第六話 お似合い
「……えっ!?」
「ま……まさか……」
同級生たちと婚約者たちは、驚きの声を上げた。その表情に満足しながら、俺はメガネを外すと髪を直す。先日、笑った相手が第三騎士団長だとは思わなかったようだ。俺の名前はクラウス・アジェルト。アジェルト公爵令息であり、第三騎士団長である。
「で、でも、なんで……」
「ア、アジェルト様が?」
自己紹介をしたのだが、如何やら俺の言葉が聞こえていなかったようだ。同級生たちと婚約者たちは、俺とクレハ嬢の関係を理解出来ていないようである。
「クレハ嬢と私が、婚約関係にあるからですよ」
俺はもう一度、分かり易く優しく教える。団長という立場上、部下に指示を出すことは多い。偶には作戦に納得できない者たちも居る。加えて、俺は最年少22歳で団長になった。年下の俺の命令に従えない者が存在する。そういう際の対処法としては、穏やかに話し合うことだ。
「……あ、あの……」
「その……」
先日笑い者にした『婚約者』の正体が俺だと分かり、同級生たちと婚約者たちは焦り始める。しかし謝罪を口にすることはない。
「皆さん、ご卒業おめでとうございます。卒業されれば、貴族として立場ある人間として振る舞うことが必要となります。ですから……単なる噂を信じて、人を誹謗中傷するのは止めましょうね?」
俺は優しく釘を指す。笑い者にされたことは然して気にしていない。クレハ嬢への謝罪を求めることは簡単だ。しかし、本人たちが自覚しない謝罪など意味はない。
「私の仕事が激務な為、クレハ嬢には寂しい思いをさせてきました。しかし彼女は我儘の一つも言わずに、私の無事を祈り待っていてくれるのです。クレハ嬢が待っていてくれると思うと、自然と力が湧き上がるのですよ。任務の成功は、クレハ嬢のお陰と言ってもいいでしょう」
折角の機会だ。俺は日頃から思っている気持ちを告げる。俺は騎士団では、婚約者であるクレハ嬢のことを話すことはない。年上の副官が時々話題を振ってくるが、彼女について教えるのが嫌で話していないのだ。正直な話、可愛い婚約者を自慢できる相手は居ない。その為、この場でクレハ嬢の悪評を晴らすと共に自慢する。
「ク、クラウス様!? それは言い過ぎです……」
「事実ですよ」
クレハ嬢が顔を真っ赤にしながら、俺を止める。だが俺はそうは思わない。第三騎士団は魔物の討伐が主な任務である。それに比例して離職率が高いのだ。団長として団員たちの命は守るが、激務が続けば心の支えが必要になる。剣術や魔法の強さだけでは、団長は務まらない。クレハ嬢という存在は単なる婚約者という立場ではなく、それ以上に俺の心の支えとなっているのだ。
「さて……ここで、質問です。私とクレハ嬢は、如何見えますか?」
俺は同級生たちへと質問をする。
「た、大変お似合いのおふたりです!」
「はい! 美しいおふたりです!」
「お二人は素敵だと思います!」
「団長様にはクレハ嬢しか考えられません!」
同級生とその婚約者たちは背筋を伸ばすと、口々に俺たちを褒め称える。その言葉に満足気に頷いた。




