予定変更
サブタイ通りの内容
信じられるか?
未だ、現地入りしてから約2日と数時間しか経ってないって……
トレモアスとの昼餐と言う名の会合を終え、帰宅してから3時間が過ぎて夕方になりつつある頃。
トレモアスの告げた勇者が宿泊しているホテル。其処から数百メートルほど離れた所にある安宿の最上階の一室で、ラリーは暢気な様子でベッドに横たわって寛いでいた。
そんなラリーへ、人間の若い女性。ハッキリ言うなら、娼婦に扮するビアーヌが尋ねて来る。
「何で此処に泊まるのか?説明してくれない?」
そう問われると、ラリーは暢気に寛ぎながら返した。
「今日は花火が見れる様だからな。折角なんで、特等席から眺めようと思ったんだ」
「花火?」
ラリーの答えにビアーヌは首を傾げてしまう。
それも当然だろう。
今日は祭りの日ではない。
勿論、花火を打ち上げる予定も無い。
それ故にビアーヌは首を傾げてしまった。
だが、直ぐに気付いて察したのだろう。
ラリーへ確認する様に問うた。
「それ、貴方が帰って来た後にコソコソしてたのと関係あったりするのかしら?」
その問いにラリーは答えなかった。
だが、代わりに双眼鏡を差し出しながら指示を飛ばして来た。
「コレで向こうに見えるお高い宿を監視してくれ。最上階の中央付近の窓だ」
そんな指示を受けると、ビアーヌは訝しみながらも直ぐに言われた通りの行動を取る。
すると、双眼鏡越しに見覚えのある勇者の顔が窓辺に見えた。
「例の勇者よ!」
ビアーヌが声を荒げて報告すると、即座にベッドから立ち上がったラリーは"四角い何か"を手にしてからビアーヌの隣に立つと共に問う。
「今も部屋に居るか?」
「居るわ」
ソレを聞いたラリーは、手にしていた"何か"。
否、無線式の点火器の安全装置であるトグルスイッチをカチッと鳴らすと、間髪入れる事無く。その下にある小さな赤いボタンを何度も押した。
その瞬間。ビアーヌの視線の先で木霊する爆発音と共に宿の最上階部分が跡形も無く消し飛び、5階建ての高級宿が4階建てと化した。
双眼鏡越しに自分が目の当たりにしたモノが未だに信じられない様子のビアーヌは、顔を青褪めさせながら恐る恐るラリーに尋ねる。
「貴方がやったの?」
「高級宿って割にはセキュリティ緩かったからな……簡単だったよ」
さも当然の様に涼しい顔で言って退けて肯定したラリーに対し、ビアーヌは悍ましいモノを見るように見詰めてしまう。
そんなビアーヌにラリーは淡々と告げる。
「確実に殺る為にも、アレは必要だった。どんな能力を持ってるか?流石に其処まではトレモアスも解らなかったし、俺としては安全第一で始末したかったんでな……まぁ、他の標的達にプレッシャーを掛ける目的もあるけど」
淡々とプロのロクデナシとして告げるラリーが行ったのは一言で言うならば、爆弾による暗殺である。
遣り方は簡単。
約10キロ程の高性能爆薬が詰め込まれたアメリカ製の対戦車地雷であるM15。それに100グラムのC4爆薬を初めとした幾つかの材料を用いてパパっと工作し、無線起爆式のIED……そう言える爆弾へと数分で変貌させる。
それから標的の宿泊するホテルへ赴き、清掃員に成りすましてコッソリ忍び込む。
その後。標的の宿泊する部屋へ清掃道具を手に堂々と入れば、部屋を掃除してから見付かり難くも効果を最も発揮する所に爆弾を仕掛け、その後に痕跡を消す様に掃除してから涼しい顔で立ち去る。
そして、今の様に標的が部屋に入った所を見計らって起爆すれば完了だ。
そうした一連の行動はラリーにとって、実に簡単。ニンジャスレイヤーの様に言うならば、ベイビーサブミッションな作業と言えた。
そんなラリーに対し、ビアーヌは益々悍ましさを覚えながら嫌味をぶつける。
「あの連中より、貴方の方が邪悪だとは思わなかったわ……」
「否定はしない。だが、生憎と俺よりも邪悪な奴は世界中に掃いて捨てるほど居る。ソイツ等と比べたら俺なんか可愛い妖精だ」
いけしゃあしゃあと宣うラリーにビアーヌは問う。
「例えば?」
「そりゃあ、手始めに俺を雇う様な奴に決まってる。特に綺麗事を息をする様に宣いながら、手を汚すのが嫌だからと言う理由で嫌な汚れ仕事を押し付ける事ほど邪悪な行いは無いだろ」
涼しい顔で嫌味と皮肉をタップリ込めてシニカルに返せば、ビアーヌは反論出来なかった。
そんなビアーヌに対し、ラリーは話題を変える様にして告げる。
「まぁ、そこら辺の意見の相違はどうでも良い事だ。さて……改めて通知するが、トレモアスは俺の要求を呑んでくれた。その御蔭で俺達は悠々と国境を通過出来る様になる」
ラリーから告げられると、ビアーヌは確認の為に問い返す。
「貴方の言う合法的な密入国が出来る。その認識で良いのね?」
その問いにラリーは当然の様に肯定した。
「あぁ、連中は流石に其処までアホじゃない。だから、教国から正式に派遣された司教を殺すなんて真似は出来ない。ソレをすれば、大義名分を得た教国は各国に号令を掛けて戦争を仕掛けられるんだから当然だな……」
確かに勇者達の持つ異能による戦力は、脅威の一言に尽きるだろう。
だが、ラリーによって師走田が殺された事でゾンビ達の大群による蹂躙は出来ない。その為、世界を敵に回して勝てるだけの兵力は無いに等しく、戦争を避けざる得ない。
それ故に王国を掌握するクサナギとトージョウは、入国しようとする教会関係者に手出しは出来ない。と、ラリーは踏んでいた。
そんな思惑の根拠を知ると、ビアーヌはラリーの性格の悪さにまたも呆れてしまう。
「貴方って性格が悪いとか言われたり、友達が居なかったりしない?」
ビアーヌの言葉に対し、ラリーはアッケラカンに肯定した上で問う。
「あぁ、両方とも事実だな。だが、良い手だろ?」
その問いをビアーヌは素直に認めた。
「えぇ、文句の付け様がないわ。世界を支配しようとするトージョウにとっても、トージョウを利用して王城で目的を果たそうとするクサナギにとっても、教会関係者に手を出すのは厄介事の始まりにしかならないんだから当然よね」
政治力と軍事力。
国家を1つ掌握すれど、その2つが大いに欠けてる状態で世界征服する事はトージョウにとって、自殺行為も同然。
更に今は目立たぬ様に目的に歩を進めたいクサナギからしても、世界が敵に回っての戦争状態になるのは目的達成の大きな障害となる。
そんな2人が苦虫を噛み潰した様な顔をする状況を作り出さんとするばかりか、その状況を利用して悠々と密入国を画策するラリーの手腕は、ビアーヌに見事と言わざる得ない程に見事と言えた。
だが、問題が無い訳じゃなかった。
「その代わり、1週間は動けない」
「1週間は動けない。って?」
ビアーヌが問えば、ラリーは情報共有の為に事情を語る。
「トレモアスは俺の要求を呑んでくれたが、準備の為に1週間欲しいと言われた」
ラリーから1週間は動けない事情を聴くと、ビアーヌは「何だ。そんな事か」そう言わんばかりに納得したかの如く言う。
「そう言う事なら仕方無いんじゃないかしら?」
「まぁ、コレばかりは仕方無いんだが……俺としては早急に終わらせたいんでな。1週間もの暇が産まれたお陰で、俺は手持ち無沙汰になっちまってる」
トレモアスが要求を完了させるまでの1週間。
その間、待機せざる得ない事にラリーは不満を覚えていた。
「俺の仕事も動いてるより、待機の時間が長かったりするから慣れてるとは言え、手持ち無沙汰で暇な状態で待つのは苦手なんだ」
そうボヤくラリーにビアーヌは呆れ混じりに返す。
「贅沢ね。1週間大人しく待てば、堂々と密入国出来るんだから良いじゃないの……」
「そりゃ、そうなんだが……俺の事情的に悠長にする暇は無いんだよ」
ラリーの事情。
ソレはソフィアの娘であるエレナの事に他ならなかった。
そんな事情を察してか?ビアーヌはラリーに提案する。
「なら、その1週間を利用して貴方の恩人の娘であるエレナを保護するか?他の標的達を処理して廻れば良いんじゃないの?」
「良い案だが、残念な事に俺は両方の居場所を知らない」
ラリーが残念そうに返すと、ビアーヌは報告する様に告げる。
「エレナとその一党は此処から歩いて数日の所にある街を拠点にして、古代文明の遺跡を探索しているわ」
ビアーヌの言葉を聞いた瞬間。
ラリーは直ぐにトランクから地図を取り出すと、場所を尋ねた。
「何処だ?」
「この街よ」
ビアーヌが指を差して示した共和国内にある北部の街……グラースルの位置を見ると、ラリーは現在地であるシェルドンとグラースル間の距離を地図上で測り始めた。
地図上で距離を測り、更には大まかなルートを選びながら大まかな距離を脳内で算出すると、ラリーは思案する。
ハンヴィーをかっ飛ばせば、1日で到着する距離だな。
グラースルまで1日として、捜す期間には……余裕を持って3日。
3日間捜索し、見付からなければ引き上げる。で、帰るのに1日。
5日間の行程なら、本命の仕事にも間に合うか?
其処まで考えると、ラリーは自分の中にある天秤が傾いていくのを感じながら更に思案を重ねていく。
あのドローンで俺達の逃げ込んだ先が此処だと、バレてる可能性は濃厚と見るべき。
俺達の現在地はバレてる状態と仮定するなら、近い内に殺し屋なり暗殺者なりが差し向けられる可能性も高いと仮定した方が良い。
そうなると、俺達の居場所や思惑を撹乱させる為にも違う所へ移動する方が良いか?
其処まで思案を重ねたと共に己の天秤が完全に傾いたのを感じると、ラリーは決断を下した。
「予定とは大きく異なって申し訳無い気持ちになるが、エレナと一党の救出を先に実行する」
ラリーの決断を聞くと、ビアーヌは反論を挟まなかった。
寧ろ、それを予期していたかの様に2枚の用紙を見せながら告げる。
「そう言うと思って、グラースルまでのチケットを2人分買っといたわ。今から30分後の最終便よ」
ビアーヌから鉄道のチケットを見せられると、ラリーは驚いてしまう。
そんなラリーを気にする事無く、ビアーヌはアッケラカンに言う。
「邪悪なロクデナシなのに、貴方は恩人の娘を助けたいんでしょ?なら、さっさと行って解決すれば、本命に対して本腰入れて集中出来る……違うかしら?」
ビアーヌから嫌味を込めて言われると、ラリーは感謝の言葉を述べた。
「ありがとう。君が居て、とても助かる」
「じゃ、さっさと行きましょう」
そう言う事になれば、2人は部屋を後にした。
それから暫くして部屋を引き払って安宿を後にすると、ラリーはビアーヌに導かれるままに駅へと歩みを進めていく。
そうして15分後に列車が停まる駅に到着すると、ビアーヌは嬉しそうにしながらラリーに告げる。
「貴方が資金提供してくれたお陰で一等車が取れたわ」
自分の資金提供に感謝する様に言われると、ラリーは悪くない気分であった。
そんなラリーは未だ夕食を食べていない事を思い出すと、ビアーヌに尋ねる。
「ソレは良かった。所で食堂車はあるか?」
「えぇ、あるわよ」
「そりゃ、良かった」
そう返すと同時に乗車時間が訪れれば、2人は一等車の高級感溢れるゆったりとした広さを持つ一等客室に乗り込み、席に着いた。
それから多数の人々が自分達の席に着き終えてから数分経つと共に発車時刻が訪れ、列車は静かにゆっくりと走り出し始める。
そうして走りながらも段々と加速する列車は、時速130キロと言う速度で目的地へ向けてレールの上を駆け抜けて行く。
そんな列車の一等車の高級感溢れるゆったりとした個室席に座るラリーとビアーヌの2人は、到着後どうするのか?話をしていた。
「到着後は宿を確保。その後は翌朝まで自由行動としよう……」
「ソレは構わないけど、良いの?」
「あぁ、夜に捜すよりは明るい内に捜し回る方が良いだろ?それに……」
「それに?」
「流石に疲れた。若い頃は平気だったが、流石に歳を食った今では体力の大きな衰えを嫌でも感じてしまってな……」
ラリーは既に50。数ヶ月後には51歳となる身だ。
それ故、数十年前の若き頃と比べれば、体力の大きな衰えを嫌でも認めざる得ない。
そんなラリーにとって、前回の仕事の疲れが残ったままの状態で現地入りしてからの約2日と数時間は、疲労困憊を迎える寸前まで追い込むには充分過ぎた。
そんなラリーに対し、ビアーヌは懐疑的な目を向けながら思った事をそのまま口にする。
「その割には元気そうに見えるけど?」
「単に気合いで痩せ我慢してただけだ。流石に歳だから、其処まで長持しなかったがな……」
その答えにビアーヌは呆れてしまう。
「貴方が言うと、嫌味にしか思えないわ」
「そうか?まぁ、良い……流石に腹が空いたんでな、食事にしないか?」
「良いわ。食堂車へ行きましょう」
2人は席を立って一等客室を後にすると、腹を満たしに行く為。食堂車へと歩みを進めて行く。
食堂車に着くと、2人は空いてる席に向かい合って座った。
それから直ぐにメニューを見詰めると、ラリーは何を食べようか?決め倦ねると共に実の娘に対し、どう声を掛けるべきか?考えていく。
だが、父親として名乗る気は無い事を改めて思い出せば、普段の仕事の様に振る舞えば良い。そう結論付けると、ラリーは暢気な様子で何を食べようか?考えるのであった。
1週間という待ち時間を活かせるなら、活かした方が効率的と言うね…
とりま、ビアーヌさんが優秀すぎるんよ←
あ…冒頭の爆破に関しては、ラリーが他の標的達へプレッシャーや恐怖を与える為に敢えて爆弾テロった…狙撃でも良いのに関わらず←
M15対戦車地雷は中に10キロ近くの高性能爆薬が詰まってるのでIEDとして使えば、そりゃあもう威力抜群。
爆心地の近くに居たら、跡形も無く消し飛ぶ。
勿論、建物だって無事じゃ済まない




