娘の複雑な心境
更新遅くなってすまん
ラリーが単独で遅滞戦闘を実行し、時間を稼いでる頃。
エレナ達はビアーヌと共に脱出の為に走り続けて居た。
幸いにも走ってる間。オークを始めとした敵に阻まれる事は今の所は無かった。
そんな中で走り続けていると、後ろを走るビアーヌから提案とも言える声が挙がる。
「もう少し走ったら休むわよ!」
「解ったわ!」
指揮官としてエレナが同意する。
皆から反対意見は出なかった。あのターミネーター達に追い回され続け、命からがら逃げてから休み無しで走って居たのだから当然だろう。
そうして暫く走り続けると、ビアーヌとエレナ達は止まって休息を取り始める。
皆が其々、渇きを癒す為に水をグビグビ飲んでる中。エレナは思い詰めた表情を浮かべて居た。
私のママは普段名乗ってる書類上の名前は偽名で、国籍もウクライナから帰化してる事になってるけど、実際はロシア人だ。
後、私の名前……エレナ・パブロヴァナは書類上の本名と言う事になってるけど、パブロヴァナはママが名乗ってる偽名で、記録には残らない真名みたいなのがあったりする。
普通なら有り得ない。誰もがそう思う。
でも、私のママは普通の経歴じゃない。勿論、あの男……私の父であるラリー・ウェスティンも普通の経歴ではない。
ソレを知ったのは中学生の頃。私がパパの事を聞いた時だ。
当時の私は小さい頃から気になってた事を思い切って聞いた。
ママは全てじゃないだろうけど打ち明けてくれた。ママの昔の事とパパの事を……
その時、ママからパパを棄てたのは自分だと言ってたのも今も覚えてる。
でも、私はその言葉を今も信じられずに居る。
だけど、同時に「パパは貴女の事を既に知ってるだろうから、貴女が危険な目に遭った時に必ず助けに来る。でも、貴女の事を娘として認めようとは決してしないだろうし、日常生活で貴女の前に姿を見せる事も決して無い」と、言う事も聞かされた。
その時、私は当然の疑問として尋ねた。
ママは何でパパを棄てたのか?と、パパは何で私達に会おうとしないのか?を……
ママは「愛してるからよ」と、答えてくれた。
正直、今もその意味が解らない。
だから、私は感情を爆発させて実の父親に対してクソ野郎と思わず怒鳴ってしまった。
なので、日本に帰る事が出来たら謝りたい。
そして、ママの答えた事の意味を知りたい。
そう思ってる私が居る。
中学生の頃に母親であるソフィアから聞かされた事を思い出すと共に両親から真相を聞きたい事や、クソ野郎と怒鳴ってしまった事を謝りたい。
そう思っているエレナの表情に気付いたのだろう。金子 彰は心配そうな様子で尋ねる。
「エレナさん、大丈夫?」
「大丈夫よ」
心配掛けまいと大丈夫。そう返すと、今度は長谷川 千束が尋ねる。
「あの兵隊のイケオジを見た時から様子が可笑しいのは、気のせい?私達と直ぐには行かずに残ってたのもソレが関係してるんでしょ?」
助けられた時のエレナの異変に気付いていた。
そう言わんばかりに長谷川 千束が問えば、エレナは意を決した様子で仲間達へ正直に答える。
「あの助けてくれた人……ママの元彼で、私の父親なのよ」
エレナが正直に答えれば、皆は驚きを露わにしてしまう。
「あのイケオジがエレナのパパなの!?」
女子達が異口同音に驚くと、金子 彰は驚きながらも尋ねる。
「エレナさんのお父さん、何者なの?それにどうやって異世界へ来たの?」
「異世界へ来た方法は解らないわ。だけど、ママから聞いた通りなら、破壊工作と暗殺。それに誘拐や戦闘に長けた凄腕のプロで金額次第で何でもやる冷酷非情な男よ……」
エレナから語られた内容を聞くと、金子 彰は「まるでバーン・ノーティスやブラックリストの住人」だ。と、好きな海外ドラマを挙げて思った事をそのまま口にしてしまう。
そんな金子 彰にエレナは補足する様に言う。
「其処にタイラー・レイクも足して。人質救出も仕事にしてるそうだから……」
「そんな人が此処に来た理由は私達の救出なの?」
飯島 由紀が当然の疑問を口にすれば、エレナはラリーとの遣り取りを振り返りながら答える。
「私達の救出はついでの様な口振りだったわ。多分だけど、誰かしらを殺しに来たのが本命なんだと思う」
ソフィアとラリーと言う凄腕のスパイの娘であるエレナが両親譲りの頭の回転と共に答えれば、飯島美樹が予想される可能性を恐る恐る口にした。
「勇者として召喚された者達を殺す為にこの世界の神に雇われたとか無いよね?」
あって欲しくない仮説を口にすると、エレナは「否定出来ないけど」そう前置きした上で否定する。
「あの人はママから聞いた通りなら、私達が標的だったら助けないであの場で私達を皆殺しにしてる筈よ」
「なら、私達は助かるの?」
飯島 由紀が希望を見出した様子で問えば、エレナは「あの人が私達を殺そうとしなければ」そう答えた。
そんな遣り取りを傍から眺めていたビアーヌはエレナに尋ねる。
「貴女達、あの人型のバケモノからよく逃げ切れたわね?」
「初撃で魔法が通じなかったから、一目散に逃げた。そしたら助かったのよ」
エレナが正直に答えると、ビアーヌは感心してしまう。
「貴女達なら直ぐに凄腕の冒険者になって稼げるようになるわね」
ビアーヌから見れば、未だ1ヶ月程度しか経験の無い新米冒険者達が攻撃が通じない相手に対し、一目散に逃げると言う選択を躊躇わずに取れるというのは珍しかった。
それ故にビアーヌはエレナ達ならば、直ぐに高ランクの冒険者になれる。そう太鼓判を押す。
そんなビアーヌにエレナは尋ねる。
「ええと……」
「ビアーヌよ」
「ビアーヌさん。貴女とあの人の目的は何ですか?」
エレナが前置きを抜きにして単刀直入に尋ねれば、ビアーヌは正直に答える。
「勇者を名乗る世界の敵の処理よ」
その答えを聞いた瞬間。エレナを除く面々は警戒心を顕にしながら武器を手にし、ビアーヌを睨む様にして見詰める。
そんな視線を浴びるビアーヌは安心させる様に告げる。
「安心しなさい。貴女達は標的じゃないから」
「そう言われて信じる人は居ないと思いますよ」
エレナが警戒心と共に返せば、ビアーヌは涼しい顔で問い返した。
「貴女も言ってたでしょ?彼が貴女達も標的としていたら、助けずにさっさと殺してるって?」
ビアーヌから涼しい顔で返されると、エレナは油断する事無く長剣の柄に手を掛けながら反論する。
「そうですけど、油断を誘う為に助けたって、可能性だってありますよね?情報を得る目的とかで……」
「確かにその可能性はあるわね。でもね……」
そう告げると同時。ビアーヌはエレナの目と鼻の先まで一瞬で迫るや、何時の間にかナイフを握り締めていた右手でエレナの白い首筋に刃を添え、告げる。
「こうして簡単に殺せるんだから、情報が欲しいなら1人か2人だけ残して貴女ともう何人かを殺せば良いだけの話よ」
そう告げたビアーヌはエレナの首筋に優しく添えていた刃を遠ざけると、ナイフを鞘に収めてエレナから離れた。
一瞬にして手玉に取られたエレナが己の弱さに悔しさを噛み締めると、ビアーヌはエレナ達へ改めて告げる。
「貴女達は依頼人の温情によって標的から外されてる。だから、私や彼に殺される心配は無用よ……でも、貴女達の同胞達は悪虐を重ね続けている。それ故に殺す。貴女達からすれば、複雑な気分でしょうけどね」
ビアーヌから改めて告げられると、エレナ達はどうすべきなのか?悩んでしまう。
そんな彼女達を気にする事無く、ビアーヌは指揮官の如く告げる。
「さぁ、休憩は終わりよ。早くここから出ましょう」
ビアーヌから話は終わり。そう言わんばかりに言われると、自分達が未だに危険な状況にある事を思い出したのだろう。
エレナ達は反論する事は無く、ビアーヌと共に再び走り出すのであった。
「アイツ等、上手く逃げ切ったかな?」
そう独りごちるラリーは銃口から硝煙を立ち昇るバレットM107の弾倉を詰め替えながら、撃破したターミネーター達の向こう。前方奥を見詰める。
敵の姿は無かった。足音も聞こえて来ない。
そうして粗方片付いた。と、判断したラリーは走り出す。
走ってる時に背後から慌ただしい足音が再び響いた。
ラリーが直ぐに振り返ると、ブレードを手にしたターミネーターが2体やって来た。
直ぐにバレットM107を構えたラリーは躊躇う事無く引金を2度引いた。
耳を劈く2発の銃声と共にターミネーター達は頭を撃ち抜かれ、その場にドサッと崩れ落ちる。
すると、そんな後ろにもう1体のターミネーター……重火器で武装したタイプが居た。
ソレを視認すると同時。既に狙いを定めていたラリーが引金を引いて3発目を放てば、重火器で武装したターミネーターの頭部が破壊され、その場に崩れ落ちる。
「さっさと逃げるとしよう」
後、何体居るのか?解らない。
現時点。今のも合わせれば、30体近くを撃破したラリーにすれば、さっさと逃げたいのが本音であった。
それ故に背後を一頻り警戒し、安全である事を確認してから再び走り出す。
バレットM107を手に持ち、予備弾薬等が詰まって重いバックパックとMk18。それに20発近くの40ミリ榴弾が詰まったクレイモアバッグを背負って走るのはキツかった。
この戦闘前には足早に戦闘しながら休む事無く前進を繰り広げて居たのだから当然と言えた。
しかし、ラリーは老いたその身を鞭打ち走り続ける。
そうして一頻り走って4階層目まで戻ると、水道の水を一口だけ飲んで唇を濡らすと共に渇きを癒した。
それから深呼吸をして速く鼓動をさせる心臓を落ち着かせると、再び走り出していく。
時折、後方を警戒しながら走り続けて行く。
敵。もとい、ターミネーターが追って来る気配は無かった。
もう大丈夫か?そう思いながら、ラリーがFASTヘルメットを脱ぐと、微かながらも鼓膜をローター音に叩いて来た。
その音に気付いたラリーは直ぐにFASTヘルメットを被り直すと、Mk18を手に取ってセレクターをフルオートに合わせてフラッシュライトを点して構え、来た道を照らす。
フラッシュライトに照らされ、4つの小さなローターを回転させて飛んで来るドローンが見えるとラリーは直ぐに引金を引いた。
くぐもった銃声が連続して3度響くと共に3発の5.56ミリNATO弾が放たれる。
その3発の内の1発がドローンに命中すると、貫かれたドローンはその場に落ちて爆発した。
「畜生!今度はカミカゼかよ!!?」
悪態を吐く様にラリーが怒鳴ると、今度は6機のカミカゼドローンが突っ込んで来る。
ラリーは即座に引金を引き、弾幕を浴びせていく。
放たれた弾によって2機撃墜すると、その2機が爆発し、後方から来た残りのカミカゼドローンが誘爆した。
そうしてホッとした時だ。乾いた銃声と共にラリーの胸に激痛が走る。
ラリーは撃たれた衝撃で倒れながらも、Mk18を構えて撃って来た相手を見る。
其処には小型の銃を装備したドローンがホバリングしていた。
ラリーは即座に撃ち返して撃墜すると、直ぐに立ち上がって逃げる様にして走り出す。
時折、後ろを振り返っては追跡して来るドローンを撃墜し、また走る。
そんな繰り返しを延々と続けながら走り続け、4階層目から脱出して3回層目に辿り着いたラリーは休む事無く走り続ける。
3回層目ではドローンとターミネーターの混成部隊が追い掛けて来た。
ラリーは3回層目にある小さな部屋まで駆け抜けると、バックパックをその場に下ろしてからリロードをしていく。
そうしてMk18とバレットM107に弾を込め直すと、バックパックを通路の左脇まで引き摺って自身は左脇にしゃがんで本格的に反撃する体制を整えた。
そして、やって来る混成部隊に向けて引金を引き、徹底抗戦を始めるのであった。
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