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第3章 ヴォルペレスの街(2)



 ドリュウルに続いて階段をあがりながら、改めてキヒュームはドリュウルの親戚の家を見回す。広いには広い。自分のスペースも持てそうではある。けれど、壁で囲われていない開放された空間は、個人を守ってはくれない。必ず誰かの気配や視線を近くに感じてしまうのだ。もし、一生この家で過ごさなければいけないとしたら、かなり息苦しいだろうとキヒュームですら思う。ドリュウルもそうなんじゃないだろうか。大雑把でガサツなだけれど、ドリュウルだって年頃の女の子だ。こんな大っぴらな空間では心身ともに休まないのではないだろうか。だから、盆暮正月くらいにしかここに帰らない……。


「おーい、みんなー、ゴンニアの娘、ドリュウルが帰ってきたよ」


 先陣を行くドリュウルが暗闇に向かって声をかける。フッと再び炎の息を吐いた。それと同時に、例の如く、階段周りも、二階も蝋燭の柔らかい光に照らされた。


「こんなときに、嘘だろう?」


 ドリュウルが声を上げる。キヒュームたちは階段を上り切り、その意味を知った。


 十人の大きなドラゴンが布団に包まれ、寝息を立てていたのだ。正確に言えば、彼らは床に古来のどこかの国で使われてたという床敷布団を敷き、雑魚寝をしていた。


 活火山に雪が降るという異常事態に、どうして。


 思わず声をあげそうになった。そうしなかったのは、全く同じことをドリュウルが呟き、自分の親戚の体を揺すり起こそうとし始めたからだ。


「ちょいと、起きなよ。なんでこんな時に寝てんだい。嘘だろう? 婆さん、伯父さん、リュウズ、コズマノ……。起きなって。起きなさいって。……誰も起きないじゃないかい。一体どうなってんだい」


 ドリュウルが屈めていた腰を持ち上げ、頭を抱える。


 スヤスヤと寝ているドリュウルの親戚は、とても穏やかな寝顔をしていた。十人がまとめて寝っ転がっている姿は、壮観だった。肩幅も腰回りもしっかりしている彼らは、人間族と比べるとあまりにでかい。感動を覚えるくらいでかい。ドラガンシア族と肉体競技で争おうものなら、コテンパンにやられてしまうだろう。


 ドリュウルと同じ赤い髪と、これまたドリュウルと同じ鱗のような腕や足の皮膚が蝋燭の光に当てられ、チラチラと輝いて見える。


 キヒュームたち三人はどうしたものかと無言のまま、彼らを見つめていた。ドリュウルだけが、腰を下ろし、耳元で叫んだり、彼らの背中を揺っている。


「やっぱりダメだ。起きる気配ゼロ」


「……もしかしたら、冬眠してるのかもしれないね」


 ラクビースの言葉に、寝室内が静まり返った。


「なるほど……。冬眠か、ありえるな」


「ありえるって、一体どういうことだよ、ドリュウル」


「ドラゴンは冬眠するんだ……」


 尋ねたキヒュームは息を呑んだ。


「アタシを含めたドラゴンシア族はずっと寒さを知らないこの活火山に住んでいたから忘れていた。だけど、きっとこの急激な寒さで、この街のみんなは眠りについてしまったんだよ……」


 困惑した眼だった。このままここにいれば、自分自身も眠りに落ちてしまうかもしれないという事実に怯えた眼でもあった。その影はラクビースの眼にも翳っている。


「着る物を借りよう。それでいち早く、ここを拠点にしているクルダマオ族を倒して、ここを出よう」


 どんよりとした空気を破るために、キヒュームはわざとドリュウルよりも前に歩み出て、着る物を探すようにキョロキョロとしてみた。ラクビースのように、うまくみんなを誘導できないけれど、それでも空気を変えることはできる。


「そうです。このままじゃ、ドラガンシア族の皆様、一生寝続けてしまいます。わたくしたちの力で、皆様を解放して差し上げましょう」


 アイレーンの言葉が続いた。四人は頷き合い、何か暖を取れそうな物を探す。けれど、活火山であるこの地には、毛布もコートもダウンも何一つなかった。


「ごめんね。何も役に立てそうなものはなさそうだ」


 鱗に覆われておらず、顕になっている肩のあたりをさすりながら、ドリュウルは言った。


「しょうがないよ。ドリュウルの家族は旅行でもヴォルペレスから出ないんだろ? 他を当たろう」


「他をあたるって、キヒュームくん、何か当てはあるのかい? この感じだと、この街にいるドラガンシア族全員が寝てると思うんだけど」


「……そうだろうな。だけど、ヴォルペレスの人たちだって、冬であれば雪も降るランダミグマやマレタラッタに旅行に行くことだってあると思うんだ」


「だから?」


「だから、数は少ないだろうけど商店にはいくつかコートやらなんやらは売ってるんじゃないか?」


「つまり、商店でお買い物しようってことですね? ですけど、商店の店主さんも今は冬眠中なのでは……」


 アイレーンの語尾が萎れていく。本気で心配しているのだ。


「うん。そうだろうね。だから、堂々と温かい服を借りようと思う。もちろん、置き手紙と代金を置いてね。一応、俺たちの働きは全面的に国がサポートしてくれていることになっている。それなら、俺たちが泥棒だと疑われたとしても、国が弁明してくれて、容疑はすぐに晴れると思うんだ」


 我ながら底の浅い考えだと思うが、今はこれ以上の案が何一つ思い浮かばない。置き手紙を置く、お金を置く、そして、国に協力してもらう……、それが最善な気がするのだ。


「あぁ、そうだね。小さい街だ。ここの住民たちは、アタシにとってみんな親戚みたいなもんさ。アタシの一言があればきっと何も言ってこないだろうよ。それにクルダマオ族を倒すためという大義名分があるんだから、誰もアタシたちを責めはしないだろうよ」


「よし、じゃあ善は急げだ。ドリュウルさん、暖かい服が売ってそうなお店に心当たりはないかい?」


 ラクビースがドリュウルの言葉を受け、体をグッと伸ばし、勇ましい青年の顔つきに変えた。


「いい店がある。ついてきな」


 ドリュウルは身を翻し、階段を駆け降りた。まるで寒さなんてへでもないかのように外へ出ていく。


「行こう」


 残された三人は頷き合い、ドアの外へと出た。



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