊されちゃった」


 鈴が鳴るようなコロンとした女の声。続いてカシャンカャンと機械が動くような音が遠ざかる。暫くすると再び部屋は静寂に包まれた。


「早々に逃げやがった」


 まあいいだろう。種が割れた手品ショーにいつまでも立ち続けるには相当なメンタルがいる。これはあくまで防衛戦なのだから、敵が去ったなら御の字だ。

 

 血で汚れたベッドから目を逸らし、部屋を後にする。何処にいると聞いたものの、リュウガにはクロウドの居場所に心当たりがあった。異変を感じたこの一週間、何もしていなかったわけではない。大掃除と称して屋敷中を探し回ったのだ。ただ一部屋を除いて。

 リュウガは通信デバイスを取り出した。製作者が「壊滅的な機械音痴でも使える」と豪語していた代物だ。少なくとも一言くらいは伝えられるだろう、と希望する。

 ツーツーという音の後にピッと繋がった音がした。

 

「シアン聞こえるな?頼みがある」

 

『え?何?うわ何だこれ』

 

「デバイスについての説明は後だ。()()()触らずに聞いてくれ」


 無事繋がった。ここで壊されたらたまらないので語気を強めて補足する。

 向こうは随分騒がしい。どうやら未だ逃亡激を続けているらしい。シアンの体力なら確かに一日中でも走り回っていそうだ。

 

「恐らく爺さんは地下書庫にいる。救出を頼まれてはくれねぇか」

 

「あぁ、やっぱ偽モンだったか。つぅか何故、自分で行け…………ない理由があるんだな。わかった」

 

「頼む。アンタが一番適任なんだ」


 シアンも人形に気がづいていたらしい。恐らく確証はなかっただろうが。というより、シアンの場合、ライアが何かに気がづいたことに気がついたのだろう。

 彼女は一度断ろうとしたが、即座にリュウガが頼む理由を察し了承した。話が早いとこういう時にありがたい。

 地下書庫の場所、隠し扉の開き方を教え、デバイスを切る。


「さて、蓮夜の方に戻るか…………いや、魔法陣をどうにかするのが先か」


 常に万が一を考えて。シアンが負けるとは到底思えないが、クロウドに何かあるならそのリスクは少しでも減らしておきたい。

 すっかり静かになった廊下を歩き、転々と置かれた花に向かい合う。


 ☆。.:*

 

「んで?弁明くらいは聞いてやんよ、不審者」


 散々追いかけてきたマネキン集団は連絡の少し後に動きを変え、走り去っていった。これ幸いとリュウガに教えられた隠し扉を見つけたシアン。光から逃げるような真っ暗な階段を下ろうとしたが、その下、地下書庫の前に見知らぬ男がいる。人を見るなり両手を上げて喜びだす男に、(頭が可哀想だ)と哀れみを向けた。

 

 男が誰かはどうでもいい。重要なのは、彼が敵であるということ。部屋に戻られる前にまずは一撃……と思ったが狭すぎる。シアンの獲物は片手剣。それもかなり雑に振り回す自覚があるので、どう考えても物理的壁にぶち当たる。相手の出方が分からない以上、不利な状況でいるのは好ましくない。


(ダメだな、一旦外に出よう)


 ぐっと足に力を込め、黒く続く階段を飛び降りる。突然の行動に虚をつかれた男――ベルクの顔面を掴み、そのまま押し込んだ。自身の位置と、目的の位置を測る。空間が歪み、風を感じた。


「――――ッ!シアン?!」


 ベルク共々書庫へと突っ込むかと思われたシアン。しかし実際は屋敷の外へと飛び出した。丁度、戦闘中と思われるソラが驚愕の声を上げた。

 掴んだままの男を邪魔だとばかりに叩きつけ、着地。外とはいえ妙に強い風は、恐らく屋敷の反対側にいる蓮夜だろう。


「いってぇ〜、なんだぁ?外じゃねぇか。あれ、ガル坊がいる」


 突如切り替わった舞台に、ベルクの間抜けな顔が響いた。

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