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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 4 眠る辺境伯

「……なんでお前が知らないの」


 即座に返したのはソラだった。蓮夜を一瞥した後、再び菓子を食いながら呆れたように肩をすくめている。

 続けてリザイアが口を開いた。彼女はクロウドの顔を真っすぐに見据えている。


「実は(わたくし)達もまだ知らされておりませんの。お爺様、戦力が要るとはどういうことでして?」


 言葉こそ発さないもののシャナも懐疑的な視線を向ける。この場ほぼ全員の視線を受けるクロウド。しかし彼は手を顎に当て、目を閉じたまま何も答えない。言葉を選んでいるのか、言えない何かがあるのか。痺れを切らしたシアンが返答を促そうと口を開く。その時、クロウドの隣から盛大なため息が聞こえた。


「仕方ねえ、爺さんの代わりにオレが説明するか」


 リュウガだ。彼は椅子に寄りかかったまま「前提として――」と語り始めた。


「三馬鹿は知ってるだろうがこいつ、蓮夜はフィブルっつー、ヴァツルナ大陸の組織に狙われてる。魔法以外の異能を使うからだろうな」

 

 彼は葉という事情の知らない人間がいることに配慮したらしく、蓮夜の狙われる理由から始めた。「ヴァツルナ……」と聞き馴染みのない単語を反芻する葉に、シアンが補足を入れた。


「ヴァツルナ大陸ってのは、私達が最初にあった場所だ。んで、ここはミズガルディア大陸。別に覚えなくても死なないから大丈夫」

 

「そういう問題かな…………」


 一応納得した葉を見て、リュウガは続ける。


「割とちょくちょく仕掛けては来てたんだが、オレや爺さん、お嬢様たちだけでも追い返せるくらいだったんだ。勿論、蓮夜本人も十分強いしな」


 急に褒められた蓮夜が照れたように頭をかいた。

 ここまでの説明はなんら変わらない、普段通りのいざこざだ。問題はここからだろう。何故スザクを、軍の一隊長を呼ぶまでに至ったのか。シアンは甘ったるい菓子を食べるのを止めないまま、様々な仮説を立てていた。


「ただまあ、今回は少し変だった」


 リュウガはカップに口をつけ、ひと呼吸置いた。そして未だ目を開けないクロウドを一瞬見つめ、すぐに目を逸らした。


「間違いなく気配はした。それも複数。オレも感じたし、蓮夜本人も気づいてる。だろ?」

 

「ッス。確かにここ数日妙な風の流れがするんスよ。あと、変な音も………………あ!だからじいちゃん人を呼んだんスか?!」

 

「ここまで言って漸く気づくのか」


 鈍すぎる蓮夜にまたもソラがツッコミを入れた。リュウガは額に手を当て、呆れている。対してシアンは「待って……聞くんじゃなかった……」と後悔していた。話だけ聞けばただのホラーである。ライアが苦笑いでシアンの背をさすり、葉は心配そうな顔をしている。


「……言われてみれば、ここ何回か庭のトラップが発動した跡がありましたわね。てっきり野生動物かと思っていましたわ。シャナはいかが?なにか気づいたことありまして?」

 

「うん。言われてみれば………………遠くから見てる何かはいる。今もそう」


 思い出したようにリザイアが顔を上げた。シャナもそれに続くが、「今も」という言葉にリザイアと蓮夜が警戒体制をとった。それに慌ててシャナが補足した。


「でも、何も出来ないと思う。ホントのホントにすごく遠いから。多分わたしが弓を射っても届くか怪しいくらい」


 シャナは視覚と言うよりも魔力の感知に優れている。エインスカイの人間にとって魔力=生命力でもあるため、例えるなら赤外線センサーのような働きができる。

 そして、シャナの恐ろしいのはその範囲の広さだ。一般であればはっきり形まで見えるのは数十メートル。しかし本人曰く、シャナの射程範囲は一般の人間が見える範囲ギリギリの端まで。要は遠くに見える山などもその内だ。

 シアンはあまり見た事がないが、その範囲内であれば自身の魔力矢を届かせることもできるという。


「とまあ、こんな感じで異変はあるんだが何もしてこないってのが不気味でな。多分爺さんはそれを警戒して軍に要請を入れたんだろうぜ、違うか?…………YESかNOかくらい言えよ爺さん」


 クロウドは深い呼吸と共にぼんやりと目を開けた。その目は少し焦点があっていないようにも見える。


「うん、ああ、その通りだ。概ねそれで合っているよ」


 声にも先程までの覇気がない。眠いのだろうか、呼吸も深いようで、また目が閉じかけている。


「じいちゃん?じいちゃん眠いんスか?部屋戻る?」


 蓮夜が心配そうに声をかけたが既に返事は返ってこなかった。代わりにゆったりとした呼吸の音が聞こえてくる。寝たようだ。


「っあ〜〜、すまん。最近多いんだ。こう、さっきまで元気だったのに、気づいたら寝てることが。診た感じ病気とかでは無いと思うんだが…………なぁ」


 リュウガにしては珍しく、何とも煮え切らない反応だ。シアンがライアを見ると、彼女は彼女で珍しく睨みつけるような目をしていた。それがクロウドの容体に向けられたものなのか、リュウガに向けられたものなのかはわからない。その違和感は極わずかで、気づいたのも常日頃から隣にいるシアンだけだった。

 

「オレは一度爺さんを部屋まで運んでくるから、なんか普通に話しててくれ」


 リュウガが蓮夜の手を借りてクロウドを背負い、部屋を出た。残された一同に再びきまずい静寂が広がった。


 ☆

 

 リュウガが部屋を出て数分後。「そういえば」とぽつりと声を上げたのは、天井を眺めてぼんやりしていたライアだった。その視線は今、葉を向いている。


「葉姉ってエインスカイ来てから日本人に会うの初めてじゃね?誰かに会った?」


 唐突な問いに、葉はほんの少し考えてから首を傾げた。

 

「うーん。正直誰がどこ出身かあんまり。多分今日が初だと思うけど…………あれ?スザク先生は?」

 

「あれは日本に近い文化の別の世界だからノーカン。ちゃんと聞けばわかるけど、全然違うと思うぜ」


 ライアが頬を掻きながらそう言った。

 たしかに――と、シアンも心の中でうなずいた。記憶が確かなら、葉が世話になっている四番(カノ)隊には、日本出身者はいなかったはずだ。

 スザクは名前こそ()()()()()が、実際は「オレンジ」という大陸の辺境の出身だと語っていた。しかも、エインスカイに来たばかりの彼は「海」という概念を言葉さえも知らなかった。この時点で、葉と同郷とはまず考えられない。

 すると、部屋の隅で話を聞いていた蓮夜が、驚いたように目を丸くした。

 

「え?葉さんこっちで日本人に会うの初めてなんスか?海斗先輩たちは?」

 

「あいつら今出張、旅、エトセトラ」

 

「あぁ……なるほど」


 蓮夜は「間が悪かったんスね〜」とぼやいた。

 そんな彼に葉がおずおずと問いかける。

 

「その、伊猟さんは……」

 

「蓮夜でいいっスよ。苗字は慣れないし。あとリザイアたちと同年なら俺の方が下なんで!」

 

 「ここまでこのハイスピード・ハイテンションで話していて、今更年功序列を気にするのか」と思うシアン。それに気づいたソラが「黙っていろ」と目で制した。

 その隣で葉が改めて質問を続ける。


「蓮夜くんは、日本人なの?」

 

「その通りッスけど、多分葉さんのいたとことは違うと思うっス」

 

 そう前置きしたあと、蓮夜はどこか遠いものを見るように天井を見上げた。

 

「俺のいた世界には妖怪とか悪霊とか、まぁとにかく悪鬼羅刹、跳梁跋扈だったっスね。まー、一般的には噂とか眉唾な怪談くらいにしか思われてないっスけど、俺ん家みたいな一部の家系は関わり多いんでそこらにうようよしてたのをよく覚えてるッス」

 

「実際、蓮夜の戦い方は魔法とは全く異なるものですわ。なんだったかしら、妖術?」

 

「そうっスそうっス!ちゃんと覚えててくれて嬉しいっスよ、リザ!」


 ぱあっと顔を明るくする蓮夜の様子に、リザイアは「そんなに素直に喜ばれるとむず痒いですわね」と顔を赤くして目を逸らした。隣のシャナがニヤついている。

 その様子を横目に、シアンは甘いものが苦手なライアから菓子を受け取った。ひとまず、緊張の糸は少しだけ緩んでいる。


「待たせて悪い」

 

 そこへ席を外していたリュウガが戻ってきた。


「爺さんから伝言だ、『今日はもう遅い、奴らが来るにしても明日以降でしょう。皆様今夜はここで泊まられては?』…………だとよ。オレも賛成だ。流石のお前らでも夜暗い中天使だらけの草原を走るのは大変だろ。主にソラが」

 

「その通り!」

 

 ソラが強く頷き、「天使なんて屁でもないですが」と言いたげな双子を睨みつけた。唯一の運転手には逆らえなかった。

 

「じゃあリュウガ、お言葉に甘えさせてもらうな」

 

「「サンキュー」」

 

「お、お世話になります!」


 投げやりな双子と、ガチガチに緊張した葉。あまりに対照的だ。

  お泊まり会と聞いたシャナが、ガシッと葉の腕を掴んだ。お嬢様とは思えぬ強引さ。その顔は全面に「お泊まり会楽しみです!」と書いてある。

 

「うん。葉と双子はこっち。わたし達が使ってる部屋の近くが空いてるよ」

 

「じゃあ後で、夕飯近くなったら連絡寄越すわ」

 

「はいはーい。あ、そうだリュウガ」


 シャナとリュウガの案内に緩い返事をするライア。その後、珍しくリュウガを名で呼んだ。その顔は既にいつも通りに笑っていた。

 

「お前、後で話がある」

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