#棒バトワンドロの会_うごメモ以外
僕の住んでいた村は、棒人間によって滅ぼされた。
”棒化”という現象があった。
一部の特殊な才能を持った人間は”棒人間”へと姿を変えることが出来る。
自らの筋骨格を著しく収縮させ、自らの筋骨格率を相対的に向上させる。その過程で細胞の奥深くに眠っていたメラニンが表在化し、全身を覆いつくす。
メラニンとは、ホクロやシミなどの要因となる黒色細胞のことだ。それが、全身の細胞と言う細胞を埋め尽くすのである。
その一連のプロセスを経て、彼等は漆黒の皮膚に覆われた細長い四肢を持つ存在——”棒人間”へと姿を変えるのだ。
”棒化”と呼ばれる能力を有した能力者は、瞬く間に力を持たぬ人間を蹂躙した。
シロという少年は、その棒人間によって居場所を奪われた者の一人だった。
「……なんで」
仲の良かった友達。
大好きだったあの子。
慈しみをもって、多大なる愛情を注いでくれた両親。
その安寧の日々は、棒人間によって蹂躙された。彼らの残虐なる暴力には、何の力も持たない一般人には無力だった。
ただの記号でしかなかったはずの存在に、瞬く間に僕達の日常は奪われたんだ。
紅蓮の炎に包まれた村跡地の中、生き残ったのは僕一人だけ。
焼けただれた家屋の残骸が、燻る煙を高く募らせる。血肉の焼け焦げた、どこか酸味のある匂いがツンと鼻腔を貫く。
人間”だった”ものの欠片が、あちこちに飛び散って散乱している。それは、バラバラに解体されたマネキンのようだった。
「……どうして、こうなったんだ」
記憶に残るのは、残虐性を隠すことなくひけらかした棒人間の姿。
彼らはまるで玩具で遊ぶかのように、皆の命を弄んだ。
ふと、僕の家があったはずの場所にふらりと立ち寄った。
そこにはもう、どこか落ち着くあの日の匂いを感じ取ることは出来ない。
泣きたいのに、涙すら零すことも出来なかった。
「……母さん」
焼け焦げて崩れ落ちた家の中から、僕はかつての名残を見つけることが出来た。
それは、ひとつのペンダントだった。どれだけくすんだ世界の中でも、ペンダントに嵌め込まれた藍色の宝石が放つ輝きだけは消えることなく、陽光に照らされる。
母がいつも身に着けていた、唯一かつての日々を思い起こすことの出来るアイテムだった。
「……僕は、戦うよ」
形見のペンダントを、静かに首へと掛ける。
復讐は何も生まないという。
だけど、復讐と言う行為。それ自体が、僕に力を生み出そうとしていた。
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長い、月日が経った。
漆黒の外皮に身を包む、棒人間は崖下から自らを見上げる少年を見下ろした。
「遅かったな」
「……何故、お前は皆を殺した」
少年は藍色のペンダントを握りしめ、明確な敵意の元に棒人間を睨む。
だが、自らの優位性を理解しているのだろう。棒人間はもはや元の顔すら理解できないほど、真っ黒になった皮膚の下で口元をにやりと歪ませた。
「お前、じゃねえ。俺には”クロ”という名前がある」
「お前の名前などどうでもいい。何故村の皆を殺した。何が目的だ」
少年の問いかけに”クロ”と名乗る棒人間は「くくっ」と含み笑いを零す。
「シロ。お前が目的だよ」
「僕……?どういうことだ!」
シロと呼ばれた少年は、困惑を怒りで書き換えるように声を荒げた。
「お前を見た瞬間に、俺は興奮したよ。ああ、これが運命の出会いなのかと!お前が俺の心を満たしてくれる存在なのかと!!」
「何を言っているっ!お前は何をっ!!」
「これほどまでに純粋な人間は見たことが無い!お前には才能があるんだ、俺と対等に渡り合う存在である才能がっっっっ!!!!」
「なに、を……言っている……!?」
「あははははははっ!!!!ついに目的は果たされるっ!お前は期待通り現れた!俺に復讐する為に、その力を俺にぶつける為にっっっっ!!!!」
「——っっ……お前は——っ!!」
次の瞬間。
シロの感情の荒振りに呼応するように、その全身の筋骨格に異変が起こっていた。
「っ、ぐ……!」
白銀の髪は皮膚に溶け込み、頭蓋骨と同化していく。四肢の筋骨格は著しく収縮し、筋骨格率はよりその密度を高める。
シロもまた、棒人間としての才覚を花開かせようとしていた。
人間としての姿が失われつつあるシロの姿を見下ろすクロは、より一層楽しげに口を歪ませる。
「ああ、素晴らしい!対等にあろう、シロっ!!」
「——黙れっ!」
怒りの言葉と共に、土煙が高く舞い上がる。
人間離れした跳躍力を手に入れたシロの姿は、棒人間へと書き換わっていた。
彼もまた”棒化”の能力を、後天的に開花させたのである。
ゆうに10mはあろうかという崖上までいとも容易く跳躍して見せたシロは、空中で身体を捻り右腕を後ろに引いた。
「お前だけは、許すものかっ!」
怒号と共に振り下ろされる拳。膂力を活かした一撃は、クロが立っていた空間を激しく穿つ。
舞い上がる土煙と、崩れる岩壁の中。
クロは後方にバックステップし、シロの地面を穿つ一撃を回避する。
「来い!シロっ、その力を存分に見せつけてくれよっ!」
シロから距離を取ったクロは、心底楽しそうに笑っていた。
だが、相対するシロを纏う怒りの奔流は消えるところを知らない。
”棒化”した肉体をコントロールすることが出来ていないのか、時々よろめく様子がうかがえる。だが、その鋭い双眸だけはクロから離れることはなかった。
「お前だけは、絶対に……殺すっ!」
シロは身を屈め、その両脚をバネの如く収縮させて跳躍。
再び距離を縮め、クロへと肉薄する。
棒人間バトルは、始まったばかりだ。
構想:10分。
執筆:50分。
https://x.com/saishi_art/status/1970126896743718914
↑こっちはちゃんとアニメーションで1時間で作成したものです。