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この見合いなんとしてでも阻止します  作者: hayama_25


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第9話

「相変わらず綺麗だね」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。


会わないと誓ったはずなのに、こうしてまた会ってしまっている。


前回の別れがなかったかのように。


「当たり前でしょ」


私は、いつものように強気な言葉で返した。


それは、反射的な防御だった。

本当は、照れていた。


でも、そんな素直な感情を見せるわけにはいかない。


彼の前では、常に余裕のある女でいるべきだった。


そうでなければ、きっと私は彼に飲み込まれてしまう。


だから、誇らしげに髪をなびかせてみせた。

私の唯一の誇れるもの。


「そのワンピース、やっぱりよく似合ってる」


彼の言葉に、思わず目を伏せた。

このワンピースは、彼が送ってきたもの。


白くて、可愛らしくて、まるで私の好みを知っているかのようだった。


「私は何着ても似合うの」


彼が送ってきたこのワンピースは、お見合いの時とは正反対の私だった。


あの時の私は、拒絶する準備をしていた。


濃すぎるメイク、派手すぎる色。

誰もが一歩引くような威圧感。


「お見合いにそのようなドレスを着て行ってはいけません」


「お見合いに行くのは私よ?」


あの時のコーディネーターとのやり取りが、今でも頭に残っている。


それでも彼は、私を見て「写真よりずっと素敵だ」と言った。


その言葉があまりにも予想外で、思わず笑いそうになった。


滑稽だった。

私の計算は、何ひとつ通じなかった。


だから今回、私は逆のことをした。


地味なメイク、落ち着いた服装。


彼の好みが“派手”なのだとしたら、今度こそ興味を失ってくれるかもしれない。


そう思っていたのに、彼は、また「綺麗だ」と言った。


彼は、何を見てそう言ったのだろう。


私の見た目?

それとも、私の中にある何か?


その答えが、怖くて、聞けなかった。


でもそれよりも、彼の言葉の“本当”を知りたいと思ってしまった自分が、何よりも怖かった。


「璦さん?」


彼の声に、現実に引き戻された。


「…あ、いや、何でもない」


何でもない。


そう言いながら、心の中では嵐が吹き荒れていた。


彼とこうしてまた会ってしまっている。


結婚のことはおいといて、偶に会うぐらいならしてあげてもいい。


なんて、結局私は心を鬼にしきれなかった。


彼の優しさに触れるたびに、私の“壁”は静かに崩れていく。


いつか別れは来ると分かっているのに。


「じゃあ行こっか」


「えぇ、」


彼の腕に手を通した瞬間、その温もりが私の心を静かに揺らした。


彼の腕は、しっかりしていて、安心感があった。


あの日の夜と同じ。


彼の隣は、心地よくて、苦しい。


店の扉をくぐった瞬間、まるで別世界に足を踏み入れたようだった。


外の喧騒が一気に遠ざかり、柔らかな照明が視界を包み込む。


空気は静かで、どこか甘い香りが漂っていた。


クラシックの旋律が低く流れ、重厚な木のインテリアが落ち着いた雰囲気を醸し出している。


その空間は、まるで時間の流れがゆっくりになるような静けさを持っていた。


私は思わず息を呑んだ。


こんなにも丁寧に選ばれた場所に、私が連れてこられたことが不思議だった。


あの時の私は、クラブが大好きで、毎晩のようにVIP席に座っているような女に見えていたはずだった。


実際、そう見えるように装っていた。

濃いメイク、派手なドレス、挑発的な笑み。


だからこそ、今日この場所に連れてこられたことが、私には理解できなかった。


彼は、私の“演じた姿”を見ていたはずなのに。


それなのに、こんなにも静かで、穏やかで、私の本質に触れようとするような場所を選んだ。


まるで、私の“本当”を知っているかのように。


私の好みを、どこまで知っているのだろう。

それとも、ただの偶然?


でも、偶然にしては、あまりにも“私らしい”空間だった。


彼は何も言わず、ただ私の歩調に合わせて静かに歩いていた。


その沈黙が、心地よくて、でも少しだけ怖かった。


この空間にふさわしい自分でいられるのか。

彼の隣に立つことが、私に許されているのか。


そんな不安が、静かに胸を締めつけていた。


「こちらへどうぞ」と案内された席は、窓際の静かな場所だった。


周囲の視線が気にならないように配慮されている。


その気遣いが、彼らしいと思った。


でも、そんなふうに思ってしまう自分が、少し怖かった。


彼の優しさに慣れてしまったら、私はきっと、もう戻れなくなる。


席に着くと、彼はメニューを開いて、私の顔をちらりと見た。


「好きなものを頼んでいいよ」


その言葉に、私はすぐに返事ができなかった。


何を頼めば嫌われるだろうか。

頭の中には、それしかなかった。


でも、何を見てもそれふさわしいメニューで、

嫌われることなんてできそうになかった。


だから、少しだけ時間をかけて、無難な料理を選んだ。


それが、彼の期待に応えてしまうようで、少しだけ悔しかった。


注文を終えると、彼は静かに私を見つめていた。


その視線が、優しくて、まっすぐで、私は思わず目を逸らした。


彼の目は、私の外側ではなく、内側を見ているようだった。


誰にも見せたことのない部分を、彼だけが見ようとしている。


それが、どうしようもなく怖くて、でもどこかで嬉しくて。


だから、私は目を逸らすしかなかった。

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