楽しいドライブ
1時間進んでは、10分休憩。
そんなルーティンを2度繰り返し、ラリー達は森を抜けて平原に出る事が出来た。
その間、追っ手の姿は何故か無かった。
そればかりか、森の外にも敵の姿が無かった。
そんな状況に違和感を抱きながらも、空を見上げて不審なモノが無いか?確認してからラリーはジェーンが残してくれたトランクからハンヴィーを取り出す。
「何じゃ、こりゃ?」
「共和国の列車?いや、全然違う」
ロダンとビアーヌが目の前に現れたM1114 ハンヴィーに驚きの声を漏らすと、ラリーは後ろのドアを開けて2人に乗る様に告げる。
「さっさと乗れ!今の内に距離を稼いでおきたい」
そう告げられれば、2人は直ぐに後部座席に乗り込んでいく。
2人が乗り込んだ事を確認すると、ラリーは直ぐに運転席に乗り込んでエンジンを始動させた。
「何じゃ、この耳障りな鈍い音は?」
ロダンが文句を言うと、ビアーヌは驚きと共に感じた事をそのまま漏らしてしまう。
「え?魔力の気配を感じない?コレも魔法を使ってないの?」
そんな2人の言葉を他所にラリーはサイドブレーキを解除してシフトを入れると、ステアリングを握ってアクセルを踏み込んだ。
アクセルが踏まれると共にハンヴィーが勢い良く走り出せば、ロダンとビアーヌは驚いてしまう。
「何じゃコリャ!?馬なんて目じゃない速さじゃぞ!?」
「共和国の列車と同じくらいの速さで走ってる!?」
初めてのクルマが齎してくれた速さに2人は益々驚いてしまう。
本当ならば楽しく会話をしながらドライブと洒落込みたかったラリーであるが、今は急いで逃げる事を優先してハンヴィーを走らせる。
そうして10分もしない内に数十キロ離れた所まで逃げる様にして来ると、ラリーはブレーキをゆっくりと踏み始めた。
それから程なくしてハンヴィーがゆっくりと停車すると、ラリーはサイドブレーキを掛けてからシフトをパーキングに入れて完全停車させた。
そして、エンジンをアイドリングさせたまま地図とコンパスを取り出すと、ラリーは地図を見詰めて現在地とシェルドンの位置を確認していく。
今居るのは此処で、シェルドンは此処。
このまま数分ほど真っすぐ走ってから、右折して30分直進。その後にトイレも含めた休息を取る。
それからは再びハンヴィーで移動して、この森を目指す。
そして、今晩は森の中で夜営する。
現在地とシェルドンの位置を確認した後。大まかながらも進むルートも含めた運航計画を立てると、ラリーは地図とコンパスをしまった。
それから直ぐにサイドブレーキを解除してシフトを入れると、再びアクセルを踏んでハンヴィーを走らせるのであった。
ハンヴィーが走ってる間。昨晩の様に沈黙が車内を支配していた。
すると、そんな支配を破る様にラリーが口を開いた。
「なぁ、さっき共和国の魔導列車がどうとか言ってたのが聞こえたが、この世界にも列車があるのか?」
ラリーが2人に向けて問い掛けると、共和国の列車を口にした張本人であるビアーヌが答える。
「はい。シェルドンから暫く進んだ所にレギウス共和国がありまして、其処に魔導列車と呼ばれる大人数と大量の荷物を遠くまであっという間に運べる乗り物があるんです」
ビアーヌがハキハキと答えたのを聞くと、ラリーは驚いてしまう。
「マジかよ。この世界にも鉄道が敷かれてるとか驚きだわ」
ラリーが驚いた様子で言うと、ビアーヌは更に続けて答える。
「此処……ラナウス王国は他の国と比べると国土は広く、穀倉地帯を有してるとは言え酷く田舎な上に物資も困窮してるおり、更には貧困が蔓延してますが、他の国々はとても恵まれてます。まぁ、シェルドンと共和国内にしか貴方の言う鉄道は敷かれてませんがね」
ビアーヌが語った内容に違和感を覚えたラリーは尋ねる。
「君は何で、其処まで詳しいんだ?」
ラリーから問われると、ビアーヌはアッケラカンに答えた。
「此処へ赴任する前は様々な国を転々としてたんです。マイケルさんも察してるでしょうが、私のビアーヌと言う名前もマイケルさんと同様に偽名な程に私は間諜としてはベテランですから」
自らの口でビアーヌは偽名である事を明かし、更にはラリーが自分と同じ間諜の世界で生きて来た者だと察している事を匂わせる事を告げる彼女にラリーが驚く事はなかった。
寧ろ、愉快そうであった。
そんな愉快な様子のままラリーは、ズバリ尋ねた。
「その口振りだと、俺を利用しようと思ってるのか?それとも、君も隣に座る彼と同様に俺がジェーン・ドゥと呼ぶ彼女が用意した協力者なのかな?」
その問いを受けると、ビアーヌは感心した様子で認めた。
「其処まで見抜いてましたか……」
「半分はカマかけだけどな」
ラリーがそう返すと、ビアーヌは当然の様に問う。
「残り半分は?」
「そうだな……長くなるけど、良いか?」
その問いにビアーヌは快く「どうぞ」そう促せば、ラリーは語っていく。
「先ずは間諜狩りが行われ、命辛々に逃れたと君は言った」
「えぇ、言いました」
「だが、君は危険な王都内に何故か残り続けていた。普通ならあり得ない……正体がバレた以上、一目散に王都から安全な所へ逃げ出すべき状況なのにだ」
正体がバレたスパイに待ち受ける運転は悲惨極まりない。
それ故、正体がバレたスパイは一目散に逃げる。
捕まれば、惨たらしい拷問の末に殺されるのだから当然と言えるだろう。
しかし、ビアーヌは何故か今まで王都に残り続けて居た。
ソレをスパイとして生き、知るからこそラリーは違和感を覚えると共に根拠として語った。
ラリーの根拠を聞いたビアーヌは王都に残り続けていた理由を答えてくれた。
「残っていたのは貴女の依頼人である彼女が、私と彼を救出してくれると約束してくれたからもあります」
「からも?と、言う事はやっぱり別の本命の理由は別にあるのか?」
内心で何となく察した様子のラリーが問えば、ビアーヌは肯定の意味も込めて答える。
「例の勇者達を探っていたのです」
ビアーヌが答えれば、ラリーは得心がいったのだろう。
スッキリとした様子で言う。
「成る程。ジェーンの提供してきた情報が偉く精度が高い謎は君のお陰と言う訳か……感謝しとくべきかな?」
「でしたら、依頼を必ず遂行して下さい。それこそが私の望みです」
ビアーヌから告げられると、ラリーは快諾する。
「喜んで引き受けよう。だから、ジェーンや君達が其処までしてクサナギって野郎に死んで貰いたい理由を教えてくれないか?」
快諾した上で、真意を問うたラリーにビアーヌが答える事は無かった。
「残念ながら私も貴方と同じ雇われの身なのです」
「…………そう言う事にしといてやるよ」
そう返すと、ビアーヌの姿が変わる。
年輩の女から黒い肌を持ち、尖った耳を持った美人のダークエルフへと変わった。
そんな様子をバックミラー越しに目の当たりにすると、ラリーは呆れてしまう。
「ファンタジーってのは何でもアリなんだな」
呆れるラリーに何故かビアーヌが呆れた。
「貴方の戦い方だって私から見れば、充分にファンタジーですよ……魔法を用いずに地形を変える程の爆発を起こし、勇者の1人を血煙に変えてるんですから」
「俺の世界じゃ、ありふれた日常の一コマでしかないんだがな……」
ラリーがシニカルに返すと、ビアーヌは思い出した様に尋ねる。
「そう言えば、貴方の口振りでは他にも根拠がある様に聞こえたんですが、お聞かせ願えますか?」
その問いにラリーは悪戯っぽい笑みを浮かべて返した。
「単純な話だ。単なる女中がアレだけの距離を歩いて文句を1つも言わない事や、アレだけ派手にドカンとやったにも関わらず、遠ざかるどころか俺と都合良く合流して来たり……兎に角、引っ掛かる点が幾つもあったとだけ言っておく」
自身もCIAにてスパイしていたからこそ、見破れた事を根拠という形で見せれば、ビアーヌは納得してくれた。
「成る程。勉強になりました」
「因みにだけどシェルドンへ向かうって話はどうするべきだ?」
ラリーが問うと、今度はロダンが答えた。
「ソレは継続だ。其処にアンタ用の隠れ家を用意してあるんでな」
「叔父貴の話は嘘か?」
「叔父貴ってのが嘘なだけだ。実際は弟が其処の顔役をしてるし、着の身着のまま逃げ出す羽目になっちまったから頼らざる得ないのも本当だ」
「そう言うことなら、このままシェルドンへ向かうぞ」
ラリーはそう返すと、静かにハンヴィーを走らせる。
ハンヴィーを暫く走らせていると、ラリーは思い出した様にビアーヌに尋ねた。
「そうだ。君をなんて呼ぶべきだ?」
「ビアーヌで結構です。今回の仕事が終わるまで、この名前で通す方が楽なので」
「だと思った。一応、聞くが……兵隊共が踏み込んで来たのは君の仕業か?」
ラリーの思わぬ問いに対し、ビアーヌは本心から否定する。
「いいえ。アレは私も予期せぬ出来事でした。ですが、貴方の腕前が素晴らしいモノである事をこの目で確認出来たのも事実ではありますが……」
ビアーヌが正直に本心から予想外の出来事であった。
だが、その御蔭で素晴らしい腕前を見る事が出来た。
そう聞かされれば、ラリーは「俺程度、俺の世界じゃ沢山居るぞ」と、恐ろしい事を言ってから更に続ける。
「つーことは、ジェーンの仲間か上司の何れかに裏切者が居るって事になるんだろうな……」
「私からは何とも言えません」
「まぁ、そっちはジェーンが始末してくれるだろうから気にしなくて良いか……因みにだけど、君は魔法を使えたりするのか?俺のしてる事に魔力を感じなかったと言う口振りと、さっきの変身から察してるつもりではあるが」
その問いにビアーヌは肯定した。
「えぇ、攻撃と治療の両方を使えます」
「そりゃ、良かった。あ、もう一つ……君はこの後、どうするつもりだ?」
ラリーが当然とも言える。と、同時に確信のある疑問をぶつければ、ビアーヌはラリーの予想通りの答えを告げて来る。
「私も貴方の依頼に同行します。無論、貴方に付き従う部下と言う形です」
ビアーヌが部下として仲間になってくれる。そう聞かされると、ラリーは心から喜んだ。
「ありがとう。人手が足りなかったから非常に助かる」
実際問題として、自分独りで残りの勇者達と他多数を相手にするのは荷が重過ぎた。
望みが叶うならば、今直ぐにでも地球に戻って信頼出来る腕の良い顔馴染み達に声を掛けて周り、戦力を整えたいくらいに荷が重過ぎた。
だが、その望みが叶わない。
それ故にビアーヌと言う優秀な女性が部下として仲間になってくれたのは僥倖と言えた。
そんなラリーにビアーヌは尋ねる。
「貴方の様なタイプはキチンと人手を集めてから仕事に臨むと思うのですが、何故、仲間が1人も居ないのです?」
その問いにラリーは不愉快そうに答えた。
「俺だってそうしたかったんだが、ジェーンのアホが駄目と抜かしやがってな……そのせいで俺は面倒を全部背負い込む羽目になっちまったんだ」
「ならば、その重荷を全部とは言いません。ですが、少しでも軽くなる様に努力をしましょう」
「ありがとう。君の献身を大いに期待させて貰う」
重荷が半分になってくれた事に対してラリーは本心から感謝の言葉を述べると、ステアリングを廻して右折させた。
そうして進路変更が済めば、シェルドンへ向けて運行予定通りにハンヴィーを走らせ続けようとする。
すると……
「やはり……」
走るハンヴィーの後部座席でビアーヌが呟いた。
そんな呟きにロダンが尋ねる。
「どうした?追手か?」
「さっきまで自信が無かったけど、敵の使い魔と思しき気配がある」
ソレを聞いた瞬間。
ラリーは即座にブレーキを思い切り踏んでABSを掛けながらハンヴィーを急停止させると、急停止に驚いたビアーヌに尋ねる。
「何処からだ?」
「後方上空。数は1つです」
ビアーヌが位置と数を答えれば、ラリーは助手席からバラクラバを取ると、それを被って顔を隠してからMk18と一緒に置いていたダットサイト付きのベネリM4を掴み取った。
それから直ぐにセイフティを解除したラリーはハンヴィーから降りると、見上げて空を見詰める。
空には鳥と思わしき姿が1つだけあった。
ラリーは目を凝らして鳥を見詰める。
すると、鳥は何故かその場で旋回飛行を始めた。
そんな様子にラリーは辟易としたボヤきを漏らしてしまう。
「まさか、ファンタジーな世界でもドローンに警戒する事になるとはなぁ……つーか、ドローン運用するなら複数使え。ド素人が」
ボヤきを漏らしたラリーは空を見上げる様にしてベネリM4を構える。
ダットサイト越しに飛んでる鳥の姿と軌道を確認すると、タイミングを見計らって引金を2度引いた。
喧しい銃声が2度響くと共に銃口から2発分の散弾が吐き出されれば、程なくして鳥はボトッと地面に落ちていく。
そんな様子を何時の間にか、ハンヴィーのタレットから身を乗り出して居たロダンが見ていた。
ロダンは鳥が落ちた様を見た後にラリーの持つベネリM4に視線を移すと、確認するかの様に問う。
「お前さんのソレや、さっき持っとたんは、やは り銃じゃったか……」
その問いに対し、ラリーは引っ掛かるモノを覚えながら肯定すると共に尋ねた。
「そうだ。この世界にも銃があるのか?」
「600年前に勇者の1人が使っとった。で、ソレを作ろうとしたワシの同胞が居たりしとるよ……」
ロダンが肯定すると共に爆発発言をして来ると、ラリーはゲンナリとしながら問い返す。
「マジか……つー事は、この国の軍にも配備されてるのか?」
ラリーの問いにロダンは安心させる答えを詳しい説明を交えて返してくれた。
「この国の軍には無い。ソレ以前に銃っつうんは使ってた勇者……ビリー・スワガーっちゅうんじゃが、ソイツが言った通りの金食い虫過ぎるのと、必要な物が多過ぎて貧乏な所じゃ持てん」
銃と言うのは金食い虫だ。
手始めに弾が無ければ、重過ぎる文鎮にしからならない。
その弾を作るにしても、火薬と弾頭の材料となる金属が欠かせない。
そして、その火薬を大量に揃えるのに莫大なコストが掛かる。
ソレ以前に銃自体を作る為に必要なコストも莫大なのだ。
そうした観点が巨大過ぎる障害となり、この国では配備されてない事を聞かされれば、ラリーは少しだけホッとすると同時。
ロダンから出た聞き覚えのある名前にゲンナリとした。
「此処でビリー・スワガーの名前が出るとはな……」
「お前さん知っとるのか?」
ロダンが驚き混じりに問えば、ラリーは自分の知るビリー・スワガーが、ロダンの言うビリー・スワガーと同一人物か?確認する様に問う。違う事を願いながら……
「ソイツ、俺と同じ年頃と背丈で白髪交じりの黒い髪。目の色は茶で顔の此処らへんにデカい火傷の痕があって、左耳が一部欠けてたりしないよな?」
ラリーの確認を聞くと、ロダンは非常に驚いた様子で問い返した。
「お前さん、会った事があるんか!!?」
「知ってるも何も、この仕事引き受ける前に一緒にヤマ踏んだ」
この依頼の前に行った東南アジアで共にヤマを踏んだ仲間の1人が、件のビリー・スワガーであった。
そんな彼が今も存命である事を聞くと、ロダンは言葉を失いそうに何処か嬉しそうな様子で絞り出す様にして漏らした。
「あやつ、未だ生きとったんか……」
「ロダン、その時のビリーは何を持ってた?」
「確か……レミントンの何とかアーミーと言っておった」
朧気な答えを返すロダンにラリーは問う様に言う。
「ニューモデルアーミーか?」
「それじゃ!!」
「他に何を持ってたか解るか?」
「そうじゃのう……お前さんのとは趣きが正反対のライフルっちゅうのを持っとったの」
「それ、こんな感じで次の弾を撃つか?」
ラリーはそう問うと、西部劇の顔とも言えるレバーアクション式のライフルを撃つ様なパントマイムをした。
それを見たロダンは興奮気味に肯定する。
「そんな動きじゃ!!」
「マジか……まさかアイツ、西部劇の時代から生きてんのか?」
現代でレバーアクション式のライフルや|パーカッションリボルバー《レミントン》で人間と戦う者は探せば居るだろうが、滅多に居るもんじゃない。
ラリーが最後に見た時のビリー・スワガーはM4A1を持ってたし、格好も今の自分の様にプレートキャリアを纏ってもいた。勿論、FASTヘルメットも被っていた。
それ故にラリーはビリー・スワガーが"西部劇"の時代から生きているのではないか?そう思ってしまった。
だが、今の仕事には無関係。
そう結論づけると、ラリーはロダンに席へ戻るように告げてから運転席に乗り込んだ。
そして、再びハンヴィーを走らせるのであった。
早速多大な貢献をしてくれたビアーヌさんよ…
とりまラリーから見ても、ビアーヌ(偽名)さんはスパイとして腕は超一流枠。度胸もそこら辺の男と比べ物にならんし、断然ある
後、戦闘つうか殺しにも長けてると見るべき…と、ラリーは感じていたりもする
さて、ビリー・スワガーとやらに関しては…
現在はラリーの様なフリーランスで食ってる荒事の専門家をしてる。後、一話目で出たビリーと同一人物であるとだけ言っとく
多分、今は仕事明けなのでアーカンソーの行きつけの酒場で酒を飲んでたり、自分ちのある山の中で狩りをして次の仕事まで暇潰してると思われる




