第五話 卒業パーティー②
「……えっ、クラウス様? 急なお仕事があったのでは?」
クレハ嬢は振り向くと、ガーネット色の瞳を見開いた。如何やら俺が来るのが予想外だったようだ。急な仕事が入り、念の為に送った手紙により俺が訪れることはないと思っていたのだろう。安心をさせる為に送ったのだが、逆に不安にさせてしまったようだ。
「クレハ嬢に会いたくて、早々に終わらせて来ました。遅れてしまって、すいません」
俺は胸に手を当てると、一礼する。普段会う時は、お互い形式的なことを控えるようにしているのだ。だが他の人々がいる、この場において形式は必要である。一人称も公的なものへと切り替えているのは、そういう理由だ。
今日に入った緊急の仕事は辺境に出た魔物の討伐だ。移動魔法で移動し、魔物の群れを討伐した。
「い、いえ! それよりも、クラウス様に御怪我はありませんか?」
「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」
クレハ嬢は俺の体調を気にかけてくれる。相変わらず優しい。緊急の仕事ではあったが、村にも被害はなく。直ぐに終えられた。
「流石はクラウス様ですね。その……お疲れのところ、来ていただけて嬉しいです」
「私も今日を楽しみにしていました。……卒業おめでとうございます。その……ドレス似合っていますね」
優しく微笑むとクレハ嬢は、俺が卒業パーティーに来たことに関しての礼を口にした。今日は可愛い婚約者の門出である。来ない理由はない。その為、緊急の仕事は魔法で一掃するという力技を行った。副官は苦笑していたが、婚約者の晴れ舞台に間に合わせる為である仕方がない。
「ありがとうございます。クラウス様から頂いたこのドレス素敵で……」
「気に入ってもらえて私も嬉しいよ」
ドレスに関して感想を口にすると、クレハ嬢は照れながら微笑んだ。喜んでもらえて何よりである。可愛らしい反応に頬が緩む。
「あ! あのっ! 第三騎士団長様ですよね!?」
「そうですよね!? もしかして最年少で団長になられた、アジェルト公爵令息様ではありませんか!?」
クレハ嬢に癒されていると、同級生たちが俺に対して声を上げた。
「先日の国境沿いでの魔物討伐の記事見ました!」
「俺たち第三騎士団長に憧れています!」
何故か、彼女らの婚約者たちまで俺に話しかける。如何やら彼女、彼らは俺の会ったことを覚えていないようだ。
「嗚呼、お久しぶりですね」
俺は彼女らに顔を向ける。
「……え?」
「お、お会いしたことありましたか?」
同級生たちと婚約者たちは、首を傾げた。俺は前髪を乱し、懐から伊達メガネを取り出し掛ける。
「クレハ嬢の『婚約者』クラウス・アジェルトです」
彼らに笑顔を向けた。




