トラブル
4人を殺害してから約10時間近くが経過し、夜が明けて朝が訪れて暫く経った頃。
市場も開き始め、王都は活気を見せ始めた頃。
現地の装いとも言える姿のラリーはジェーンと共に何食わぬ顔で王都の人々の中に溶け込み、歩みを進めて居た。
歩みを進めて行く内に1件の酒場が目に留まると、ジェーンは告げる。
「この酒場よ」
ジェーンから告げられると、ラリーは迷う事なく赤い布切れを看板代わりに垂らす酒場へと足を踏み入れた。
店の中は未だ開店準備中だからなのか?薄暗く、客の姿は未だ無かった。
そんな中で静かにモップ掛けしていた小柄な中年の男。もとい、ドワーフはラリーとジェーンに気付くと、モップ掛けをしながら面倒臭そうな様子で言う。
「悪いが見ての通り、未だやってねぇよ……昼頃来てくれ」
そう告げられると、ジェーンはドワーフのオヤジに向けて告げた。
「使者は天と地の狭間にて血の旗を翻す」
ソレを聞いた瞬間。
オヤジの手は止まり、慌てた様子で顔を向けて来る。
オヤジがジェーンの顔を見て驚きを露わにすると、ジェーンは優しげな笑みを向けて更に語り掛ける。
「久しぶりね。ロダン」
「あぁ、600年を久しぶりと言うならな……」
ロダンと呼ばれたドワーフは何処か嬉しそうな様子でジェーンに返すと、静かに2人の遣り取りを眺めていたラリーの方を見始めた。
一頻り見ると、ロダンはジェーンに尋ねる。
「彼は余所者みたいだが、どう言う事情なんだ?」
「今回の件を解決させる為に喚んだ専門家よ」
ジェーンの答えで得心がいったのだろう。
ロダンは納得した様子でカウンター席に座るように促して来た。
「王家の連中が勇者召喚した件か……立ち話もなんだし、一杯やりながら話そう」
その言葉と共に2人がカウンター席に座ると、ロダンはモップを放ってカウンターの奥へ赴いた。
それから2人にタップリのエールが入った陶器製のジョッキを振る舞うと、早速と言わんばかりに語っていく。
「連中……王家が勇者召喚したのは1ヶ月と半月前だ。元々は周辺諸国からの不平等な取引を撤廃させる為の軍事力として勇者達を隷属させるつもりだったが、ソレはお宅等も知っての通り、失敗してこの国は勇者達に乗っ取られた」
ソレを聞くと、ラリーは質問を投げた。
「王は生きてるのか?」
「恐らくって言葉が付くが、生きてる。表向き、兵隊共は王の命令を受けて行動してる形だ。それにヤバくなった際に犯した罪を全て擦り付ける先が必要なのも踏まえれば、殺す理由は無い……違うかい?」
ロダンが詳しく語れば、ラリーは「そりゃそうだ」と、納得した。
納得した上で次の事を問うた。
「なら、その王を顎で使ってる奴は誰だ?」
核心とも言えるラリーの問いに対し、ロダンが答える事は無かった。
「悪いが流石に其処までは知らんぜ。確かなのは、中にいる1人の勇者達の誰か……ってぐらいしか言えんね」
「だと思った」
さも当然な様子で他人事の様に返すと、ラリーは別の事を尋ねる。
「地下水道の見取り図は手に入るか?」
「地下水道の見取り図?手に入るが、何するつもりだ?」
ロダンに問われるラリーであったが、ラリーは何も答えなかった。
沈黙を以て「答える気は無い」そう告げられたロダンは「まぁ、俺には関係無い話だな」と、納得した上で告げる。
「それなら今夜中には手に入る」
「ありがとう」
ラリーが感謝すると、ジェーンは尋ねる。
「地下水道から王城へ潜入するつもりですか?」
ジェーンに問われると、ラリーはエールを一口飲んでから答えた。
「他に方法が無いならな……まぁ、その前に街を見て廻って地形確認するがな」
潜入しての偵察であれ、攻撃であれ、何かを仕掛けるにしても先ずは地形を確認してどう逃げるか?ソレの算段を付ける必要があった。
それ故にラリーは手始めに地下水道の見取り図を欲したのだ。
そんなラリーを察したのか?ロダンは告げる。
「なら、この街の地図も用意してやるよ」
「助かる」
「さて、他に必要なモノはあるか?」
ロダンから問われると、ジェーンが答えた。
「王城内に伝手はあるの?」
「それなんだが、勇者達が国を奪った後、直ぐに間諜狩りをした様でな……城内に居た連中ばかりか、街に居た連中も含めて間諜達は"ほぼ"全員始末された」
ロダンが「どうやって割り出したのか?知らんけどな」そう締め括れば、ジェーンは察した上で問う。
「ほぼ?と、言う事は無事な奴も居るのね?」
「おう。ヤバいと察して間諜狩りが始まる前に逃げ出した奴が居る」
その答えを聞くと、ラリーは要求した。
「ソイツと話をさせてくれ」
情報を獲る
「良いが、条件がある」
「何だ?」
「ソイツは悪い事はしてないにも関わらず、今じゃ御尋ね者になっちまっててな……直ぐにでも国から逃げなきゃならん」
ロダンの条件を聞くと、ラリーは呆れ混じりに「スパイ行為しといて何が悪い事はしてないだ」そうボヤきながらも条件を呑んだ。
「良いだろう。国外逃亡させてやる」
条件を呑んだラリーに対し、ロダンは釘を刺すように要求する。
「だからって殺すのは辞めてくれよ?アンタは用が済んだら、ソイツを黙らせる為に殺しそうな手合いにしか見えん」
ロダンから言われると、ラリーは心外そうにしながらジェーンに尋ねる。
「俺、其処までロクデナシに見えるか?」
「残念ながら」
ジェーンが肯定で返すと、ラリーは少しだけ不快そうにしながら「畜生……責めたくても俺の顔しか浮かばねぇ」そうボヤいてからロダンに尋ねた。
「ソイツを何処に送り届ければ良いんだ?」
この国の外へ送り届けるにしても、どの国へ送るのか?解らなければ、送りようが無い。
それ故に問えば、ロダンは直ぐに答えてくれた。
「ジェルドンだ」
「何処だよ?」
地球上ならば、地理を把握している。
だが、此処は地球ではない。
その為、何処なのか?ラリーが解らずにボヤく様に問えば、ロダンに代わってジェーンが答えてくれた。
「此処から500キロ南西にある自由都市国家。貴方の世界で言う所の当時のヴェネチアみたいな所……と、言うべきかしら?」
「要は其処のスパイって訳か?」
「ソレはアンタが知らなくても良い事だ」
ロダンが答える気は無い。そう返せば、ラリーは納得した様子で返した。
「それもそうだ。だが、俺も仕事がある。だから申し訳無いが、国境越えた後は自分の足で行かせろ」
納得した上で、自分の都合を通そうとするラリーにロダンは其処が妥協点と理解して呑んでくれた。
「良いだろう。ソレで手を打とう」
こうして仕事上の擦り合わせが終わると、ラリーは早速と言わんばかりに要求する。
「なら、今から話をさせてくれ。今夜、逃がしてやるから……」
「そう言う事なら良いだろう。付いてきてくれ」
そう言うと、ロダンはカウンターから出てラリー達を案内し始めた。
そうして店の地下へ赴けば、潜伏生活の疲れから窶れた様子の女性の姿があった。
そんな女性の元へ案内が済むと、ロダンは開店準備をする為に来た道を戻って行った。
ラリーとジェーン。それに間諜である年配の女性だけになった所で、ラリーは自己紹介を始めた。
「俺はマイケル・アックス。彼女はジェーン・ドゥ……貴女の御名前は?」
偽名ながらも丁寧に自己紹介したラリーに対し、警戒心を露わにする女性は自分の名を名乗ると共に問う。
「私はビアーヌ。何の目的で私に会いに来たの?」
「目的は単純だ。貴女が城で知り得た情報を教えて貰いたい」
単刀直入に用件を告げると、彼女……ビアーヌはどうするべきか?決めあぐねてしまう。
そんな彼女を安心させる様にラリーは淡々と事実を告げ始めた。
「貴女が知った情報と引き換えに俺は貴女を国境越えさせる。それが彼と交わした契約だ。貴女が知り得た情報を俺に話したとしても、ソレは裏切り行為にはならない事を確約しても良い」
嘘は一切言っていない。
実際問題としてロダンの要求を呑んで、彼女を国境越えさせるのは決定事項。
更に言うならば、彼女が所属する組織または国家に対しても敵対行為をする気も毛頭無い。
しかし、ビアーヌはそれでもラリーを信用して良いのか?悩んでしまう。
そんな彼女にラリーは優しく語り掛けていく。
「貴女は優秀な間諜なのだろう。だからこそ、敢えて言わせて貰う……間諜は生きて情報を持ち帰る事こそ第一の任務だ。例え、情報が一月前のモノであったとしても、ソレは貴女の属する所にとっては必要不可欠な情報と言っても良いでしょう」
ラリーの語った言葉にビアーヌは揺れ始めた。
そんな彼女を察すると、ラリーは更に言葉を続ける。
「召喚された勇者達は危険過ぎる。そんな危険を俺が取り除いても良い」
「…………私の知ってる事は僅かでも?」
「些細な事でも構わない。貴女の知る事実は確実に俺のする事の一助になる」
ラリーが勇者達を殺す意思を真摯に見せれば、ビアーヌは意を決した様子で確認して来た。
「貴方のする事は勇者達の排除。その認識で良いのね?」
「俺が代わりに殺してやる」
改めて勇者達を殺す。
そう告げれば、ビアーヌは固く閉ざしていた口を開いてくれた。
「王達は勇者達に隷属の呪いが施された飾りを付けさせようとしたわ。でも、勇者達の1人がソレを看破し、反乱が起きて、王に隷属の首輪が取り付けられた」
「ソレが、勇者達がこの国を簒奪出来た理由なのですね?」
「そうよ」
「その看破した勇者が誰か?解りますか?」
ラリーの問いにビアーヌは申し訳無さそうな様子で首を横に振って答えた。
「御免なさい。解らないわ」
「では、その後の事を……」
続きを促すと、ビアーヌは語りを続けた。
「その後は元の世界へ戻れないと知った勇者達の一部。確か、5人だったわ……その5人は冒険者となって、元の世界へ帰る手段を捜す為に城を出たわ」
「その5人の中に肌が白く、髪も黒じゃない女は居たか?」
ラリーの問いにビアーヌは肯定する様に答える。
「居たわ。周りからはエレナと呼ばれていた」
元カノであるソフィアの娘であるエレナが冒険者となって他の4人と共に城を出た事を知ったラリーは、心の中で「流石はソフィーの娘だな」そう他人事の様にボヤきながらも聞き取り作業を続けた。
「話の腰を折ってすまない。話を戻そう……城を出た勇者達以外はどうなったんだ?」
「元の世界へ帰れないなら好きにするとなってたわ。その中に、全ての国を支配しようと考えた奴が居た。それに同調する勇者達も多く居たわ」
ビアーヌが勇者達の中に世界征服を目論んでる者が居る事と、世界征服に同調する者が多数居る事を聞かされたラリーは引っ掛かるモノを覚えながら尋ねる。
「世界征服を目論んだ奴が誰か?解るか?」
「確か……周りからトージョウと呼ばれていた男よ」
ビアーヌから聞かされた東條の名前がブルーの調べた生徒リストに入ってるのを脳内で照合すると、ラリーは次の事を尋ねた。
「なら、そのトージョウと呼ばれた男の補佐をしてる奴は?」
「クサナギと呼ばれてたわ。コイツも男よ」
その名前を聞くと、ラリーは口元に笑みを浮かべる。
クサナギ……コイツが本命だ。
そんなラリーの様子に気付いたのか?黙したままであったジェーンは、ビアーヌに聞かれぬ様に耳打ちで尋ねてきた。
「何が解ったの?」
問われたラリーはビアーヌに解らぬ様に英語で答えた。
「お宅にとって一番死んで欲しい奴の名前さ……」
その答えにジェーンが固まると、ラリーは気にする事無くビアーヌに尋ねる。
「貴女から見て、クサナギとトージョウ。どっちが上に見えた?」
「トージョウが偉そうに見えはしたけど、実質的にはクサナギが力を有してるように見えたわ」
その答えでラリーが完全に確信を覚えると、未だに分からずに居るジェーンが業を煮やした様に問うて来た。
「私にも解る様に説明して貰えないかしら?」
そんなジェーンにラリーは「後で話す」そう返すと、ビアーヌに感謝を述べた。
「ありがとう御座います。貴女の御蔭で知りたい事が解りました」
「こんなんで良かったの?」
「えぇ、俺にとって最高の情報でした。さて、申し訳無いのですが暫く待って戴きたい……今宵、契約通りに貴女をジェルドンまでお送り致しますので」
そう告げると、ラリーはジェーンと共に地下室を後にした。
再び酒場へと戻ってカウンター席に座ると、ラリーはモップ掛けをするロダンに告げる。
「予定変更だ。ジェルドンまで送ってやる」
「俺が言うのも何だが、良いのか?」
「彼女の持つ情報は最高だった。だから、俺も俺が支払える報酬として最高のモノを支払う気になった」
「なら、俺は文句無しだ」
その答えに気分を良くしたロダンが鼻歌混じりにモップ掛けをすると、ラリーはジェーンに約束通りに自分に見えたモノを語り始めた。
「此処へ向かう準備の合間、俺はブルーから提供された調査報告書に目を通した。その中には当然、召喚された一クラスの生徒名簿も含まれている」
「ソレがどう繋がるのですか?」
「ブルーから提供された生徒リストには33人しか載ってなかった。アンタは34人と言ったのにだ」
ラリーの語った内容にジェーンが驚きを露わにすると、ラリーは更に続ける。
「優秀な俺は当然の様に生徒リストを全て記憶してあるから、クサナギの名前がリストに無い事が直ぐに解った。だが、同時に問題が残りもした」
ラリーが最後に語った問題点を聞くと、ジェーンは益々解らない。と、言った様子で首を傾げてしまう。
「問題ですか?」
「そう。問題だ。ブルーから提供された調査報告書には前歴がデタラメと言わざる得ないのが4人居るんだが……その4人の正体が不明なままなんだ」
ブルーから提供された調査報告書に記された4人の正体不明な生徒達。
裏社会という巨大なピラミッドの頂点に座する男ですら、その正体が解らなかった4人の生徒達と言う疑問点をラリーが挙げれば、門外漢故にその意味が解らぬジェーンは素直に聞いた。
「と、言いますと?」
「過去の記録がデタラメであっても、地球の人間なら誰であっても割り出せる力と伝手を持った裏社会の王とも言える男でも調べられなかった存在が4人も居るって事だ」
其処まで聞けば、漸くジェーンも理解してくれた。
そんなジェーンにラリーは尋ねる。
「その4人はお宅が提供された書類では死んだ事になってるが、キチンと死体を確認したか?」
「私も報告として受けただけなので」
ジェーンの答えでラリーはある事を確信した。
確信したが故に強く要求する。
「なら、その報告した奴を今直ぐに拘束させろ。で、拷問でも何でもして吐かせろ……ソイツ等は何処に居るのか?を」
「解りました。これから、拘束に向かいます」
そう言ってジェーンが酒場を後にしようとすると、ラリーは呼び止めて尋ねた。
「待て!ソイツはお宅と俺が此処に居る事を知ってるのか?」
「私の上司しか知らない筈です」
その答えを聞いたラリーは嫌な予感を覚えてしまった。
「だとすると、不味いな……」
そう漏らした矢先。
外から慌ただしい足音が聞こえて来た。
その足音は段々近付いて来ると、酒場で止まった。
トラブルの気配を察したラリーは直ぐにポンチョの中に隠していた武器のセレクターをカチカチッと回し、セイフティからフルオートに合わせた。と、同時に酒場の扉が乱暴に開け放たれ、武装した衛兵達が雪崩込んで来た。
「全員その場を動くな!!」
衛兵達の長であろう兵が大声を挙げれば、ロダンは何も知らぬ演技を見せてくれた。
「兵隊さんが何の御用ですか?」
恐る恐ると言った様子で尋ねれば、大声を挙げた長であろう兵は要件を告げる。
「この店が間諜を匿い、更には王を殺さんとする他国からの刺客が来ていると通報を受けた故、改めさせて貰う!!」
ソレを聞いたロダンは「滅相もない!ウチに間諜も刺客も居ませんぜ!!」と、必死に弁明をする。
そんな様子を他人事の様に眺めていたラリーは諦めの気持ちを露わにすると、仕方無い。
そう言わんばかりの様子で立ち上がったラリーはコンパクトながらも殺傷力抜群なサブマシンガン……H&kのMP7を抜いて露わにするなり、間髪入れる事無く衛兵達へ向けて引き金を引くのであった。
x年ぶりにBO1をやったらこう言う展開にしたくなった
反省も後悔もしてない
あ、異世界人と言葉が通じてるのはラリーの脳に異世界の言語がジェーンによってインストールされたからと思ってくれ




