呑気なランチタイム。血と硝煙を添えて
大体、サブタイ通り
ラリーが人数分のMREレーションをヒートパックで温めていると、今この場には居らぬジェーンを除いた2人が好奇心露わに興味深そうに見詰めて来た。
「何してんだ?」
ロダンが聞いて来ると、ラリーは答える。
「飯の支度をしてんのさ」
「コレが飯なのか?お前さんの居る世界は変わってんだな」
そう漏らしたロダンに引っ掛かるモノを覚えたのだろう。
ラリーは遠回しに尋ねた。
「アンタは色々と知ってる様だな」
「なーに、お前さんが神様連中が正式に降り立たせた勇者だってのを知ってる程度さ」
その言葉にビアーヌが驚きを露わにラリーとロダン。双方を見ると、勇者と言われたラリーは冗談は止せと言わんばかりに問い返した。
「俺の何処が勇者に見えるんだよ?」
その問いにロダンは皮肉交じりの笑みを浮かべて答える。
「ブッチャケ、勇者ってよりは刺客や暗殺にしか見えないな」
そんなロダンを他所にビアーヌはラリーに尋ねる。
「マイケルさんは勇者なのですか?」
ビアーヌの問いに対し、ラリーはウンザリとした様子で問い返した。
「そんな訳ないだろ?君も俺が勇者に見えるのか?」
命の恩人でもあるラリーの問いにビアーヌは申し訳無さそうにしながら正直に答える。
「いいえ、ロダンさんの言う様に刺客や暗殺を生業にしてる者にしか見えません」
「俺は正直な人、好きだよ」
本心からそう答えたラリーにロダンは他人事の様に笑みを浮かべながら問う。
「だけどよ、城のアホ共が召喚した勇者と名ばかりの邪悪な者達をお前さんは殺すんだろ?なら、勇者と変わらねぇんじゃねぇか?」
ロダンから見れば、勇者とは名ばかりの邪悪で強大な力を持つ者達を殺さんとするラリーは勇者と言っても過言ではなかった。
だが、ラリーにすれば「ふざけんな」の一言に尽きる。
「そんな訳あるか。俺は仕事で連中を始末するだけ……誰かを救いたいとか高尚な感情は持ってねぇよ」
「なら、何の為に連中を殺し回るんだ?」
「単純さ。カネの為だ」
嘘は言ってない。
この仕事を成功させれば、ラリーはブルーから2000万の米ドルという大金を獲る事が出来る。
まぁ、それ以外にも大物であるブルーと元カノであるソフィアとの間にある借りを帳消しにする為もあるが……
何れにしろ、ロダンとビアーヌには関係の無い話だ。
そんなラリーにロダンは好奇心から尋ねる。
「お前さん、道を踏み外さなけりゃ良い所の兵隊さんしてたんだろうな?」
「道を踏み外した覚えはないんだが……気が付いたらロクデナシをしてたんだ」
素っ気無く返したラリーはMREレーションが温まるまでの間。手持ち無沙汰となってしまった。
だが、手持ち無沙汰となった時間は考え事をするのに都合が良かった。
ジェーンが薄汚い裏切者を始末してくれれば良いが、失敗した時はどうなる?
裏切者が俺の行動を知らずに居る。それだけでも御の字と考えとくべきとして、裏切者が1人じゃなくて複数居たら?
それ以前にジェーンの上司自体が裏切者だったら?
一番最悪な展開が思い浮かぶと、ラリーはゲンナリとしてしまう。
実際問題として、裏切者が1人だけならば未だ良い。
しかし、複数居る可能性も踏まえなければならないのが、この商売の辛い所だ。
その裏切者以外にも裏切者が居たとしよう。で、ジェーンの上司が裏切者だった場合はラリーの行動はジェーンを介して筒抜けとなるのは明らかであろう。
それ故にラリーはゲンナリとしながら考えてしまう。
俺の目と手が届く先に居るんなら、ブチ殺せば済むだけの話だ。
だが、生憎とそうじゃない。
だから、ムカつく事に手の打ち様が無いのが現状……その場合はどうするべきだ?
最悪、依頼放棄も念頭に入れた方が良いなコリャ……
ウンザリとした様子で溜息を漏らすと、ラリーはそうならないと解りながらも都合の良い展開に進んだ場合の事を考え始めた。気分転換も兼ねて……
裏切者がその1人で済んだと仮定しよう。
内通してる裏切者からの情報を獲られなくなった標的であるクサナギは、どう動く?
奴にすれば、自分を殺そうとする厄介な暗殺者を王都から遠ざける事に成功しているのが現状。
その後は目的の"何か"が地下にある王城に残りながら、目的の"何か"へ向けて歩を進める。
だが、同時に俺という不安要素排除も進めると見るべきだろう……
その際、自分の駒となってる他の勇者達を差し向けて来る。と、見るべきか?
そうだとするなら、奴の戦力を減らす事が出来ると同時に王城の護りを削れる。
そうじゃないなら、俺はガチガチに護りを固めた王城へカチコミ掛ける羽目になる訳だが……
其処まで考えを巡らせると、ラリーはまたもゲンナリとした様子でボヤいてしまう。
「マージで出たとこ勝負になっちまったな……」
「出たとこ勝負って大丈夫なのか?」
ロダンに問われると、ラリーはシニカルな愛想笑いを浮かべながら答えた。
「どんな展開であれ、やるしか無いんだよなぁ……」
そんな不安を誘う言葉を放てば、ビアーヌは心配そうにラリーを見詰めてしまう。
だが、直ぐにラリーは何も無かった様に振る舞った。
「そろそろ温まるから適当に食ってくれ」
そう告げると、ラリーは2人に対して食べ方を自衛隊の助教の如く見せた。
そんなラリーの様子に大丈夫なのか?と、不安そうに見ながらもパウチの切り口から匂い立つ美味しそうな匂いと言う誘惑と空腹に負けたのだろう。
2人はスプーンを手にすると、ラリーの見様見真似で温かいパウチの封を切って食べ始める。
「美味いなこりゃ」
「美味しい……」
2人が美味いと漏らすと、ラリーは「空腹は最高の調味料ってハッキリ分かんだな」そう他人事の様に漏らしてから食べ続けた。
暫くして食事を済ませると、ラリーはゴミを纏めていく。
程なくして集め終えると、折り畳み式のシャベルを手にするなり、離れた所に穴を掘り始めた。
少しばかり深めの穴を掘り終えると、ラリーは其処に纏めたゴミを放り込んでから土を被せる様にして埋めていく。
ゴミを埋めて痕跡を消し終えると、ラリーは2人の元に戻ろうと踵を返した。
だが、ラリーは何故か足を進めようとせず、その場に伏せるなりシャベルを脇に置くやMP7を手に取ってサプレッサーを取り付け始める。
サプレッサーを取り付け終えたラリーは音を立てぬ様に静かにセレクターをセミオートに合わせると、来た方向とは反対側へと静かに這って進んで行く。
そんなラリーの姿を捉えて居たスナイパー気取りの勇者は舌打ちと共に悪態を吐いた。
「チッ!さっさと引き金引けば良かったぜ!」
スコープ付きのライフルをしゃがみ撃ちの姿勢で構えていたスナイパー気取りの勇者……佐久間 優輝が悪態を漏らすと、一緒に居た柴田 和樹は宥める。
「まぁまぁ、落ち着いて。此方に気付いた訳じゃないんでしょ?なら、待ってれば直ぐに現れるって」
「だよな!」
2人は楽観的な様子であった。
そんな2人が何故、此処に居るのか?
答えは単純。
例のクサナギから自分達を殺さんと、神から差し向けられた殺し屋が逃げた事を位置と銃を持ってる事も含めて聞かされたからに他ならない。
2人はミリタリーと銃が好きな手合いだったからこそ、馬車に乗って直ぐに来た。
標的であるラリーの持つであろう銃器を初めとした品々を奪う為に。
話を戻そう
暫く経っても佐久間と柴田の2人はラリーの姿が一向に見当たらない事に業を煮やしたのだろう。
佐久間と柴田は、ラリーと共に居た2人の連れの方をスコープを介して見始めた。
「あの2人を撃てば出て来るんじゃね?」
柴田が提案する様に言うと、佐久間はノリノリで応じた。
「良いな。それ……早速殺ろう♡」
その言葉と共にスコープを覗き直した佐久間はレティクルをビアーヌの胸に合わせると、興奮混じりの息遣いと共に引金に掛けた人差し指に力を込めようとする。
だが、それよりも速く。
佐久間の頭が、何の前触れも無く飛んできた1発の4.6ミリ弾によって貫かれた。
「え?」
柴田は隣で自分の作ったスコープ付きのライフルを構えたままドサッと崩れ落ち、脳味噌を辺りにブチ撒けたまま動かなくなった親友の姿に無意識にも間抜けな声を漏らしてしまう。
だが、直ぐに自分の置かれた状況に気付いたのだろう。
柴田は慌ててその場に伏せると、辺りをブンブンと首が千切れんばかりの勢いで見廻していく。
「何処からだよ!?何処から撃ったんだよ!?」
必死な形相でこんな筈じゃなかった。そう叫ぶように喚き散らかす柴田に対し、答える代わりにいきなり脚が何かに引っ張られた。
「わッ!?」
驚きの声と共に何が起きたのか?知る為に見上げると、其処にはスコープの先に居た筈のラリーの姿と硝煙臭う銃口があった。
ソレを見るや、柴田は涙を浮かべながら懇願する様に言う。
「や、辞め……」
その言葉を遮るかの様に、静かな銃声が1発。放たれた
眉間を撃ち抜かれ、脳味噌を辺りにブチ撒ける柴田の死体を冷たい目と共に見下ろすと、ラリーは心底つまらなさそうな様子で2人だった肉塊の顔写真をスマートフォンに収めてから踵を返してその場を後にする。
突如遠くから漂って来た微かな死臭に2人は辺りを見廻して警戒すると、2人の元へ戻ったラリーは開口一番に告げる。
「急いで移動するぞ。敵に此処がバレた」
ラリーから告げられた瞬間。
2人は即座に立ち上がると、ラリーと共に移動を始めた。
暫く。時間にして30分ほど歩みを進めた頃。
突然、背後から強烈な死臭が何故か漂って来た。
そんな異様な状況にラリー達は即座に足を停めると、背後を振り返って見廻していく。
「死体の臭いがするのに見当たらない?」
ビアーヌが首を傾げながら漏らすと、何かに気付いた様子のロダンが血相を変えてラリー達へ大声で告げた。
「アンデッドじゃ!!此処まで強烈に臭いが漂うっちゅう事は10や20じゃない。恐らく、100体以上は居る筈じゃ!!」
ロダンの言葉にビアーヌは顔を青褪めさせてしまう。
だが、ラリーは涼しい顔で尋ねた。
「アンデッドってのは歩く腐った死体って事か?」
「そうじゃ!じゃが、普通ならば100ものアンデッドが発生するなんて滅多に無い事じゃぞ」
この世界に生き、様々な事を知る者でもあるロダンが不信感を露わにあり得ない。そう答えれば、ラリーは確信を覚えると共に尋ねる。
「その腐った死体を操る事って可能か?」
「コレだけの数のアンデッドを操るなんざ、相当高位のネクロマンサーでもない限りは不可能じゃぞ」
ロダンの答えで完全に確信を得たラリーは溜息を漏らすと、笑みを浮かべた。
そんなラリーに恐れを抱きながらもビアーヌは尋ねる。
「何で嗤ってるんですか?」
「あ、嗤ってた俺?」
その問いにビアーヌが肯定する様に恐る恐る頷けば、ラリーは呑気な様子で答えた。
「いやさぁ……俺にとっては都合の良い展開になってくれたからさぁ」
未だ見ぬ本命の標的であるクサナギは、ラリーを最大の脅威と見做してくれていた。
その証拠に2人の駒を殺された後、間髪入れずにこうしてまた駒を差し向けて来た。
ラリーにとって、実に好都合な展開であった。
本気で俺を殺りたいんなら、最大の戦力を投入すべきだ。
それなのに、戦力小出しにして各個撃破されまくったら本末転倒だぜ?
実に好都合な展開になってくれた事に嗤うラリーに向け、ロダンは驚いた様子で問うた。
「まさか、アンデッド共をあの勇者共が操っとるっちゅう事か!?」
その一言でビアーヌが益々顔を青褪めさせてしまうが、ラリーは気にする事無く肯定する。
「そう言う事だ。俺はアンデッド共を操ってる勇者を殺しに行く。すまんが、お宅等は先に逃げといてくれ……足手纏いは御免なんでな」
ラリーから冷たく言い放たれると、ロダンは素直に見送る事にした。
「死ぬんじゃないぞ。お前さんには店と酒の弁償して貰わなきゃならんのじゃからな……」
ロダンから遠回しに「生きて帰って来い」そう告げられると、ラリーはシニカルな笑みと共に感謝した。
「アガる言葉、ありがとよ」
顔を青褪めさせてたビアーヌからも「生きて帰ってこい」と、言われた。
「私をシェルドンに送る契約果たしてないんですから、死なないで下さいね?」
「益々アガるな」
そう返すと、ラリーはロダンからトランクを受け取ってから走り去るのであった。




