幼馴染みが勇者に選ばれまして
予感はしていた。
だって、アドルファスはあまりにも普通ではないので。
何をやらせてもすぐ完璧にこなす上に、その才能に胡坐をかくこともない努力家で、それに鼻に掛けて居丈高な態度になることもしない人格者。
いつも冷静で、優しくて、頼りになる、思い浮かべる限りのハイスペックの見本市のようなカリーナの幼馴染み。
そんな彼を、世界が放っておくわけがない。
そうとも、そんなことはありえない。
でも。だけど。だからって。
「アドルファス・クイン様! 神託により、あなたは勇者となられました。魔王討伐のため、こうしてお迎えに参りました次第です!」
(幼馴染みが勇者に選ばれることなんてある?!)
こんなこと、誰が予想しただろう。
きっと神託を受けた人も驚いたはずだ。まさか王都から遠く離れた村に住む田舎者が、世界を救うための勇者であるなんて。
「勇者……。そうですか。俺が……」
「はい! お会いできて光栄です。今代の勇者殿」
「ああ、いえ、こちらこそお会いできて光栄です」
(やだ、アデルってば超冷静……!)
こんな時でも取り乱すことのないその姿は、やはり非凡である。普通は取り乱すものではないだろうか。
現に、アールトス村の人々は皆一様に驚いている。予想だにしてなかった事態に言葉も出ないようだった。普通こういう反応になるはずだ。
驚くのも当たり前である。
普通よりちょっと優れた方に外れているのが明らかだったとはいえ、まさか村に住んでいる十六歳の男の子が勇者になるなんて、これに驚かなくて何に驚くと言うのだ。
もちろんカリーナだって同じくらいか、それ以上に驚いていたが、これといって大きな反応を示さないアドルファスの様子を見ていると、こちらまで冷静になってしまう。
もっとも、カリーナからすれば、先程の冷静な声音の中に、少しだけ驚いた色が混じっていたので、アドルファス自身も驚いているらしいことは感じ取っていた。
小さい頃から一緒に過ごしてきたからこそ気づいた僅かな変化だ。きっと、他の人は気づいていないだろう。
(でも、まぁ。そうだよね。そんなような気はしてたよ)
なぜなら、アドルファス・クインという男の子は、可能性が有り余るタイプの人間だったから。
まさか魔王を倒して世界を救う勇者という、そんな壮大なスケールのものとして選ばれるとは思っていなかったが。
神託が下ったということは、ほぼ強制に近い。
神様というものは、特別を容易に作り出すが、その特別を得た人間がどうなるかまでは管理しない。
当人が望む望まないは考慮してくれないのだ。
しかし、半ば押し付けに近い特別を与えられた当人であるアドルファスは、それを受け入れた。もしかすると、彼自身もどこかで分かっていたのかもしれない。
己は世界のために、何かを成さなければならない人間なのだと。
本能的に分かっていたとすれば。
アドルファスのことだから、きっと躊躇はしないだろう。
「魔王討伐を共に行っていただけるでしょうか?」
「えぇ、やりましょう」
即答。
少しの躊躇も考える素振りも見せず、間髪入れずに是と答えたアドルファスに対し、勇者パーティーを構成するらしい面々が目を見開く。
やっぱり、と思ったカリーナとは違い、他の人々はその中身は違えど、少なからず衝撃を受けたようだった。
むしろ予想できていたカリーナがおかしいのかもしれない。
その中でも、恐らく勇者パーティーとして選出された人達であろう彼らの驚きが一番大きいようだった。
それぞれの形で驚いた彼らは、半分信じられないような顔で問いかける。
「いいのか? 魔王討伐に向けての旅はかなり過酷だぞ」
「誰かがやらなければならないことでしょう」
「それは、そうだが……」
「それに、神託に選ばれたのは俺なのでしょう? ならば、やらなければなりますまい」
もうこの時点で覚悟が決まりすぎている。
彼の意思はもう固まっていた。それ故に、どれだけ問われてもアドルファスの泰然とした態度は変わらない。
その場にいる全員が心配そうに、あるいは不安そうにアドルファスを見ている中、ただ一人、カリーナだけは妙な確信があった。
(きっとアデルは魔王を倒す。それはもう約束された未来だ)
だって、アドルファスという人間は、主人公もかくやと言った人物で、チート性能を積みに積んだような能力値の高さを誇るのだから。
そうとも。カリーナの自慢の幼馴染みが、魔王とやらに負けるだなんて、そんなこと微塵も想像できないので。
それにしても、である。
(顔もめーちゃくちゃ整ってるし、人としての格というか、能力が違うなって思ってたけど、君主人公かい!!!!)
カリーナの心の声は大騒ぎだった。
なんか違うな、とは思っていた。思ってはいたが、まさかの勇者。これが主人公でなくて、なんだと言うのだ。
主人公だったらしいアドルファスと、凡人も凡人、平凡の象徴のようなカリーナ。例えるなら、カリーナの役どころはモブだ。背景にしかなれない。
あまりの違いに愕然とする。
村の人々は、おめでたいことだ、驚いた、とか、興奮極まれりといった感じで色々と喋っている。全てカリーナも思っていることだが、若干ついていけない。
納得する気持ちと、腑に落ちる気持ちと、誇らしい気持ち。
相反するように、寂しい気もして、なんだか遠くて、苦しいような気もして。
そんなカリーナを置いてけぼりにして、話はどんどん進む。
それを眺めながら、カリーナはへんなりと眉を下げて苦く笑った。
滅多なことでは物怖じしないアドルファスは、もう既に推定勇者パーティーであろう人達と打ち解け始めている。
流石と言うべきか、我が幼馴染みながら社会性が高い。
佇まいや身につけているものから見て、高貴な立場だろう人達と並んでも一切違和感のない姿は、住む世界すら違ったのかと思ってしまうくらいだ。
(アデルは、多分、大丈夫。でも、私は、アデルがいなくても普通に過ごせるかな)
今までずっと一緒にいた存在が急にいなくなって、そうしたら。いつも通りには過ごせない気がした。
十年。
カリーナたちの年齢にとっては長い日々を一緒に過ごしてきたのだ。
いつも顔を見ていた存在。毎日毎日会っていたのに、これからはしばらく顔も合わせないとなれば、そりゃ寂しいに決まっている。
(勇者、かぁ)
現実味のない、その称号。
上手く飲み込めないのは、カリーナが信じたくないとどこかで思っているからかもしれない。
カリーナの自慢で、大好きな幼馴染みの旅立ちは、きっととても早い。
(まぁ…………明日だなんて、そんな早いとは思ってなかったけど!)




