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旅立ちの日に

 前略、幼馴染みが魔王を倒して世界を救う勇者に選ばれました。


 これに対し、コメントはただ一つ。

 そうだろうと思ってました。


 だって、こんなにもハイスペックなのに、何もないとかそりゃあ、そんなのありえない。


 村の入口にでどん、と止まっている王家の紋章のある馬車は、空間が丸ごと違うかのように周囲の景色から浮いていた。へたくそな合成写真を見ている気分だ。田舎にそぐわない光景。明らかにただ事ではない。


 そんじょそこらではお目にかかれない綺麗さ。朝から眩しいことこの上ない。

 違和感溢れる光景に、カリーナはちょっと遠い目をした。


 王宮の馬車、キンキラキンすぎるのだが、一体どれだけのお金がかかっているのか。嫌なギラギラさではなく、黒塗りで上品なものだが、そこかしこに付いている金色やら銀色の装飾が豪華すぎて恐怖を感じる。


 田舎ではありえない高級感と綺麗さに、絶対に触らないとカリーナは心に固く決めた。近づくことすらしない。うっかり触れでもしたらことである。


(にしても……)


 カリーナの気になるところはそれだけではない。


(勇者パーティーの人達、本当に全員顔がいいな……。王都って美形しかいないのか?)


 この常にない状況で何を呑気に、と思われるだろうが、カリーナは本当にそこに意識を半分持っていかれていた。

 いわゆる現実逃避だ。


 なお、残りの半分はアドルファスが勇者に選ばれたことである。しかも、昨日の今日で旅に出てしまうのだから、行動力がおかしい。


 んん、と咳払いのように喉を鳴らして、勇者パーティーの一人が声を上げる。

 出発の前に、と前置きをした快活そうな彼は、雰囲気に(たが)わない顔でにっかりと笑った。


「まずは自己紹介からだな! 改めて、俺はヴェイク・ランデル。騎士を務めている。よろしくな!」

「僕はイヴァン。イヴァン・ラメルタだよ。一応、魔術師として魔法師団に所属してる……。よろしくね」

「はじめまして。わたくしは、マリアンヌ・フォン・イヴァルタールです。第一王女という身分ではありますが、お気になさらず。この任に着くにあたって、そんなものは不要ですもの。気軽に接してくださいまし」

「私はアレクシス・ハーシェルだ。私はパーティーに加わるわけではなく、説明役としての同乗となる。短い間だが、よろしく頼む」


(いや、まだ自己紹介してなかったんかい!!)


 昨日、アドルファスと彼らはそれなりに会話していたはずだが、まさか自己紹介すらまだだったとは。


 カリーナたちとはしていなくとも、魔王を倒しに行くメンバー同士、もうその辺りは済んでいると思っていた。全然そんなことはなかったようだ。


 逆に何を話していたのだろうか。恐らく、当たり障りのないことを話していたのだろうとは思うけれど。


 それはさておき。昨日の時点では判明しなかった彼らの名前と身分が判明した。

 聞くだに、どうやら全員貴族らしい。とんでもね〜〜~~メンバー構成である。


 高い身分から順に、我が国の第一王女様、ハーシェル公爵家跡取り、ランデル伯爵家跡取り、ラメルタ子爵家跡取りである。


 錚々たる顔ぶれな上に、勇者パーティーの中に跡取りが二人もいるのだが、大丈夫なのだろうか。


 そして、その中で唯一勇者パーティーに加わらないというアレクシス・ハーシェル。

 ハーシェル公爵家といえば、確か代々宰相を務めるお家である。ハーシェル公爵家跡取りである彼は、次期宰相として説明の任に着いているらしかった。


 こうなると、勇者として選ばれたアドルファスの、アールトス村の村人というステータスが異常に思える。ハイスペックすぎて全く村人感のない幼馴染みだが、出身だけを見れば平凡であり、その身分は、上流階級である貴族から見れば下々の民そのものである。


(勇者パーティーというより、美形パーティーの方がしっくりくるわ)


 さすが高位貴族、顔が整っている。多分、容姿だけでもそれなりに食べていける人種だ。

 そして、その前世の芸能人ばりに顔の良い面々に並んでも、一切見劣りしないアドルファスもすごい。


 私の幼馴染み、顔の造形がよすぎる。


 整っているなとはずっと思っていたが、まさかここまでだったとは。カリーナは密かに感嘆した。引けを取らない所か、むしろ一番顔が整っているまである。


 場の顔面偏差値はインフレしていた。


(聖女様って、まさかの王女様だったのか。いや、えーー……? いいの? 王族を魔王討伐に出しちゃって)


 万が一、死んでしまったらどうするのだ。


 しかし、マリアンヌ王女殿下といえば、確か我がイヴァルタール王国随一の聖魔力持ちであり外向者。神殿にて正式に認められた聖女であるはずだ。勇者と共に魔王討伐の旅をするに、これほど適任な聖魔術師はいないだろう。


 もっとも、王族からも人員を出すことによって、その本気度を示すこと、そしてリスクを同じだけ背負うということのアピールも兼ねているのだろうが。


「見ての通り、わたくしは女の身。けれど、足手まといにならぬよう、精一杯務めさせていただきます。どうぞよろしくしてくださると嬉しいですわ」


(うわ美人……)


 昨日も思ったことだが、造形が違いすぎる。


 カーテシーするその姿は洗練されたもの。その行為一つだけで、王族としての確かな教養を感じる。思わず圧倒された。同じ女という性別であるカリーナですら、可愛いと思うその仕草と表情。容姿もさることながら、その動作一つ一つに女性らしさが漂う。


 所作が優雅なのも、王族となれば教育されるものだろうし、できて当たり前なのだろうが、こちとら美には程遠い田舎者である。

 あんまりにも綺麗すぎて、言葉も出てこなかった。


(胸でっっっか)


 女子力で負けているどころか、全てにおいて負けている。


 勝とうなどさらさら思っていないし、そもそも張り合うほど負けず嫌いでもなければ、張り合う理由もない。ないのだが、なんとなく負けた気分になるのは、曲がりなりにもカリーナが女の子だからかもしれなかった。


 豊かに膨らむ胸元を見て、カリーナはさぞかし良いものを食べているに違いないと思った。思ってから、ハッとしてすぐに目を逸らした。失礼ながらも、つい目がいってしまった。

 だって滅多にお目にかかれない大きさだったのだ。


 それでいてウエストは細いなんて、例えコルセットで絞めているとしても、漫画の中から出てきたのかというスタイルだ。

 しかし、そんなにグラマラスだというのに、マリアンヌにいやらしさは全然ない。清楚に見えるのは、恐らく彼女の纏う雰囲気がそうさせているのだろう。


 貴族で、なおかつ上層階級であればあるほど整った容姿をしているのは、相手を好きに選べるからだ。

 もちろん、平民にだって、整った人はきちんといるのだが。そう、カリーナの幼馴染みであるアドルファスみたいな。


(すごいわ、アデル。主人公適性がありすぎる。…………ん?)


 待てよ、主人公?


 カリーナの中で何かが引っかかった。その引っかかりは、すぐに一つの可能性へと収束する。

 こんなに条件が揃っているというのに、なぜ気が付かなかったのだろう。


 片田舎の男女の幼馴染み。確証もない、小さい頃にした結婚の口約束。物語の主人公さながらのハイスペックな男の子は、勇者に選ばれ、世界を救わんと魔王を倒しに村を出る。勇者パーティーには、聖女様な美人すぎる王女様。

 そして、村に残される幼馴染みの平凡な女の子。


 何もかもがトントン拍子に進んでいく。


 テンプレートをそのままなぞるようなこの流れ。前世で死ぬほど見た展開だ。


(これ、もしかして、いわゆる負けヒロインってやつなのでは?!)


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