第四話 卒業パーティー①
「本当に大丈夫だろうか……」
俺は卒業パーティーが行われている会場の扉の前で、独り言を呟く。クレハ嬢とデートをした日から一週間が経った。今日はクレハ嬢の卒業パーティー当日である。緊急の仕事が入り対応して駆け付けた為、会場に入るエスコートをすることができなかった。
あの日、その後のデートはぎこちない雰囲気になり、クレハ嬢からの申し出により早々に解散となったのだ。俺を理由に彼女が笑われたことを詫びようとしたが、止めた。そのことで、より彼女に気を遣わせる結果が予想できたからだ。何とも情けない話である。
俺はクレハ嬢の笑顔が好きだ。好きな人を困らせたくない。
その為、俺がクレハ嬢の隣に居ても笑われないようにする決意をした。服装やセンスがある副官にアドバイスを貰い、女性の扱い方のレクチャーを受けたのだ。この一週間、仕事の合間に学んだことである。時間にしては足らないというのが本音だが、クレハ嬢のダンスパートナーを務めるのは俺しかいない。
一つ疑問があるとすれば、結局今日の装いが仕事着であることだ。式典用の物であるが仕事着には変わりない。更には、髪型も仕事時と同じである。このことに俺は首を傾げたが、副官が正装だから問題ないと言うため口を噤んだ。
洒落たことをしたとすれば、クレハ嬢の瞳と同じ色のピアスを身に付けていることである。それ以外は、俺にとっては何時も通りだ。
「はぁ……練習通りにやるぞ……」
些かの不安はあるものの、俺はマントを翻すと扉を開けた。
○
「えっ……あれって……」
「もしかして……」
卒業パーティーの会場には大きなシャンデリアが輝き、卒業生とその保護者たちが談笑している。如何やらダンスタイムには間に合ったようだ。会場に足を踏み入れると、遅れて入場した俺へと注目が集まる。
俺はそれらの目線を無視すると、探知魔法を使いながら婚約者の元へと足を進める。普段は使わないが、今は一刻でも早く彼女に会いたい。ダンスタイムが何時始まるか分からないが、その時に傍にパートナーがいなければ不安にさせてしまうからだ。
人混みを避けて歩いていると、前方にクレハ嬢の後ろ姿が目に入った。探知魔法を解くと、歩調を速める。俺が贈ったブルーサファイア色のドレスを着てくれているのが嬉しい。
「あら? クレハ様? 何故、お一人なのかしら? 例の『婚約者』は、ご一緒ではないのかしら?」
「いや、ですわ……そんなこと聞いたらクレハ様が御可哀想ですわ! あの『婚約者』では恥ずかしいから、お一人で参加されていらっしゃるのですから!」
クレハ嬢に例の同級生たちが、それぞれパートナーを連れて話しかける。如何やら一週間前の、俺のことでクレハ嬢を貶しているようだ。俺の浮きたった気持ちが邪魔され、少し苛立ちを覚える。
「……クラウス様はお忙しいのです。どうそ、私には構わず楽しんでください」
同級生たちの悪意ある言葉に対して、クレハ嬢は冷静に対応する。後ろ姿である為、彼女がどの様な表示をしているかは分からない。だが、俯き肩が震えていることからも、俺の所為で要らぬ怒りを抱えていることが分かる。
「やっぱり! 『婚約者』から愛想を尽かされているというのは本当だったのね!」
「嫌だわ! 本当! 卒業したら、そんな人とやっていけるのかしら?」
大げさに悪評を流そうとする同級生たち。パートナーである婚約者たちも、同じように下卑た笑み浮かべていることも始末におけない。
「……いい加減に……」
「お待たせしました。クレハ嬢」
彼女が何か口にしょうとしたタイミングで、俺の可愛い婚約者へと話しかけた。




