昼餐と言う名の会合
昼餐…"ちゅうさん"と読むこれは、やや改まった昼食会を意味する
街中に教会とも呼べる神殿が鳴らす鐘の音が響き、街に居る者達へ昼を報せていく。
そんな昼を報せる鐘の音を響かせた神殿へ遣いに誘われるまま足を踏み入れると、トレモアスが自らラリーを迎えてくれた。
「ようこそお越し下さいました」
「お招き戴きまして、誠にありがとう御座います。大司教」
ラリーがトレモアスへ丁寧な言葉遣いで挨拶すれば、トレモアスは自ら案内役となった。
「さぁ、どうぞ……此方です」
ラリーがトランクを手にしたままであるが、トレモアスはソレを見ても遣いに出した者を咎める事は無かった。
そんなトレモアスに導かれるまま神殿の食堂へ進むと、席へ案内された。
「どうぞ……」
トレモアスと言う昼餐に招いてくれたホストが許しを与えれば、ラリーは優雅な所作で席に着いた。
それから直ぐに席に着いたトレモアスは、値踏みする様な視線と共に改めてラリーに感謝の言葉を告げる。
「此度は私の細やかな昼食の招待を受けて戴きまして、誠にありがとう御座います」
「此方こそ、昼餐の御招待。誠に痛み入ります」
互いに上品な所作で挨拶を交わすと、見計らった様に2人の前へカトラリーが並べられていく。
スプーンやフォーク。それにナイフが綺麗に並べられると、程なくして2人の前に前菜とも言える皿が置かれた。
2人が静かながらも気品に満ちた優雅な所作で前菜である生ハムとサラダの盛り合わせを暫くした後に食べ終えると、次の皿とも言える湯気の立つスープが来る。
前に置かれたコンソメスープも音を立てる事無く。スプーンに掬って静かに啜ると共に静かな時間が過ぎていく。
暫くして、空になった皿が下げられれば、トレモアスが互いを隔てる沈黙を破る様にして口を開いた。
「失礼ですが、貴方の事は何とお呼びすれば宜しいですかな?」
「私の事はマイケル・アックス。長いのでマイクとお呼び下さい」
ラリーが丁寧な口調で答えれば、トレモアスは改めてラリーの名を口にした上で問う。
「改めまして、マイク様……貴方は我々の力を借りたい。そう仰っておりましたが、具体的な望みは何でしょうかな?」
その問いにラリーは答えた。
「王国へ入国したいのです。表向きは合法で、悪事を働かぬ者達が入って来たと言う形で……」
遠回しとも言える答えを聞くと、トレモアスは確認する様に問う。
「それは、私共の持つ身分を利用したい……そう言う事ですかな?」
トレモアスが問えば、ラリーは肯定。それから更に続けて望みを口にする。
「はい。それに伴い、私達が合法的に入国するに見合う理由も有れば助かります」
ラリーの肯定と望みを聞くと、トレモアスは快諾してくれた。
「良いでしょう。丁度、私共の方で王都に駐在する司教達と連絡が途絶えてから一月以上も経っている事を議題に挙げています。なので、名目は本国からの視察。または書類を届けに行く……その様な形でよろしいですかな?」
教国本国は王国に赴任する司教や大司教達と連絡が途絶えてから、一月以上も経っていた。
その為、状況確認も兼ねて本国からのメッセージを届けるメッセンジャーと言う、大概の者達が手出し出来ない理由を用いるのはどうか?
そう問うたトレモアスに対し、ラリーは肯定する様に感謝を述べる。
「ありがとう御座います」
「では、貴方は司教。貴方と共に居たダークエルフの彼女は、貴方の部下と護衛を兼ねたシスターと言う形で本国からの書状を携えた使者と言う形で行きましょう」
トレモアスの答えは、ラリーにとって文句無しと言わざる得ないモノであった。
司教と言う身分を本物が偽装してくれる上に、本物が完璧な書類と理由を用意してくれるのだ。
此処まで合法的で完璧な密入国方法が使えるならば、勇者達に掌握された王国の兵達であっても早々手出しは出来ない。
そんな要求を快諾してくれたトレモアスは、ラリーに語り掛ける。
「貴方様は600年前に我等が女神シェルタリーズに導かれし、御使い様とは毛色が違うようですな……」
トレモアスの言葉にラリーが答える事は無かった。
沈黙を以て答える気は無い事をラリーが告げると、トレモアスは言葉を続ける。
「貴方様は不遜と思われるでしょうが、私共と同じ様に思えます」
トレモアスは長年の経験から、初めてラリーを見た時に自分と同じ様な世界で生きて来た者であると薄々ながらも察していた。
そして、ラリーが要求するモノを聞いた瞬間には確信を覚えた。
そう告げられたラリーは心の中でゲンナリしながらも、トレモアスの気分を害さない様に言葉を慎重に選んで答えた。
「私は貴方達とは違います。私は私欲の為に仕事をしますが、貴方達は仕える女神の為に仕事をしています」
同業である事を肯定しながらも、トレモアス達の様に高潔ではない。
そう告げると、ラリーはグラスに注がれた水を一口飲んで唇を湿らせてから更に言葉を続けていく。
「しかしながら、私は先程も言った様に私欲で働いてる。正直申しまして、貴方の様な高潔とは正反対に居るのが実情で御座います」
ラリーの丁寧ながらも一緒にするな。
そんな言葉を聞いて、ソレを察しながらもトレモアスはラリーを否定しなかった。
「御謙遜をおっしゃいますな。確かに貴方様は私欲で働いてるのでしょう……しかし、その私欲から救われた者達が居り、ソレが神の御意志ならば、貴方様の行いは尊ばれるべきである。私はそう思います」
独りの神職者として己を卑下する様に言うラリーを諭す様にトレモアスが返せば、ラリーは紳士の様に返した。
「ありがとう御座います。トレモアス大司教」
此処で話は一旦終わりだ。
そう告げる様にラリーが感謝の言葉を告げれば、トレモアスは助け舟を出す様に応じてくれた。
「そろそろ、主菜が来る頃でしょう。難しい話は食後にすると致しましょう」
その後。
トレモアスの言う通りに主菜である牛のソテーと共に2人分のパンが来れば、2人はソレに舌鼓を打った。
そうして、主菜とパンを平らげれば、デザートであろうティラミスが置かれた。
それから少しして、程良い甘さのティラミスを堪能し終えた所で食後酒として水とは別にあったグラスにワインが注がれれば、話の続きが始まる。
「さて、マイク様。貴方が望むモノに関してで御座いますが、申し訳無い事に今日一日で用意するのが些か難しいのが正直な所で御座います」
トレモアスから直ぐには用意出来ない。
そう告げられると、ラリーは白ワインの注がれたグラスの台座に手を乗せてグラスを小さく揺らしながら尋ねる。
「如何ほど待てば宜しいですかな?」
「そうですな……1週間戴けるでしょうか?」
1週間後に全て揃う。
そう聞かされると、ラリーは承諾した。
「1週間ですね?解りました」
承諾したラリーにトレモアスは申し訳無さそうな面持ちで感謝の言葉を述べる。
「ありがとう御座います。そう仰って貰えると助かります」
「その代わり、完璧な状態でお願いします」
「勿論で御座います。必ずや、1週間後に全て揃えて御期待に添える事を御約束させて戴きます」
トレモアスの言葉に「御厚意痛み入ります」と、改めて感謝の言葉を述べたラリーにトレモアスは告げる。
「そう言えば、このシェルドンにも王国から来た召喚されし勇者が居ります」
その言葉にグラスを手にワインの薫りを愉しんでいたラリーの手が止まる。
「かの者は、今は冒険者という事で活動しており、現在はこの街で一番の宿に逗留しているとの事です」
自分の持つネットワークを駆使して、今現在この街に勇者が居る事をさも当然の様に告げるトレモアスにラリーは内心で感心した。
流石は教会の暗部を司る長と言うべきだろうな……
アッサリと調べ上げてやがる。
そんなラリーにトレモアスは更に言葉を続ける。
「その者は今朝方、王国から書状が送られてましてな……その内容は王都にて同胞が複数人殺害された。犯人は神が差し向けた殺し屋。危険だから早急に王城へ戻れ。そんな内容で御座います」
サラッと王城から送られたメッセージの内容を教えるトレモアスに対し、ラリーは益々感心してしまう。
ホント、優秀な人だ。
こんな優秀な人が率いる連中が敵に廻ったら、1日でも生きてたら奇跡だわ……
同時に心の底から安堵もしてしまった。
当然だろう。
此処は異世界なのだ。
自分の持つコネは無いばかりか、地球で長年培って来た逃走技術も使えない。
例え、ハンヴィーの機動力を活かして形振り構わずに逃げたとしても、こうして直ぐに居場所を掴まれてしまうのだ。
敵に回せば、確実に死ぬ。
それを理解したが故に、ラリーは心から安堵したのであった。
そんなラリーを気にする事無く、トレモアスは更に告げる。
「その者は手紙を受け取った後。その場で棄てたので御座います。恐らくですが、王城へ戻る気は無いのでしょう」
ソレは報告であると同時に、殺害しろとの要求でもあった。
そんなトレモアスの言葉に対し、ラリーは快諾で返した。
「喜んで処理させて戴きましょう」
「そう言って戴けると助かります。その者は宿を未だ引き払っておりませぬ。代金は明後日までの分を支払っているとの事……恐らく、明後日には引き払うかと思われますな」
何処に泊まっているか?
そればかりか、何時まで逗留するのか?それすらも当然の如く告げるトレモアスにラリーは問う。
「その分ですと、私が王国で無様に逃げた事すらも御存知の様ですな?」
その問いにトレモアスは「御冗談を仰有る」そんな、全てを承知している。
そう取れる言葉で返すと、称賛の言葉を告げた。
「貴方様は邪悪な者達を僅かな間に9名も殺害しておられる。その内の3人は王国近隣に住まう他国の無辜なる罪なき人々を虐殺し、その死すらも弄んで国を簒奪せしめた理から外れし外道。その様な者等を女神シェルタリーズに代わって裁きを下した貴方様が無様と言うのは、些か無理が御座います」
全てを見通すかの様に昨日の事を言葉にし、称賛するトレモアスにラリーは謙遜も込めた上で本心から答える。
「そう仰って貰えると嬉しいのですが、残念ながら無様な逃亡と言わざる得ないのが現状で御座います」
そう返せば、トレモアスは諭す様に返した。
「過ぎた謙遜は嫌味になります。お控えになられた方が宜しいでしょう……さて、件の邪悪なる者は現在、此処から北へ行った所にある迷宮に居ります」
諭すと共に標的の居場所を教えれば、ラリーは感謝する。
「ありがとう御座います。トレモアス大司教」
感謝したラリーはワインを一口飲むと、クチュクチュと口の中で転がしていく。
そんな姿をトレモアスが咎める事は無かった。
寧ろ、感心すらしていた。
「ふむ。貴方様の優雅な所作を見て感じてましたが、やはりそうでしたか……貴方様は高度な教育や訓練を受けているのですな」
その言葉にワインの香りと味を楽しみ終えたラリーは謙遜と共に返す。
「大した事じゃありませんよ。私は学んだ事をそのまま利用しているに過ぎません」
「御謙遜を。貴方様の所作は貴族内であっても充分に通じます。王族に晩餐へ招かれても問題無い程の所作はそう見れるもので御座いませんよ」
ラリーはスパイだ。
時には、こうした催しに参加する事もある。
それ故にラリーはテーブルマナーを熟知している。
そんな所作に感心した様に言うトレモアスにラリーは感謝の言葉を返した。
「そう仰有って戴けると助かります」
そう返すと、ラリーとトレモアスは会話を肴にしてワインを味わっていくのであった。
昼食に招かれたラリーはスパイとして高度な教育を受けてるので、テーブルマナーも完璧だったりする…育ちは良くない。寧ろ、悪いけど←
で、そんなラリーはトレモアスの力に本心からヤベェと理解する羽目になってる(マジレス
実際問題、暗部を担う長が本文中に見せた力は絶対に敵に回したくないと感じるぞ
昨日の事を手に取る様に知っていて、その際の死んだ連中が何者か?それすらも知ってるとかね、諜報系組織としてはハイレベルなのよ…
だからこそ、トレモアスが率いる異端審問の暗部に対してラリーはメッチャビビってるし、敵に回らずに済んでくれて心から安堵してるのである




